13・激励
「修ちゃん修ちゃん、今日の晩ご飯何?」
俺は少し背伸びしながら、台所に立つ修ちゃんの肩に顎を乗せ、腕を腰に回しながら聞いた。修ちゃんとは、結構な頻度でこうやって一緒に夕飯を食べる。その時は毎回修ちゃんが作ってくれる。俺もお菓子以外に料理も一応出来るんだけど、修ちゃんの作った料理の方が美味しいから、いつも甘えさせてもらってる。
肩越しにフライパンや鍋の様子を確認していると、修ちゃんがため息のようなものを吐いた。
「え、何?どうしたの」
「ハル、お前さ」
「?」
不思議に思いながら一歩下がる。すると修ちゃんは一旦火を止めて、振り向き何故か俺の肩に手を置いた。見上げると、真剣な表情で見下ろされる。学園で再会する前は同じくらいの背の高さだったのに何故こんな事に…。じゃなくて、修ちゃんマジどうした。
「そういうのは俺じゃなくて、会長にやってくれよ!」
「………へ?そういうの?」
思わず首を傾げる。すると修ちゃんはすぐに前へ向き直り、包丁を掴んで上下に振り出した。危ない危ない。
「え、何、怖いんだけど…」
「ハル!」
「は、はい!?」
慌てて包丁を取り上げると、大声で呼ばれて吃驚した。
「これは幼馴染の特権でもあるんだけどな!?」
「え?あ?う、うん?」
「あんな、ラブラブ新婚カップルみたいなのは今後あんますんなよなっ」
「ら、ラブラブ新婚カップル?」
「俺が嫁か!?」
「えっ、えー?」
「そして、今ハルが着ている服は俺のだ」
「あ、あれっ?」
あ、着替えた時考え事してたから。
そう言われると、ちょっとでかい気がする。
俺の部屋には修ちゃんの衣服もいくつか置いてある。それは逆も有って、修ちゃんの部屋に俺の私物があったりもする。たまに間違って使っちゃう事があるんだよね。
「くっ…ハル」
「…こ、今度はなんでしょう…」
再び肩を掴まれた。恐る恐る見上げる。
「いつか絶対、絶対!会長の前で、彼シャツをするんだ。そして俺にその時の様子を話してくれ…!そう、必ずだ!」
いや、その前に彼シャツって何。
もう修ちゃんがわからない。
親指立てられても…。
+++
「そういやハル、今日なんかあったのか?」
「え?」
料理が完成して、向かい合って食事をしていると、ふと修ちゃんが聞いてきた。思わずドキッとする。
「…な、なんで?」
「俺が部屋に来た時、お前なんかちょっと元気なかっただろ。幼馴染み舐めんな」
「!」
「話すか?」
「……う、ん」
やっぱり修ちゃんには敵わないな。
俺は放課後にあった事を簡単に話した。あまり重くならないように軽い感じに、明るく。
「本物の王道らしからぬ行動だな」
「へ?」
話終えての修ちゃんの第一声がそれだった。思わず間抜けな声が出る。
「本当の王道転校生っていうのは、自分の中の正論を口にするんだ。そして、間違った事は間違ったと言い、自らの過ちに気づくとちゃんと反省もする。だから今回、会長の“顔”で差別したり、謝罪を口にしなかったのは可笑しい。彼は偽物だったのか!!」
「…いやいや」
偽物もなにも、元々転校生は王道っていうのを目指してる訳じゃないでしょ。
「なんて嘆かわしい!」
「…嘆かわしいって」
「それにな」
「?」
修ちゃんは一度落ち着くようにお茶を飲み干すと、真剣な表情で再度口を開いた。
「俺は何より、ハルを傷付けた事が許せねぇ」
「っ!…べ、別に俺は」
「ハルは会長の為に作って、直接渡せて、嬉しかったんだろ?」
「…うん」
「俺はな、誰よりもハルが大事なんだよ」
「修ちゃん…」
「それなのにハルを傷付けた。俺は確かに腐男子で、王道とかそういうのを観察するのが好きだ。けど、今回の王道君に対しては、否定させてもらう」
「…」
「そもそも俺には王道なんて必要ねぇ。だって学園には俺の大好物の、不良君と平凡君がいるんだぜ?」
「…う、うん?あれ?しゅ、修ちゃん?」
なんか話がズレて…?
