01・息抜き
翌日。
今日は休日だ。
俺は私服姿で修ちゃんの部屋に向かっていた。昨晩は修ちゃんに手伝ってもらって、なんとか会議の準備は終わらせる事ができた。
しかし、生徒会室にはまだ未処理の書類が山積みになっている。一応、期限日付別に分けてあるので、一日のノルマが決まっているから今の所二人だけでもギリギリ持ち堪えられている。それでも実際はやっぱりものすごく大変で辛い。本格的に文化祭の準備とかが始まってしまったら流石に二人だけじゃ無理だろう。まぁそれも次の全体会議次第なんだけどね。
誰もいない廊下をこそこそ移動して修ちゃんの部屋の前に辿り着く。チャイムを鳴らすとすぐ様返事もなく扉が開いた。
「行くか」
「うんっ」
思わず顔がゆるむ。
実は今日、頑張った自分達へのご褒美で、今から二人で学園の外へお出掛けするのだ。ちゃんと外出許可は取ってある。忙しいからこそ、こうやって息抜きは必要だと思う。休日なんだし、俺達も仕事はお休みしたい。休める時に休まなくちゃ。
「ハルその服初めて見たな。似合ってんじゃん」
「そ?あんがと。修ちゃんも相変わらず私服のセンス良いよね」
非常階段を降りながら褒め合う。修ちゃんはよくこうやって気付いてくれて、恋人が出来たら良い彼氏さんになるなっていつも思う。
「あ。てかまたカラコン付けて来ちゃった」
一階に着いてふと気付く。ほぼ毎日の習慣でつい付けてきちゃった。これで何度目だ。
「あれ?ワザとじゃなかったのか。そのままの方が良いと思うけど」
「え?」
修ちゃんがワックスで固めた髪を気にしながら言う。やっぱり髪上げてる方が、修ちゃんって感じだ。似合ってて相変わらず格好良い。
「綺麗な色だし、容姿も含めてかなり目立つ事になると思うぞ?」
「えっと、目立つのは嫌かな」
さらっと綺麗とか言われてつい照れる。
でも確かに、俺の瞳の色って他の皆とは違うから仕方ないか。
「よし、新さんに挨拶してから行くぞ」
「あ、うん」
一人で納得していると、修ちゃんが管理人室に繋がる扉を開いた。
「ん~、シロかぁ?」
扉の開く音を聞き付けたのか、俺達が部屋に入ると隣の部屋から寝起きっぽい新さんが腹を掻きながらやって来る。
「あ。新さん、こんにちは!」
「おーっ、カミ!今日はあの胡散臭い笑顔じゃねぇんだな」
「流石に休日までやりたくありませんよ」
「あっはは!それもそうか」
修ちゃんと新さんが楽しそうに会話を始める。
新さんの寝癖がすごい。休日だからって管理人がこんな時間まで寝てて大丈夫なのかな。そんな風に思っていると、俺の表情を読み取ったのか、新さんがニッと笑って言った。
「今日はハムが対応する日だから大丈夫なんだよ」
「えっ公さん部屋から出てきてんのか!?」
「珍しいね」
公さんとは、この寮の二人目の管理人だ。
フルネームは織野公。公さんにとって管理人はバイト感覚で、本業で小説家をやっているらしい。だからほとんど管理人仕事は新さんがやっていて、公さんは普段部屋に引き込もって小説を書いてるんだって。
「ハルっ、公さんにも挨拶しに行くぞ!」
「えっ、あ、うん」
公さんが珍しく表に出ていると知ると、修ちゃんがはしゃいで部屋を移動する。
「やべぇ早く会いてぇ」
「あ、待ってよ修ちゃん」
俺を置いてさっさと行ってしまった。公さんと会えるとなるといつもこうだ。
「ま、それは仕方ないか」
小さく息を吐き、俺も修ちゃんの後を追うようにして、歩き出す。
受付と直結している管理人室に入ると、修ちゃんと公さんが仲良くおしゃべりしていた。公さんの聞き惚れるような低音が耳に入る。
公さんはとっても美人さんで背が高い。新さんには負けるけど、それでも羨ましい身長を持っている。そして何より声が良いのだ。
煙草を灰皿に押し潰しながら、逆手は修ちゃんの頭に乗っていた。公さんといる修ちゃんはいつもの大人っぽい彼ではなく、年相応で同い年だと感じられる。
ちなみに公さんと新さんは恋人同士だ。
公さんを慕っている修ちゃんだけど、決して恋愛的な意味ではない。二人の間にはそういう感情は全くないのだ。修ちゃんが公さんを慕っている理由。ずばりそれは。
「新刊はどんな感じっすか!?」
