08・亀裂、そして勧誘
「それを言うなら、君達こそ現場にいなかったのに彼が全くの無実だと言えるのか?」
なんだか俺、悪役になったみたいだ。
後輩達が、俺に対して見せた事のない表情で睨んでくる。
「ハルハルはァ、いつも楓の側にいなかったから分からないんだよォ」
「俺達はいつも楓ちゃんの側にいたんです!」
「楓がやたらに暴力を奮う人間じゃない事くらい、わかります」
「……」
出会い頭に会長を殴ろうとした子なんだけどな。あと言えないけど俺、実際に現場にいた人間だから。
「はぁ…そんな事で」
「いい加減にしろよっ春斗先輩!!」
「!」
(は?)
俺が溜め息を吐きながら言い掛けると、転校生が突き飛ばす勢いで前に出てきた。俺が反射的に避けると、少し悔しそうに唇を噛む。何故。
「なんでだよ春斗先輩!俺は悪くねぇって言ってんのに!皆だって俺の為に言ってくれたんだ!どうしてちゃんと聞いてあげねぇんだよ!一方的に決めつけるなんて最低だ!見損なったぞ!」
えー…?
俺一方的だった?
話聞いていない事あった?
なにこれ。俺が悪いの?
ちょっとムカッときたが、隣の部屋から出てきた人達に気付いて心を落ち着かせる。
「うるさいぞお前ら。さっきから何を騒いでいるんだ」
「隣の部屋まで聞こえていましたよ。特に二堂楓、少しは静かに待っていられないんですか。それと、生徒会の皆さんは風紀室へ何のご用でしょうか」
風紀委員長と副委員長の秀君だ。秀君は俺と目が合うと少し苦笑してから平の人達に視線を向けた。
「い、委員長~っ!!遅いですよー!」
「副委員長!何で二堂楓から先に話を聞かなかったんですかーっ」
「俺達この人らの相手すんのもう嫌ですーっ」
「「「全然話聞いてくれないっ!」」」
「…お疲れ様です」
いや、本当ごめんだわ。
「お前ら情けねぇぞ。それでも風紀委員か」
そんな事言わないであげて委員長。彼らは頑張っていた。内心そう思いながら、改めて秀君と視線を合わせる。
「久し振りだな、梅木」
「…ああ、永代こそ。最近お互い忙しいからな」
元同室者同士って結構有名だから、普通に親しげに会話をする。
「ほう?梅木が敬語じゃないな」
すると、委員長が何か感心したように俺を見てきた。でも、秀君が敬語使ってなくてもそんな特別な事はない。親しくなれば秀君は普通に敬語を取ってくれる。委員長は年上だからないかもしれないけど。
「梅木」
「はい、なんですか委員長」
「俺にもタメ口で」
「無理ですね」
即答だった。
秀君、年上にはちゃんと敬意を払う真面目で良い子だから。それに委員長の事はもの凄く尊敬しているみたいだしね。
「…だ、だよな。ちょっと言ってみただけだ」
「?はい」
あれ?なんか、可哀想…。
「おい!俺を無視して会話すんなっ!そういうの人として最低だぞっ」
委員長と秀君の登場で少し空気が和らいだと思ったが、またもや転校生が喚き出した。君は空気を読んで欲しい。
「そういえば、まだお前が残ってたな」
「忘れていましたね」
「はっ!?」
しかしそんな転校生にあっさりそう返す風紀代表二人に、俺は少しだけ感心した。
「ん。お前面倒だから、もう一週間寮での謹慎と反省文でも書いてくれればいいわ」
「埒があきませんもんね。今回はどちらが悪いかはっきりとした判断がつけられません。なので(面倒くさいし)同じ罰で良いでしょう」
思っていたより風紀って適当なんだね。あと秀君も意外と面倒くさがりだったのか。隠れた言葉が聞こえた気がするよ。
「なっ、ふざけんな!なんだよそれ!俺は全然悪くないって言ってんのに!」
「そうだよォ!悪くもないのに親衛隊と同じ罰っておかしくなァい!?」
「本当だよ!意味わかんない!楓ちゃん、もう行こ?!」
「副会長、俺達しばらく仕事しませんから」
「永代…おかしい」
秀君たちの言った処罰に皆不満だったみたい。それと、俺はすっかり彼らに嫌われちゃったようだ。顔には一切出さないけど、やっぱちょっとだけショック。
まぁでも、甘やかしちゃいけないよね。
「はぁ…。既に君達は、仕事をサボり気味なようだけどね?」
そんな風に嫌味で返すと、緒方と小向兄弟、久山はぐっと唇を噛んだ。しかし何も言わずに、転校生の背中を強引に押しながらそのまま部屋を出て行った。そして、
「!」
会長。彼は一瞬だけ俺に視線を向けてきたが、すぐに反らすと何も言わずに彼らを追うようにして扉に向かっていく。
「…っ」
そっか。会長も転校生側なんだね。転校生の敵は、会長の敵なんだ。
「おい永代副会長」
「…何ですか」
扉から出て行く会長の背中を見つめながら委員長に返事をする。駄目だ。胸が苦しくてたまらない。
だから、次の委員長の言葉をすぐには理解できなかった。