「それに、今後のハルと会長の関係も見守っていかないとだしな」
なんかまた親指立てられた。
「ハル」
「…な、何?」
「頑張れよ」
思わず顔を上げる。修ちゃんが優しく見つめてくれていた。
「っ…」
思わず顔が熱くなる。ぐっと何かを堪えた。
修ちゃんは本当に同い年なのかな。こういう時、年上に見えちゃう。
「っ…うん!」
なんか元気出たかも。修ちゃんはやっぱり凄い。
「…あ。ねぇ修ちゃん?」
「ん?」
食事を終えて、食器を重ねてる修ちゃんに問いかける。相談に乗ってもらいたい事があったんだ。
「俺、最近なんか可笑しいんだよね」
「…うん?」
「なんかね」
首を傾げて話を聞くために近寄ってきてくれた修ちゃんに説明する。
会長に構われる転校生に胸が痛くなる。会長に必要以上に近付く転校生に黒い感情が沸き上がる。いつもと若干違う苦しさ。そして、いつもの自分を保てず、制御できなくなる事。
本気で悩む俺に、修ちゃんは呆れ顔で見つめ返してきた。ちょっと酷い。
「ハルってさ、会長の事好きなのは自覚してたよな?」
「えっ!?な、なんだよ急にぃ…」
「いいから。好きなんだよな?」
俺は羞恥を感じながらも頷く。改めて確認されると照れるじゃん。
「はぁ…。お前は昔から、たまに変な所で鈍感だよなぁ」
「え?」
溜め息を吐かれたんだが。
「ハル」
「はい?」
「普通に、嫉妬じゃね」
「え?」
修ちゃんの口から発せられた言葉にポカンとしてしまう。
「嫉妬?」
「ああ、嫉妬」
嫉妬?
嫉妬…ジェラシー?
え?俺が?
「ハルはそれだけ会長に本気だって事だよ」
頭を撫でられた。
「っ…」
顔が勢い良く熱を持ち始める。嫉妬?この黒い感情が?とても清い感情ではないはずなのに、妙に照れ臭さを感じた。
パタパタと手で扇いで顔の熱を冷ます。
「ハル気を付けろよ」
「何が?」
そんな俺の様子を見ていた修ちゃんは急に思い出したかのように口を開いた。
「お前には、会長が王道君に落ちたって言ったけどな」
「正確には“かも”でしょ」
「まぁな。でも少し訂正する」
「へ?」
何か嫌な予感がするな。
「王道君、あれ確実に会長の事好きだぜ」
「…え」
それ。出来れば、聞きたくなかったかも…。
転校生の態度、満更ではないとは思っていたけど…。
「…修ちゃんよくそんな確信できるね」
「腐男子って奴には強大な妄想力と鋭い観察力が必要だからな。見てたら分かる」
「へ、へぇ…」
転校生がとうとう会長の事を好きになっちゃった。これって既に俺に勝ち目なくない?
「転校生が恋のライバルってやつかぁ」
「まだ諦めたりすんなよハル。会長は王道君を気に入ってはいるが、今んとこ恋愛感情は一切抱いていないと見た!小説とかでは会長は高確率で王道君に落ちるエンドだが、その前に王道君よりもアピッとけばフラグをへし折る事なんて容易な事だぜ!」
「え、あ、うんっ?」
修ちゃんが興奮してる。そんなに俺の事応援してくれてたんだ。ちょっと勢いが怖いけど嬉しい。
「その為にも、ハル!」
「はい!」
「さっさと全体会議や風紀との決着をつけなきゃな」
「う、うん…」
なんか修ちゃんの笑みに若干“会計”が入っているような…。
「時に永代君」
呼び名が変わった。もしかしてこれ怒ってる?
「会議で使う資料等はちゃんと揃っているんでしょうねぇ?」
「!」
あ。やばい。修ちゃん気付いるわ。俺が会議の事忘れてたの。
「ご、ごめんなさい!まだです!あとちょっとだけ残ってますっ!」
素直に白状した。するしかなかった。
「…はぁ。たく、やっぱりな」
「……しゅ、修ちゃ~ん」
本気で怖かったよ。
「ははっ、情けない声出すなって」
「痛っ」
デコピンされた。
「さっさと終わらせんぞ。会議まであと三日しかねぇ。会議が終わったら文化祭の準備が始まる。ハルはその文化祭で会長の心を確実に射抜け。それまで仕事は頑張るしかねぇ。ハル、やるぞ」
「うん!」
三日後の会議が終わったら、もしかして俺と修ちゃんは生徒会にはいないかもしれない。そんな不安を抱きながらも、書類を終わらせる為に、片付いたテーブルの上に紙の束を広げた。
転校生に会長は渡したくない。




