02・目撃
「ハル、これなんてどうだ?」
お昼をたらふく食べた後、一息ついてから早速目覚まし時計を買いに行く。
最近は色んな目覚まし時計が売ってるんだね。
修ちゃんがなんか『音を取り戻せ!飛び出す目覚まし時計「私を捕まえて」』っていう目覚まし時計を持って来てくれた。
文字盤のついた本体ではなく、時間とともに飛び出す、先端が丸く安全加工されたダーツの方が音を鳴らす。それを本体に刺さないと音が鳴り止まない設計のようだ。これなら本体を壊さなくて済むし、起き上がってダーツを探す間に目を覚ますことが出来る。
寝起きの悪い人間は、音を鳴らして睡眠を妨害する対象に攻撃的になる。修ちゃんにめっちゃ勧められた。
「どうしたハル。念のためこれの色違いをあと二、三個買っていくといいんじゃねぇか」
「…あ、ハイ」
俺、そこまで寝起き悪い!?
会計を済ませると、服を見ている修ちゃんの元へと向かう。
「あれ?」
でもその途中で、なんか見知った人物を発見してしまった。あの、髪のボサボサ加減は絶対転校生だ。私服のセンスは結構良いのになんか残念な感じがする。
「お、ハル買ったか」
「う、うん…」
転校生に視線を向けたまま、修ちゃんの横に並ぶ。
「どうした?」
「あー、うん。あれ…」
俺の様子に修ちゃんが怪訝顔で聞いてきた。俺は素直に指差しながら答える。
「あそこにいるの転校生だよね?何してんのかな。買い物?」
「おっ、マジだ!なんだ、何フラグだ?今から何か始まるのか!?」
「ちょっ、修ちゃん!?」
修ちゃんが転校生の後を追うようにして歩き出す。え?追っちゃうの?昨日のお言葉は??
「これから何かしらイベントが発動するかもしれねぇ。ハル、行くぞ!」
「えー…」
イベント発動って…。
ゲームじゃないんだから。
「ほら、置いてくぞ」
「…はぁい」
折角の休日なのに。折角の久しぶりのお出掛けなのに。修ちゃんに転校生がいる事教えなきゃ良かった。でも、今更後悔しても遅いか。
「あっ、待ってよー」
俺は唇を尖らせながらも、さっさと先を行く修ちゃんの後を追った。足速いよ。
+++
その数分後。
俺は、たまたま見掛けた公園のベンチに座りながら呟いた。
「あちゃ~。はぐれちったわ」
途中まではちゃんと前を歩いていた修ちゃん。
俺がつい美味しそうなクレープ屋さんに目を奪われ、我慢できずに買って食べている少しの間にいなくなってしまった。旨かった。
「もう修ちゃんてばこの年で迷子かよー」
決してクレープの誘惑に負けた俺のせいではないと信じている。
「ん?」
仕方なく電話でも掛けてみるかと携帯を取り出すと、なんと修ちゃんから既にメッセージが来ていた。
『ハル迷子か?( *´艸`)』
『悪いけど用事が出来た』
『30分後に噴水の前で待ち合わせな』
迷子は俺じゃなく修ちゃんの方でしょ。
…じゃなくて。
「何かあったのかな?」
転校生に見つかったとか?…いや、修ちゃんに限ってそれはないか。
さっと返信して、携帯をしまって立ち上がる。ここでも注目されてて落ち着かない。さっきのファミレスの時とは違って、今度は女の人達の視線もあるから余計にだ。
「ん?」
公園から出ると、再び見覚えのある人物が視界に入った。
「…転校生」
なんなんだ今日は。
修ちゃんじゃないけど、なんかのフラグでも立ってるの。俺と転校生の間に…?
「っ…」
うっわ、ぞわっとした。
やだやだなんか気持ちが悪いっ!自分でもよく分からないけど、兎に角気持ち悪い。
そう思いながらも彼が消えた方へ向かう。本当は行きたくないけど、もしかしたら修ちゃんが近くにいるかもしれないから。
「それにしても…」
昨日も思ったけど、やはり転校生は風紀室で言われた罰を何もやってないようだ。普通に学園内を出歩いていたし、今日なんてこうやって外にまで出てきている。反省文も書いてないだろうなぁコレ。
てか。この調子だと外出届けなんかも出していないのでは…。いやいや、まさかそんな事は流石にないか!