「おう。素直になれなくて落ち込んでいく主人公を、攻めがドロッドロに甘やかして、戸惑いながらも幸せな初エッチをむかえさせたわ」
「そ、それってやっぱ、攻めが勘違いに気付いて、前巻の冷たい態度から一気に受け溺愛に?」
「まぁな」
「うっは!流石公さん解釈一致です!」
「まかせろや」
…うん。
なんていうか、俺にはよくわからない世界の話なんだけど、公さんの書いてるジャンルが、ね?…つまりそういう事だ。
「公さん、お久しぶりです」
「お、春も一緒だったか。これから出掛けんのか?」
「はい。今から学園出て遊んできます」
「息抜きしてきまーす」
「そうかそうか」
話し込んでいた二人に近付くと、公さんが挨拶をした俺の頭も撫でてきた。ちょっと擽ったい。
「…うん、よし。ちゃんと許可取ってあんな。いいぜ、今日は楽しんでこいよ」
「はい」
「はーい」
引き出しを開けて外出届けの用紙を確認すると、公さんが微笑みながら言った。俺達が返事をすると、今度は両手で俺達の頭を各々撫でてくる。
「おい、ハムー?」
「ん、どうした新」
最後にポンポンと軽く叩かれたと思ったら、背後から新さんの声が。
「朝飯にすっけど…って、お前らまだいたのか?」
振り向くとエプロンを付けた新さんが立っていた。格好良いけどさ、寝癖直そうよ。
「カミとシロも食ってくか?」
「え?いや、いいですよ。だって二人で食うの久々なんですよね?」
「「変な気を使うなっ」」
新さんのお誘いに修ちゃんが苦笑して答える。それに二人は、何故か少し赤くなった顔で強く言い返してきた。
「とにかく、嬉しいですけど今回は遠慮しときます。ハル行こうぜ」
「あ、うん。新さん、公さん、またね」
「…あ、ああ」
「…帰ったらまた寄れよ」
「「はーい」」
+++
バスに揺られる事約30分。バスを降りて時計を確認すると、少し出る時間が遅かったのもあって、もう少しでお昼という時間帯だ。バスには俺達の他に誰も乗っていなかった。学園内の設備や施設が充実し過ぎているので、元々外出する人が少ないのだ。
「昼飯にすっか」
「そうだね。お腹ぺこぺこ」
実は、ちょっと寝坊したから朝御飯を食べていない。ベッドの周りにまた目覚まし時計がバラバラになって落ちていたのには驚いた。なんでいつもあんな状態になっちゃうんだろう。今日は目覚まし時計も買って帰る予定だ。
「ねぇ修ちゃん」
「ん?」
丁度目に入ったファミレスの席で注文を終えると、俺は修ちゃんに顔を寄せて聞いてみた。
「毎回思ってたんだけどさ、なんか妙に見られてない?」
「は?見られてる?」
「うん。修ちゃんは女の人達に。それで俺は何故か男の人達にジロジロ見られてるんだよね。修ちゃんは分かるよ?格好良いもん。でも俺はなんで?しかも男。喧嘩売るような事でもしたのかな…」
修ちゃんに顔を寄せた時も周りから悲鳴みたいな声が上がって吃驚した。
「…はぁ」
真剣に聞いてるのに、何故か呆れた表情で見られる。
「ハル、お前って本当に…。学園でもちゃんと自覚してんのか不安になるわ」
「え?」
何それどういう意味!?
「ま、取り合えずは気にしないでおけ…」
「?う、うん…」
修ちゃんがそう言うならそうするけど…。
「それより、今日は何処か行きたい所とかあるか?欲しいものとか…」
俺の意識が周りにいかないようにする為か、修ちゃんはすぐに話題を変えてくれた。ありがたい。
「俺目覚まし時計買いたいな」
「目覚まし時計?」
「うん、また壊れちゃって」
修ちゃんに朝起きた時の事を話すと、苦笑される。
「相変わらず朝弱いのな」
「えっ、そんな事ないと思うけど…」
「…それも自覚なしかい」
なんか最近修ちゃんには呆れられてばかりなんだけど。ごめんよ。
「…まぁいいぜ、目覚まし時計だな」
「う、うん。そこら辺の安いので良いから」
という事で、取り合えず俺の目覚まし時計を買いに行く事になった。それが決まった瞬間、丁度良く料理が届く。空腹が一気によみがえってきた。
この時、料理を運んできてくれた女の人が妙にボロボロになっていた事が気になったけど、修ちゃんが苦笑しながらも話し掛けてきたのですぐに気にならなくなった。




