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【BL】いつも側に  作者: Ag/あぐ
第2話「恋のライバルってヤツですか?」
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10・寝言

「隈が…」


「!…っ菓子がないなら用はねぇ。俺は忙しいんだ。もう行く」


「あ」


手を払い除けられ目許から離される。指先の温もりが消え、なんだか拒絶されたような気がした。


「今から、作ります」


「は?」


「お菓子、食べたいんですよね?作りますよ」


俺は立ち去ろうとする会長の制服の裾を掴んで引き留めると、へらりと笑い掛けた。


「別に俺は」


「何が食べたいですか?」


「……」


「先輩?」


尚も行ってしまいそうな会長を見上げながら聞く。裾は絶対離さない。するとそんな俺に、会長は顔を歪めた。暫くそのまま黙って見つめ合っていると、観念したのか会長が視線を外しながら、言いにくそうに呟いた。


「…プ」


「ぷ?」


「プリン…」


「…」


ごめん、会長。可愛いわ。

もしかして、プリンが大好物だったり?


「何プリンがいいですか?」


「…カスタード」


「はいはーい」


会長には秘蔵のお菓子レシピと誤魔化しながら書類を片付けると、早速プリン作りに取りかかる。


全体会議の書類は後回しだ!

今大事なのは、会長の為にプリンを作る事!


「先輩は…」


「あ?」


材料や器具を用意しながら会長に声を掛ける。会長はテーブルに顔を伏せるようにしながら座っていた。少し眠そうだ。


「最近転校してきた一年生の事をどう思いますか?」


「!」


俺の質問に反応して、会長が勢い良く顔を上げたけど、俺は気付かなかった振りをしてボールの中身をかき混ぜ始める。


「名前は確か…確か…。えと、あっ!オウドウ、君?」


「は?」


あれ?違ったかな。絶対違ったね。


「な、名前は兎も角!その転校生の事をどう思いますか?」


「…なんでそんな事を聞く」


わぁ。会長が俺の事睨んでいるのが分かる。でも俺は表情を変えない。気付いていないから。知らん振り知らん振り。


「噂で生徒会の人達がその転校生の尻を追い掛けてるって聞いたんですけど。その噂が事実で、会長もそれに混ざってるのかなぁとか思いまして」


実際目の前で見てきたけど、それは俺の視点で。会長自身は転校生に対してどう思っているのか、それを会長の口から聞きたい。…嘘でも良いから否定して欲しいと思う。安心をしたかった。逆に会長が噂を否定しないのなら、俺は会長の事を…。


「で、どうなんですか、会長様?」


「……尻なんか誰も追い掛けてねぇ。そもそも俺達が誰とつるもうと、周りの奴らには関係のない事だろうが」


「っ…」


それは噂を、転校生の近くにいる事を否定しないという事だよね。確かに側に置く相手を他人がとやかく言う権利はない。でも、それでも俺は…。


「先輩は、彼の事が…好き、なんですね」


そう言うのにかなりの勇気が必要だった。


なんで俺はこんなにも自分を追い込むような真似をしているんだろう…。


会長はきっと転校生の事が好きになったんだ。


「…」


会長からの返事はない。二人の間に沈黙がおちる。俺はそれが嫌で、手元の作業に集中する事にした。


「分からねぇ」


「え?」


温めた牛乳をボールに加えて混ぜ合わせていると、会長が小さく呟いた。俺はそんな会長の言葉に思わず視線を向ける。しかし会長はいつの間にか、腕を枕にして伏せていた。その為どんな表情をしているのかは分からない。


「先輩…?」


「確かにあいつは他の奴とは違う。だから気に入った。でも、俺は。…違う、あいつじゃねぇ。俺が欲しいのはあいつじゃなくて…」


「……」


会長が求めているもの…。

俺には一つしか思いつかない。


「黄金、か」


声には出なかったけれど、思わず呟いてしまった。


会長にこんなにも想われている黄金。名前しか知らない相手。そんな黄金に対してモヤモヤとした変な感情がわき上がる。いつもの苦しさとはまた違う。なんだろう。


「…」


誤魔化すように作業を早めようとすると、後は冷やすだけとなっていた。無意識にここまで進めていたようだ。


「…先輩?」


会長が静かだ。不思議に思って、プリンを冷蔵庫にしまってから近付いてみると。


「あ」


会長は目を瞑って寝息を立てていた。俺は思わず固まる。こんな無防備な彼は出会ってから一度も見た事がない。思わず携帯を取り出し、震える手で写真に収めた。


+++


プリンを冷やしている間、会長の寝顔に萌え萌えしながら、寝ているのを良いことに先程の書類の続きを始めた。


近いうちに文化祭がある。それ関係の書類も含まれていて溜め息を吐いた。これだから最近はより忙しかったんだよね。


うちの学園は行事好きだ。なんと文化祭が終わると数ヶ月後には学園祭をやる事になっている。同じじゃないかって思うかもしれないけど、違うらしい。他の学園、学校は知らないけど、うちの学園はこうだ。


