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【BL】いつも側に  作者: Ag/あぐ
第1話「これが王道ってヤツですか?」
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01・嫌な予感

「…あ、またやっちゃった」


次の日の朝。眼を覚ますとそろそろ一限が終わる時間だった。部屋を見回すと、昨日セットしておいた六個の目覚まし時計が所々に転がっている。それもぶっ壊れた状態で。


誰かは分からないが、なんて酷いことをするんだ。また買い直しじゃないか。…なんて。自分以外にいない部屋でこんな事考えていても仕方がないか。起きよう。


欠伸をしながら勉強机の上に置いといた携帯を手に取ると、修ちゃんからメッセージと着信がいくつか入っていた。


『寝坊しました☆』と素直に送ると、

『馬鹿だろ(笑)』という返信がすぐきた。


とりあえずいつもの調理室に行く事を連絡してから登校の準備を始める。制服であるブレザーに着替えたら、優等生ぽく見えるように寝癖を直して櫛でサラサラにセットする。前髪を左右に開いたりしちゃうとそれっぽく見える。瞳に黒のカラーコンタクトを装着して最後に眼鏡をかけた。


「よしっ」


生徒会役員や風紀委員には、仕事内容や量の関係で授業免除という特典があるから助かる。こうやって今日みたいに寝坊しちゃっても、朝から生徒会の仕事をしていたと報告しちゃえばバレる事がない。俺は今年にもう何度もこの制度にお世話になっている。去年は同室の人に何度も叩き起こされてたけど。


「この後どうしよっかなぁ。教室で授業受けるか、生徒会室で本当に仕事するかー」


調理室にやって来た俺は、そう迷いながら椅子を並べて寝転がる。この調理室は、最近は授業で使われる事もない俺の貸し切り場所で、むしろこの教室を知っている生徒はいないんじゃないだろうかという程に認知度が低い。それにしては器具や材料が綺麗で新鮮な状態で保たれてはいるけれど。ここに来るのは俺の他に、修ちゃんか親しい先生方くらいのものだ。ここでは俺も修ちゃんも演技をする必要はない。堂々と素で過ごしていても問題ない、俺達の心安らげる場所の一つなんだ。


「あ!なんかカスタードプリンが食べたくなってきた!今から作ろっと」


教室も生徒会室もとりあえずなしだ。俺は早速器具や材料の準備を始めた。この調理室、本当に色々と揃いすぎだと思う。プリン用の使い捨てカップまであるんだけど一体誰が揃えてくれているんだろう。ミステリー。


