11・割り込み
「あの…先輩?」
ブンブン手を振ってみるが離れない。
「俺がなんで年下のお前に追い出されなきゃなんねぇんだよ。俺を誰だと思ってんだ。…つー事でお前も来い」
「へ?」
「おら、モタモタすんな」
「えっ!?わっ、ちょ待っ…先輩!?」
引っ張られる!
なんで?なんでー?
「お、俺っ!まだ用事がありますから!ね!?」
このまま一緒に寮までってなったら部屋でバレちゃう。
「あ?用事ってなんだよ」
「え?あ、ほら!後片付け…とか!」
「俺には十分片付いているように見えるけどな」
「あ」
そうだ。会長が寝てる間に済ませてたんだ。
「それともなんだ?俺と一緒だと都合悪い事でもあんのか?」
ギクリ!
「え、いやぁ…そんな事は…」
「なら行くぞ。荷物纏めてさっさと来い」
「あはは、…はぁい」
一緒に帰れるのは確かに嬉しいけど、会長一人で帰ればいいのに。
+++
「あ、あのー」
「あ?」
真っ赤になった空の下。電灯があるとはいえ周囲は薄暗い。その中を会長と一緒に寮に向かって歩いて行く。
『あ、見て見て!結城会長だよ!いつ見ても素敵!』
『こっち向いて下さらないかなぁ』
うー。いつもの事だけど、会長がモテている。
やっぱり会長と一緒だと目立つな。副会長時の俺もそうだけど、今の姿だともしかして俺、結構やばいのでは?
『あれ?隣の…』
『あんな子学園にいたっけ?』
『ちょっと、格好良くない?』
『え?どっちかというと可愛い、じゃない?』
『絵になるー』
なんかざわざわしてる。声が混ざり合ってうまく拾えなかった。俺の事話してたのかな。絶対そうだよね?制裁の話し合いだったりしたら怖いんだけど。
「おい」
「わっ」
急にぐいっと腕を引かれた。思わず会長の胸にダイブする。
「!?」
『きゃ~っ!』
「っ~…!」
うわ、やばい。顔が熱い。
慌てて会長から離れる。
何故か周りの生徒たちがうっとりとした表情をしているけど、それ所ではない。
「急になんですか!?」
取り合えず落ち着こう。暗くてよかった。顔が赤いの気付かれてないよね?
「は?てめぇが話し掛けておいて黙り込むからだろうが」
「っ…あ。そ、そうでしたね、すみません。…その、手を」
「手?」
「もう逃げませんので離してください…です」
そうだ。さっきはそれが気になって声を掛けたんだった。ここまで会長と手を繋いできちゃったよ俺。まぁ繋ぐというか掴まれて、だけど。それでも恥ずかしすぎる。
「…チッ、仕方ねぇ「あっー!!!」…あ゛あ゛?」
会長がそっと手を離した瞬間。校舎側から会長の声に被さって大きな声がした。なんか聞き覚えがあるぞ。
「比呂じゃん!!」
「楓か」
はい、やっぱり転校生でした。相変わらず声が大きい。風紀委員長には一週間謹慎って言われてたけど、あの時の態度からして守ってないねこれ。
『あのオタクまた!』
『この前、会長様んとこの親衛隊に呼び出されたんでしょ?』
『それなのにまだ付きまとってるなんて図々しい奴!』
転校生の登場で、周りの空気が一気に不穏になった。自分に向けられてる訳じゃないのにこれはちょっと嫌だな、と思う。
基本的に俺は、親衛隊の子達は嫌いじゃない。過激な制裁は駄目だと思うけど、彼らは一生懸命だからだ。親衛隊対象に対してのあの可愛い顔が、嫉妬で歪む所はやっぱりあまり見たくないものだ。
「比呂っ!今までどこで何してたんだよ!俺探してたんだぞ!!」
「あ?悪ぃな。ちょっと野暮用だ。楓には関係ねぇ事だし言う必要はねぇだろ」
「なっ!友達に隠し事はいけないんだぞ!」
「?」
あれ。転校生ってば、数日の間になんか変わった?
