09・調理室で再び
修ちゃんとの密談?を終え、俺達は委員長の前に戻った。結局、今後については話し合わず、興奮気味に委員長と秀君について一方的に話されただけだった。でもまさか、委員長が秀君に片想いしているなんてね。時々委員長が可笑しくなっていたのはそういう事だったのか。さっきのちょっとしたやり取りだけで気付くなんて、流石修ちゃんだ。
「永代副会長」
委員長の呼び掛けに、俺は頭を切り替えて真っ直ぐ見つめ返す。
「分かっています。僕も悪魔…いや、水上の提案に乗ります」
先程、修ちゃんの話に適当に相槌を打ちながらも決めた事がある。
緒方、空、陸、久山、そして会長。皆の事を諦めるんじゃなくて、信じようって。
今の生徒会メンバーとの関係はそこまで長くはない。それでも転校生が来る前までは上手くやってこれたのだ。だから、今回の出来事だけで皆を信じなくなるなんて、そんなのおかしいよね。それに、その原因が転校生って、それはなんだか悔しいし。
「はぁ、仕方ねぇな。わぁったよ。次の全体会議に奴等がちゃんと参加出来たら、今回はお前らを諦めてやる」
「…ありがとうございます」
「感謝致します委員長様。あ、申し遅れましたが、私の名前は水上修二と言います。どうか以後お見知りおきを」
「水上修二な。ああ、覚えたぜ。今年の生徒会には中々な人材が二人もいるって事ァは分かった。今日はそれを収穫出来ただけ良しとすっか」
「委員長っ…」
秀君が感動したように委員長を見つめる。どれだけ尊敬しているか、その瞳で分かった。で、俺の隣にいる修ちゃんが体を小刻みに震わせて、興奮を抑えようとしている事も分かった。
「腐腐っ…では私達はそろそろ失礼致しますね」
落ち着いて。今なんか笑い方可笑しかった。
「委員長、ありがとうございました。失礼します」
修ちゃんに続いてそう頭を下げてから俺は扉に向かう。
「ん?」
(…あれ?)
「?どうかしましたか、永代君」
「…いや、なんでもない」
そして。
そのまま生徒会室に戻ってくると、予想はしていたが誰もいなかった。
「そういえば修ちゃん」
「ん?」
「風紀室には何回か行った事あるけど、俺初めてあそこで委員長と副委員長がいるのを見たよ」
「ああ、確かにな。俺も直接会うのは初めてだ。片方はお前の元同室だったのにな」
「ね」
会えそうで全然会った事なかった。
「ハル、俺は決めたぜ」
「?何を」
修ちゃんが勢い良くソファーへ座ったので、俺もちょこんと隣へ腰掛ける。
「海道委員長を全力で応援するってな!」
「え、そっち?」
やっぱり今後の事じゃないんだ。修ちゃんて実は皆の事嫌いなのかな?
+++
数日後。
俺は調理室の扉の前にいた。ずっと生徒会室で仕事ばっかしてたから、随分と久し振りだ。
鍵を開けながら、髪をくしゃりと崩してネクタイをポケットにしまう。部屋の隅に積まれている椅子をいつも通り無駄に多く並べて、その内の一つにどかりと腰掛けた。
実は俺、修ちゃんには内緒でやらないといけない事がある。修ちゃんの目があったから全く手をつけていない。バレたら何を言われるか。
「よし!」
それが何か白状すると、修ちゃんがこの前委員長に持ち掛けた条件の、大事な全体会議の事。
俺、すっかり忘れていた。言われて思い出した。だから会議までになんとか修ちゃんにバレないよう必要な書類をまとめて準備しないといけない。
「…はぁ」
やばいね。
これって俺も無能って事かな。
「…」
黙々と書類を捌いていく。
しかし集中力が続かない。甘味が足りない。
もう数時間経った。けど書類は終わらない。
数日後に行われる例の大事な会議は、今後の行事についてや学園内の風紀について、新しい設備について等々。それらを委員会の代表達や教師陣と話し合う場だ。四ヶ月に一回は行われている会議で、今回は俺が副会長になってから二回目となる。前回は会長だけが参加した。
そう、今までは代表が一人参加すれば良かった。だけど、前回の会議で各委員代表全員が参加する事が決まったらしい。それを会長から随分前に聞かされていたのだが、俺はすっかり忘れていたという事だ。
「うぅ…」
取り敢えず空白を埋めなきゃ。なんかテストを受けている気分だ。
「!」
書類をめくっていると、転校生について書かれているものを見つけた。これは風紀からの書類か。
「あらら」
山下君、また巻き込まれてる。彼についてはなんとかしてあげたいな。取り敢えず元気出してもらうために、今度手作りラスクでも持って行ってあげよう。
「そうしよう」
「何がだ」
「うん。甘いラスクを食べさせてあげたい…ってえぇえええーっ!?」
自分以外の声が聞こえ、俺は驚き慌てて振り向いた。
「えっ…な、なんで」
「宣言通りまた来てやったぞ」
「か、…先輩」
やはり気配を感じられなかった。
「な、何しに来たんですか」
俺は少しムッとした表情で問い掛ける。会長の事は好きだけど、今回の会長の態度には疑問に思うばかりだからだ。それと、俺は若干拗ねているのかもしれない。
同じ生徒会で、転校生よりも長く一緒にいるはずなのに、あちら側を選び優先させた。会長に俺の気持ちが伝わる訳がないと分かってはいるけど、どうにも納得がいかないんだ。
「おい、なんだその態度。折角来てやったってのに」
「頼んでないでーす」
プイッとそっぽ向いておく。
「てめぇ!俺はなぁ!お前のッ…」
「俺の?何ですか」
「……チッ。別に、ただ甘いもんが食いたくなったんだよ!市販のが飽きたから暇潰しついでに寄っただけだ。それ以上の理由はねぇ!」
「!…ふ~ん」
なんだ、俺の作ったお菓子だけが目当てなんだ。やだな。また胸がチクチクする。
「それなのにてめぇはあれから一度もここに来やしねぇし。俺に無駄足ばっか踏ませやがって舐めてんのか?」
「はいはい。それはそれはすみませ…ん?」
「あ?」
「先輩、もしかしてあれから何度も来てくれてたんですか?」
驚いて会長に視線を戻してしまう。
最近俺は仕事ばかりでここには寄れなかった。その間、暇潰しついでと言いながらも会長は来てくれてたのか。鍵の閉まったこの調理室に。
お菓子の為だけに普通そこまでするだろうか…。
「っ…へ、変な勘違いすんなよ!別にお前に会いに来てた訳じゃねぇからな!俺は甘い物の為に寄ってただけだ!」
今度は会長が顔を背けながら言い訳の様なものを口走る。その姿がなんだか嬉しい。俺は現金だ。
「先ぱ…」
(あれ?)
しかし、俺は会長の横顔をじっと見て、思わず手を伸ばした。
「!?」
会長が反射的に避けようとしたけど、それよりも先に指先が触れる。
「…何、してんだよ」
「先輩、疲れてます?」
会長の言葉を無視して、目許辺りを軽く擦る。
何故か会長の目の下には、薄く隈ができていた。