「おいこら寝坊助」


「あいたっ」


窓の外をボーと眺めていると、背後からコツンと頭を小突かれた。慌てて振り向くと、腕を組んで見下ろして来る修ちゃんが。俺は思わず唇を尖らせる。


「今授業中じゃないのかよー」


扉の開く音がしなかったし、足音も聞こえなかった。完全に気配を消して驚かせてくるんだから。


「俺はハルと違って朝から生徒会室にいたんだよ。もう少しで文化祭だしな。経費についてとか色々仕事をしていたのだよ」


「ごめんなさい」


「分かれば宜しい。ハルも昨日会長と話しただろ。これから暫く放課後は必ず生徒会室にいるようにな」


「はいはい、善処しますって。それに今日はこの後教室じゃなくて生徒会室の方に行くって決めてたし」


「なんだ、もしかしてまた迷ってたのか?それにしては菓子が見当たらないけど」


「フフン!今は冷蔵庫で待機中ですよ」


「フムフムどれどれ」


修ちゃんは部屋の隅にある冷蔵庫を開いて出来栄えを確認し始めた。


「おっ美味!」


「あっ、食べて良いとは言ってない!」


「別に良いじゃねぇか。どうせこの後生徒会室行きになるんだろう?」


「うーん…まぁそうなんだけどさぁ」


「な?」


あれ、なんか昨日も同じような感じで丸め込まれたような…。


+++


「じゃ、これ宜しくね」


「おう、まかされた。ハルも早めに来いな」


「うん。後片付けしたらすぐ行くよ」


「よしよし」


去り際になんか頭を撫でられた。完全年下扱いだわ。同い年なのに。まぁ身長は確かに俺の方がちょっと小さいけれど。…むむむぅ。


さて、そんな事より後片付け後片付け。

使った器具に泡を付けて洗い流す。布巾で拭いて棚に戻していると、なんだかよく分からないけどゾワリとした。


「っ…」


これは俺の第六感みたいなものだ。そしてだいたいその予感は当たってしまう。修ちゃんにはいつも野生の勘だとからかわれるけど。


「何か嫌な感じする…」


何が起こるか分からないけど、最悪な事にはならなければいいな。


調理室の鍵を閉め廊下を歩いていると、丁度四限目開始の鐘が鳴った。今の所まだ溜まった仕事もないため、手ぶらで生徒会室に向かう。これは気のせいかもしれないけど、学園内の空気というか雰囲気が昨日とは違うような感じがした。


「?」


不思議に思いながらもたどり着いた生徒会室の扉をノックしてから入る。


「あっ、永代せんぱーい☆」


「ハルハル来たァ!!」


するといきなり、緒方と陸が手を広げて突進して来る。俺はそんな彼らを華麗に回避して自分の席に着いた。近くで人同士が激突するような鈍い音と呻き声のようなものが聞こえたが気のせいだろう。


「…お前」


そのまま何もなかったようにパソコンの電源を入れると、残りのメンバーが少し引いたように俺を見ていた。修ちゃんだけは隠れて笑いを堪えていた。


「なんだい皆。僕に何か?」


眼鏡を上げながら問うと、皆は一斉に首を横に振った。


「…そ。ああ、そんな事より。今日は何か行事でもあったかな?」


そう言いながら席を立ち、テーブルの上に置かれた保冷袋の中からカスタードプリンを一つ取り出す。使い捨てスプーンも手にして席に戻ると、会長がはっとしたように立ち上がった。それを目で追いながらプリンを掬い口にする。うん、美味く出来てる。


「何故ですか?」


俺の疑問には空が質問で返してきた。


「なんとなくだね。いつもより学園内の空気がざわついているというかな。落ち着きがない。…ああ、もしかして昨日の転校生が原因かな?」


「…なんとなく?いつもよりって…。学園内の空気とかってそんな風に感じられるもんなんですか…?」


「永代せんぱーい!!☆」


「ハルハルゥ!」


「なんだ」


空が一人混乱している間に、復活したらしい緒方と陸が俺にキラキラと詰め寄ってくる。その背後では会長がいそいそと自分の席に戻って行くのが見えた。プリン片手に。


「そうだよォ転校生についてだよォ!」


「うん?」


「昨日はよく話しを聞いていなかったので遅れを取りましたが!空と陸だけ転校生と会ったなんて狡いです!しかも空が気を許したとか!俺も是非会いたいです!だから、お昼皆で食堂へ行きましょうよぉ!その転校生君に会いに~☆!!」


会長がなんだか嬉しそうにプリンを掬って、あーん!とか目をキラキラさせて味わっているのが見えた。しかもその後すぐに驚いたようにプリンを見直して、何口かで食べ終わってしまった容器を見て気持ちショボンとしているように見える。そこまでの様子がなんというか物凄く可愛くて。


もしかして甘党だったのかな?会長って甘党なの?…うん、やばいね。約三年程側にいて新たなる発見!てか気づかなかったわ!!会長ヤバイ、可愛い。キュンてした。


「永代せんぱ〜い☆ねぇ良いですよねぇ?ねぇねぇ?」


「ん?あ…ああ」


会長の幸せそうなあの表情、もっと見たい。もう毎日のようにお菓子作るよ!もう作ってるけど!


「やったぁ☆!!空と陸も良いよね?久山先輩も!」


「う、うん。俺も、会う、良い」


「水上先輩は!?」


「はい、いいですよ。私に迷惑さえかからなければ何でも」


「会長は!?会長はどうです!?いいですよね☆!?」


「は?…あー、別に良いんじゃねぇか。よくわかんねぇけど」


「やったぁ!ではお昼、約束ですよ☆」


え、何。会長の方に意識行ってて話し良く聞いてなかった。


この時、緒方を止めていれば。転校生に会いに行かなければ、いつもの日常は狂わなかったかもしれない。

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