髪と眼鏡でよく見えないけど、何処と無く会長に上目使いで話しているように見える。声もなんかちょっと甘いっていうか。転校生って、こんなにも媚びた感じのする子だったっけ。
「!」
って、ちょっと!?なんか近くない!?
なんで腕にぎゅっと抱き着いてるの!?
「っ…」
「あ!誰だお前!」
「へ?」
軽くショックを受けていると、転校生が俺を指差してきた。思わず間抜けな声が出る。
「お、俺?」
「お前以外に誰がいんだよ!」
わお。転校生と初めての、素での会話だ。
「周りにたくさん人いるし」
「周りなんて関係ねぇだろ!俺はお前に話し掛けてんだよっ!」
「えー…」
俺以外に誰がいるか聞かれたから答えただけなのに…。転校生てちゃんと人の話聞いてるのかな。
「もしかしてお前、比呂の友達か!?名前は!?」
「えー…」
「俺は一年の二堂楓!楓でいいぜ!」
「えー…」
「お前も見たとこ一年だよな?寮の部屋番号教えろよ!仕方ねぇから俺も友達になってやるよ!」
「えー…」
「お前さっきから『えー』しか言わないな!俺が折角話し掛けてやってんだからちゃんと返せよ!」
「うわぁ…」
転校生、マシンガンが過ぎる。あと上から目線じゃない?途中からまともに聞くのやめてしまったよ。
「楓、こいつはシロ。最近会ったばっかの生意気な後輩だ」
「…」
“生意気な後輩”か…。
会長にとって今の俺はそういう存在なんだな。
「シロ!?それ苗字か?名前なのか!?フルネームはなんて言うんだよ!比呂に紹介させてないで自己紹介くらいしろよ!」
「シが苗字でロが名前で良いよ」
「なっ、ふざけんな!俺を馬鹿にしてんのか!!」
「ん~?」
ちょっとしちゃったかも。
「んーってなんだよ!そういう態度が駄目っ……て、比呂それなんだ?」
「!」
えー…。
今さっきまで俺に怒っていたかと思ったら、転校生の意識はいつのまにか会長の手元に移っていた。一度、転校生の思考回路が見てみたい。
「あっ隠すなよ!その袋、何が入ってんだ!?」
「…」
会長の手元。
すなわち、俺が会長にあげた、お土産のプリンの事だね。
「なんでも良いだろ」
「なんだよ!教えてくれても良いだろ!」
会長が転校生と目を合わせないようにしている。俺も最近気付いたばっかだけど、もしかして会長ってば、自分が甘党なの隠してるつもりなのかな。
「おっ!プリンじゃん!しかもこんなにいっぱい!もしかして俺にくれるつもりで!?」
「「は?」」
珍しく会長と声が重なった。
「俺が甘い物好きっていつから気付いてたんだ!?比呂は甘いの苦手そうなのにわざわざ俺の為にこんなサプライズ…ありがとな!」
「っ…!」
「あ」
転校生は一人嬉しそうに、会長からプリンの入った袋を奪い取った。
その瞬間、会長がはっと、焦ったようなショックを受けたような表情をした。俺はそんな表情の変化に、つい転校生に対して殺意を覚えた。
「ねぇ、転校生君」
気付くと転校生に話し掛けていた。
自分の発した声が思った以上に冷たくて、少し驚く。周りには他の生徒達もいるし、気を付けなきゃ。
一度小さく息を吐いて、転校生を見下ろす。意識して笑顔で。
「それね、俺が先輩にあげたんだよ」
目は見えないけど、眼鏡の奥を真っ直ぐ見つめるようにして転校生に言う。しかし、彼には意味のない事だった。
「転校生君ってなんだよ!俺達友達だろ!そんな呼び方やめろよな!」
「あはは、あのねー…」
少しは話を聞いほしい。あと、俺はいつ君と友達になったんだ。
「俺の事は楓って呼べよ!さっきそう言っただろ!」
「えっ?あー…わかったわかった。それでね、カナデ君」
「ちげぇよっ!楓だって!!」
「はいはいごめんね、イエデ君」
「ッ楓だって言ってんだろ!!謝れ!!」
「…ごめんねって言ったよ?」