ブンブンと頭を振って、俺は路地裏へと歩いていく転校生の姿を再び発見して後を追った。
「え」
そこで俺は、目の前の光景にポカンとする。
奥へ奥へと進んで行く転校生。その後をある程度の距離を持って追っていた俺。
転校生が何やら周囲を警戒するようにキョロキョロ見回したと思ったら、突然「ああっもうこれ邪魔だ!」と言って、ボサボサの頭に手を伸ばした。そして、自らの髪の毛を鷲掴んだと思ったら…。
俺は最初何をしているのか分からなかった。でも、彼の頭から髪が外れ、その下から別の髪色が現れ、俺は驚きに固まってしまったのだ。
「か、鬘だったんだ…」
無意識に呟く。
全然気づかなかった。確かに不気味で個性的な髪型だなぁとは思っていたけど。眼鏡も伊達だったのか、あっさり外してポケットに雑にしまっている。もしかして変装をしていたのだろうか。俺達と同じように。でも何故?
少し気になったが、それよりも俺は転校生の本当の姿を改めて見て顔が強張った。
サラサラとした綺麗な金髪に、キラキラと輝く青い瞳。そして、端正な顔。
『王道君、あれ確実に会長の事好きだぜ』
修ちゃんの言葉が思い出される。
(これ、やばいかも)
もし、転校生が会長に素顔を見せたら…?
そう考えてしまう。
今でも名前呼びを許すくらいに転校生の事を気に入っている会長。そこにこの容姿を加えさせたら…。
「っ…」
会長は今度こそ、転校生の事を好きになってしまうんじゃないだろうか―――。
「空と陸にはもう知られてるけど、結構バレないもんだな!つっても、もう隠さなくても良いような気もするけど。…へへっ!比呂の奴、俺が黄金だって早く気付いてくんねぇかな!そしたら付き合ってやるのに!」
俺が愕然としていると、独り言を言っている転校生の声が耳に入ってきた。なんか許し難い言葉が聞こえた気がしたけど、それより。
「え?転校生が…黄金?」
俺は再びポカンとまぬけ面となった。
と、その時。
転校生の方から携帯の着信メロディが流れ始めて、はっとした。俺がじっと見つめるなか、転校生は携帯を取り出し、画面を見ながら大きな独り言を再開させる。
「あ、真輝から電話だ!俺の事心配してんだろうな。よし!仕方ない、いい加減に戻ってやるか!」
真輝って、普通に生徒会の緒方の事だよね?
まさか転校生ってば、生徒会メンバーと一緒にここに来たのだろうか。俺達と風紀の約束を知らないとはいえ相変わらずなのだろうか。ちょっとショックだった。
てか、いい加減電話に出ようか転校生。さっきから着信音うるさい。なんでそんな大音量なのさ。
「あ、もしもし真輝!?」
すると俺の想いが通じたのか、転校生はやっと電話に出た。
「あ?うん別に良いって!ああ、すぐに戻ってやるからさ!ん?心配すんなって、俺結構強いんだぜ!はっ?嘘じゃねぇって!」
彼はなんでこう、上からというか、偉そうに話すんだろう。前からそうだっただろうか。あと電話なのに声が大きい。
「えっ、比呂が!?」
「!」
もういいかな、と退散しようと思っていたら、急に会長の名前が出てきて固まった。
「なんでだよ!今日は家の用事があるって言ってたじゃん!え?あ…いや、今すぐ戻る戻る!途中で会うかもしれねぇし!」
そう言って挨拶無しに通話を切った転校生はスキップしそうな勢いでこちらに歩いてきた。
「もしかして、俺に会いたくなって早く用事終わらせたんかなっ」
頬を赤く染めて呟く転校生は、適当に鬘と眼鏡を装着しながら近寄って来る。俺はそっと身を隠した。なんか今日はあまり良いことないな…。
はぁ…と溜め息を吐いて、通り過ぎて行った転校生とは逆の方向へ歩き出す。修ちゃんの用事はこれではなかったみたいでここにはいなかった。取りあえず、待ち合わせにはちょっと早いけど、噴水の所へ行こう。
俺はつい俯き気味に歩く。
「…」
転校生が黄金だった。会長の求めるものが彼にはたくさんある。
やっぱり会長の事は潔く諦めた方が良いのかな。ずっと好きでいても、このままだと辛いだけかもしれない。そう思いながら顔を上げようとした瞬間、曲がり角から人影が。
「わっ」
俺とした事が、考えに没頭しすぎて気配に気づけなかった。相手とぶつかり身体がよろける。
(うわぁ、最近の俺ホント情けない…)
しかし、ぐいっと腕を掴まれて転ばずに済む。慌てて顔を上げて、俺はまたもや固まった。
「…あ?なんでてめぇがここにいんだよ、シロ」
「か、会長…?」
やば。吃驚して会長って呼んじゃった。




