06・足りない
そこから、息を切らした四人が入ってきた。緒方、空、陸、久山だ。会長はいない。
「…」
シンと静まり返る室内。空気が重い。皆、戸惑った様子の四人を厳しい目で見つめている。
「今頃、のこのこと何しにきたんだ?」
沈黙を破ったのは委員長だ。彼の目もとても冷たい。それは隣に座っている秀君も同じで。俺達の為に願ってくれた秀君だから、失望も落胆も大きいみたいだ。
学園内でこういった視線を向けられた事がなかったのだろう。青ざめた四人は委員長の声にビクついた。
生徒会役員の役目を放棄して、転校生といる事を選び仕事をサボった彼等。委員長も以前言っていた事だが、生徒会は学園の柱のようなもので、委員会の中心だ。生徒会がきちんと機能していないと全委員会に迷惑がかかる。例えば、各委員会が何か申請しても生徒会が承認しなければきちんと活動が行えない。承認が遅くなるほどその委員会は身動きできなくなってしまうのだ。今日ここに集まっている人達は各委員会の代表。今は睨むだけでいてくれているが、それぞれ言いたい事はあるだろうな。
大勢の冷たい視線に立ちすくむ四人。可哀想だけど、これは仕方がない。来てくれたのは確かに嬉しかった。だけど、これも自業自得というものだ。俺も無表情のまま彼らを見つめた。
ふと、緒方と目が合う。
「っ……なさい…」
彼は小さな声で何か言った。
「ごめん…なさい…」
それは謝罪の言葉だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい!水上先輩、永代先輩っ」
見た事のない弱々しい態度の四人に見つめられ、内心絆されかける。たけど、簡単に許される事ではないとも思っている。修ちゃんは相変わらず表情を変えないから、どう思っているのかは分からなかった。
「すみませんでした」
俺達が黙っていると、今度は空が俯きがちに謝ってくる。
「噂は本当なんですか?」
「噂?」
「俺達がっ…!」
やっと俺が声を出すと、今度は陸が勢い良く前に出てきた。彼は自分の発した大きな声にはっとしたようで、すぐにボリュームを抑える。
「俺達がこの会議に参加しなかったら、ハルハルもミナミナも風紀に行くって…」
「それ、本当なんですか?」
顔を歪めた状態で顔を上げ確認してくる空。
俺はそんな彼等の様子に何処かほっとした。完全に嫌われてしまった訳ではなかったようだ。
来てくれるって信じてた。実際来てくれはした。
「…」
(まぁ、でも…)
「ああ。噂は本当の事だ。どこかの性格の悪い悪魔が広めた事実だ。僕達は風紀に入る事になる」
残念だけど、足りないんだよね。
「俺達、来た…!」
ずっと黙っていた久山が力強く言い放つ。
「それでも駄目だ。もし会長が来て、生徒会メンバー全員が揃っても、君達は手ぶらだ。会議に必要な物は何も持っていない。それでは会議に参加したとは言えない」
「…あ」
「っ…」
俺の言葉に四人が再び俯いてしまう。
「そう言うこった。邪魔すんならさっさと出て行きな。今日からお前らの副会長と会計は、俺達風紀のもんだ。二人も抜けるんだ。今回の件で反省しただろ?さっさと生徒会室行って、サボった分も頑張って仕事を片付けるんだな」
委員長が顎で出ていけと指示しながら、席に座る委員代表達に行事についての書類を配り始める。それは本来生徒会がやる事だったのだが、あえて自分で配ったのかもしれない。どうやら会議を再開するようだ。
「っ…永代先輩、水上先輩、ごめんなさい!俺達…まさかこんな事になるなんて思ってなかったんですっ」
しかし、四人はその場から動こうとはしなかった。
「この間の風紀室での事、俺達拗ねていたんです」
「は?」
空の言葉に思わず反応する。表情は変わらなかったと思うけどちょっと危なかった。
「まさかハルハ…永代先輩が楓を否定するとは思わなかったんだ」
「あの時、副会長に“仕事をしていない”って言われて、はっとしました。でも、楓に憧れたのは本当で、楓といた時間を否定されたみたいで嫌だったんです。仕事をしないといけないと、理解はしてたんです…でも」
「放棄したな」
「…はい。今日の会議が大事な事も分かってました。でも、やっぱり反抗する気持ちが大きくて…永代先輩と水上先輩に全て押し付けました」
「今思うと、完全に甘え、だった…」
「…」
一応この子達は、ちゃんと自分達がやらないといけない事は理解していたんだね。
「そしたらさっき、噂を聞いたんです!」
「生徒会メンバーが会議で揃わなかったら、二人が風紀に入るってェ!」
(……あ)
ちらりと修ちゃんを見る。
修ちゃんが朝わざと噂を広めたのは、委員長との約束を遠回しだけど、彼らに伝える為だった?でもなんで当日になって…?
「ごめん、なさい」
「ごめんなさい!こんなっ!俺達、二人を嫌っていた訳じゃないのにっ!いなくなって欲しかった訳じゃないのにっ…」
泣きそうな表情でひたすら謝罪する四人に俺はちょっと気持ちが軽くなる。この子達はちゃんと反省出来る。同じ過ちはきっと犯さないだろう。
それにしても、俺としてはそろそろ、シリアスムードは終わりにしたい。そう思って口を開いた。
「もういい」
「…え?」
「君達は反省した。そして遅れながらも会議に参加しようとはした。それだけで十分だ。僕たちが生徒会を抜けても、これからはちゃんとやっていけるだろう」
ふぅと息を吐き、僅かに口角を上げて言い放つ。
俺の言葉に周りは目を見開く。委員会に迷惑が掛かっていたのも事実だが、一番の被害者はサボった分の仕事を押し付けられた俺と修ちゃんだ。学園の生徒なら副会長と会計の恐ろしさはよく分かっている。そんな俺があっさりと許すとも取れる発言をしたから驚いたのだろう。
「だが君達がどんなに反省しようと約束は約束だ。僕と悪魔は風紀に…」
「待てよ。俺の許可なしにそんな事許されると思ってんのか?」
(え…?)
いきなり俺の言葉を遮る低い声。緒方、空、陸、久山も驚いたように振り向く。
隣では、ふっと気を緩めたような気配を感じた。俺は視線を四人の背後に向ける。
金色の瞳とかち合った。
「っ…」
会長。結城会長だ。
俺は、なんでだろう。急に胸が苦しくなった。辛い事があった訳でもないのに。触れなくてもわかる。心臓が激しく鼓動している。
会長もちゃんと来てくれた。信じてた。
それに…。
会長の手には書類の束がある。俺はそれで、会長の目の下の隈の真相に今更気付いた。
「チッ…結城会長か。おめぇも今更何しに来たんだ?」
委員長が睨むようにして会長を見る。でも、どことなく安堵しているようにも感じた。
「おい、てめぇらこれ…」
「え?」
「結、城…?」
「会長?」
「これってェ…」
委員長をチラッと見てから、会長は四人に持っていたものを各々手渡す。
「てめぇらの分だ」
そう言ってこちらに歩いてくる。
「待てよ」
委員長も俺達の方へとやってきて、
「……」
これは一体、どうなるのだろうか。
参考までに。
呼び方
緒方→永代先輩、水上先輩
空→副会長、水上先輩