もう名前の話は良いでしょ。それよりも会長にあげたプリンの件で言わせてほしい。
会長、さっきから黙ったままだから。そいで転校生の手元のプリン、ガン見してるから。
「シロ!友達なのに名前も覚えられないなんて、お前最低だな!!つか、それわざとじゃねぇの!?」
「あー…」
転校生の大きな声に、なんか頭がズキズキしてきたよ。そして、まじごめん。たぶんここまでして名前覚えないのは、わざとというか、覚えたくないからなのかも。
「!」
そんな時、パッと頭に名案が浮かんだ。これで名前についての話題を終わらせられる。
「ねぇねぇ!友達ならあだ名を付けても良いよね?だから君の事はこれから『王道君』って呼ぶよ!」
「はぁ!?オウドウ!?」
「うん、王道君。転校生君って呼び名が嫌ならこれしかないね!いつも修ちゃんがそう呼んでるし、俺も覚えやすい」
うんうん、良い案だと思う。
修ちゃんよ、ありがとう。
「待てよ!なんでオウドウなんだよ!どういう意味だ!?あと、修ちゃんって誰だよ!?」
「え?修ちゃんの事知らないとか…」
生徒会室でよく会ってたじゃない…って、あれは悪魔バージョンだった。
「知る訳ないだろ!誰だよ修ちゃんって!シロの友達か!?紹介しろよな!」
「えー。そもそも修ちゃんを知らないとか、おっくれってるー。修ちゃんはすごい男だよ。格好良いし、最近は何に関しても萌やしてるし萌えてるから」
「は!?燃やす?燃えてる!?」
「喧嘩も強いし、学園ではいつも仮面被ってて本当にすごいんだから」
通じないのは分かってるけど、いつも秘密にしてる分、つい修ちゃんの自慢話をしてしまった。
「学園で仮面なんて被ってんのか!?可笑しな奴だな!それ違反だろ?」
「え?違うでしょ」
風紀を取り締まる、風紀委員に誘われたくらいだし。ていうか転校生、違反とかそういうのに関しては君に言われたくはないと思う。
「兎に角!転校生君の事はこれから王道君って呼びます。はい決定!反論は認めませーん」
「なっ…!」
「それにね王道君。“王道”ってすっごく格好良い渾名ベスト10に入るくらい人気な渾名なんだよ?」
「…へ?格好良い?」
「うん。だって王様の王が入ってるんだよ?王様のように、下の者…つまり周りの人間を正しい道へと導くような人間。それが王道なんだよ。…それとも転校生君の方が良かった?」
正直なんか転校生の相手がだんだん面倒臭くなってきたんだ。今すっごい適当な事言ってる。
「いや!王道君で良いぞ!格好良い渾名付けてくれてありがとな!シロ、お前意外と良い奴だな!」
わぉ。まじで信じちゃった?
君が良いなら良いけど。
「じゃあ、王道君。俺の話聞いてくれる?」
「ん!?なんだよ話って!」
ほんと元気だね。大分俺も気持ちが落ち着いてきた。周りの生徒達に目を向ける。
何となく、へらっと笑い掛けると、きゃあっと嬉しそうにされた。
あれ?俺って意外と素でも大丈夫そう。
「だからね、王道君が今持ってるプリンなんだけど」
「は!?これは俺が比呂にもらったんだ!あげないぞ!?」
「…ううん。だからね、そのプリンは俺が先輩にあげたものなんだよ」
今度こそちゃんと聞いてほしいな。
「は!?何言ってんだシロ!」
「だから、俺が先輩に」
「シロも比呂の親衛隊の仲間だったのか!?」
「「は?」」
あ、会長が復活した。そしてまた声が重なる。
「やめろよシロ!比呂は甘いものが苦手なんだ!それなのに“無理矢理”押し付けるなんて最低だ!」
「いや、楓…俺は別に」
会長ファイト!
転校生に会長の事を知られたくはないけど、今回ばかりは人質の為に頑張って。
しかし、俺の想いと会長の気持ちは転校生に伝わる事はなかった。
「比呂、安心しろよなっ!俺が代わりに食べてやるから!」
転校生はそう言って、ガサガサと袋の中を漁り始めた。