文化祭は門を解放して他校の生徒や身内を呼べる行事で、学園祭は学園内の生徒と教員のみで楽しむ行事。


学園祭の方は卒業式のある前の月にやるから、卒業生には学園最後の思い出に。在校生にはクラス替えの前のクラスメイトとの思い出作りの為に、だって。


で、この二つの行事なんだけど。なんと生徒たちには大好評。なんでかこの行事でカップルが誕生する確率が高いのだと修ちゃんが以前言っていた。修ちゃん、俺よりこの学園に来るの遅かったのに、なんでそんな事を知っているんだろうね。


「…ん」


「!」


突然会長が体勢を変えた。はっとして書類を隠そうとしたけど、会長はただ顔を逆向きにしただけだった。俺は元々会長の正面に座っていたから、変わらず寝顔を堪能する。


「…」


椅子から腰を浮かし、こっそり髪に触れてみる。胸がこそばゆい。すると会長が眉間に皺を寄せた。俺は慌てて手を離す。


(やば、起こしちゃったかな)


そう慌てるが違った。再び書類を片そうとした手が止まる。


「…っ……に、…き」


「え?」


苦しそうに呻く会長。

俺は体が強張った。


辛そうな声。

辛そうな表情。

それは、誰を想って出来たもの?


「ど…、…に」


魘され続ける会長に、はっとする。

俺は痛む胸を無視して、肩に手を伸ばして揺さぶった。


「起きてください先輩!先輩が大大だ~い好きなプリンが出来ましたよ!」


揺さぶりが足りないのかと、回り込んで会長の横に立って繰り返す。


「いつまで寝てるんですかー?」


ゆさゆさ。


「ん……ッあ?」


「もう朝ですよー終点ですよーこれ以上寝てたら死んじゃいますよー」


「朝でもねぇし終点でもねぇし死なねぇよ」


俺が適当に口走っていると、会長はやっと起きてくれた。律儀に返事までしてくれるなんて優しいね。


そして、先程の魘されていた面影は全く見えない。良かった…。


「俺、寝てたのか」


「はい。ほんの数十分程。寝言言ってましたよ?『俺様のプリンだ、返しやがれ!』って」


「嘘だろ!?」


「嘘です」


「て、てめぇ…」


会長って意外とノリ良いよね。お陰で俺も先程のネガティブ思考が蹴散らせた。


「ちなみにプリン出来ましたけど、食べますよね?」


「!……食う」


会長は悔しそうに顔を歪めた。


「はい、どうぞ」


「ああ」


コトンとプリンの入ったカップを会長の前に置く。店で売ってるような、プッチンする容器が何故あるかなんて事は俺自身にもまだ分かっていない。


「ん?」


「?」


声がして視線を向けると、会長の訝しんでいる表情が目に入った。


「この味…どこかで」


「先輩、どうかしました?味変?」


会長が何か呟いた。少し不安になって自分の手元のプリンを掬って口にする。


んー、いつもと変わらないと思うけど。


「…何でもねぇ」


「??」


変な会長。


「あ。これ、お土産にどうぞ」


カップが空になったのを確認して、冷蔵庫のプリンを幾つか袋に入れて会長に手渡す。すると何故か驚いた表情をされた。


「何驚いてるんですか。先輩の為に作ったんですから、貰ってくださいよ」


なかなか受け取らないので無理矢理袋を手に持たせる。そして、そのまま扉の方まで会長の背中を押していく。


「…おい何してんだ」


「もう時間も時間なので寮に帰った方が良いですよ?」


「てめぇな…」


もう外は大分暗くなってきている。だから早く帰らなきゃ。俺は良いんだよ。仕事がまだ残ってるし。


「…」


「ん?」


え、なになに!?


会長が急に俺の腕を掴んできた。

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