「お前、副会長辞めて風紀に入らないか?」
「「「「………は?」」」」
この場にいる全員の声が重なった。
「委員長、何を言ってるんですか…?」
代表で秀君が戸惑った表情のまま聞く。
「梅木もさっきのアホ共との会話聞いてただろ。俺は生徒会は嫌いだが、永代副会長だったら歓迎できる」
「し、しかし…」
「ん?なんだ。俺の近くにいるのは自分だけで良いとでも言いたいのか?ん?」
「そんな事はないですけど…、でもそれは…」
「………。生徒会に永代副会長は勿体ない。それに今、風紀は未だかつてないほどに忙しい。原因は皆分かってるよな?だったら副会長は強力な助っ人になる。…なあ、副会長さんよォ最近生徒会ってまともに機能していないだろ」
「否定はしない」
「だろうな。分かっていると思うが、生徒会ってのはこの学園の柱のようなものだ。全ての委員会に関わりを持っている。もちろん風紀とも。最近生徒会に提出した書類への対応が遅すぎると思うんだが?」
その通りだ。実際最近は、ほぼ俺と修ちゃんの二人だけで処理しているようなものだ。他のメンバーは生徒会室に来ても仕事には手を付けなかったり、たまに気まぐれで処理をしたり。その為、全てに関してギリギリ。何も言えない。
「待って下さい。永代君がいなくなりますと、私一人で仕事をしなくてはなりません。それでは状況は悪くなるだけですよ?」
俺が黙っていると修ちゃんが話しに入ってくる。確かに委員長の言う通りにしたら今度は修ちゃん一人になっちゃう。そうなると、流石の修ちゃんも過労で倒れちゃうよ。
「だったら会計もいっその事、風紀に来ちまえよ」
「は?…ふふふっ私も、ですか?」
修ちゃん、一瞬素が出たね。
「あんたら二人がいなくなって困るのはあいつらだ。実際に自分達の浅はかさを思い知れば良いんじゃねぇの」
「しかし二人して風紀に入って、生徒会で仕事をする人間が誰もいなくなれば何も意味はない、むしろ酷くなるだけだと思いますが」
「俺達は、柱が怠けてっと迷惑なんだよ。いつまでも状況が変わらないのと、少し我慢して改善されるのとどっちが良いと思う?俺は生徒会のリコールも視野に入れている。副会長と会計がいなくなっても仕事をしない連中なら、そいつらはそれだけ無能な人間だったって事だろうよ。生徒会が活動していないと分かれば理事長辺りも何か行動すると思うしな」
「……」
なんでこんな風になってしまったんだろう。転校生が来る前まではあんなに平和で、何の問題も起きなかったのに。
ふと、生徒会メンバーの顔が頭に思い浮かんだ。
緒方、空、陸、久山。
…それに会長。
(彼らが、無能?)
「ではこういうのはどうでしょうか」
「悪魔?」
俺が答えられないでいると、修ちゃんがいつもの微笑みを浮かべたまま提案した。
「私も今まで共に活動していた方々が無能だったとは信じたくありません。丁度近々全体会議があります。普通なら忘れるはずのない大事な会議です。その会議に彼らが必要な書類を準備して参加出来たのなら、今回のお話はなかった事にさせてください。とても魅力的なお話でしたが」
「しかし、彼らが今更永代たちの為に動くとは思えませんよ?」
そうだよ修ちゃん。
俺、完全に嫌われちゃったし…。
「会議に来なかった場合は、それまでの関係だったんですよ。ふふふっ、私も永代君も喜んで風紀に入ります。そして徹底的に風紀を乱す方々を排除させて頂きます、よ」
…修ちゃん、目が笑ってない。
「くくっ会計、あんた面白いな。名前は?」
修ちゃんの黒いお言葉と笑顔に、委員長は肩を揺らして笑いだした。笑う所じゃないと思いますがね。秀君も微妙な顔してるよ。
「おやおや海道風紀委員長ともあろうお方が生徒会役員の名前を覚えていないとおっしゃるのですか?」
「あ?俺は元々生徒会が嫌いだから良いんだよ。特にあの俺様バ会長、年下の癖に生意気な奴でよ。チッ…今のあいつにはマジ幻滅したぜ。能力に関しては認めてたのによ」
「ふふ、それには同意致します」
「…」
好きな人が貶されているのはあまり聞きたくないな。でも仕事をサボっているのは事実だから、それに関しては何も言えない。
俺は会長に対して、何故?という疑問と不安な気持ちが渦巻いている。
「それにしても永代君の事は知っていらっしゃいましたね。何故でしょうか?」
自分の名前が上がってつい顔を上げる。修ちゃんが熱い眼差しで委員長を見詰めていた。
「っ…そ、それは、梅木の元同室者として有名だったし?自分の部下の周囲について知っておく事はリーダーをつとめる者として当たり前の事であってな?決して、決して!牽制しようとして調べたとか、そ、そういう事ではない!」
委員長、急にどうしたんだろうか。先程までの態度が嘘みたいだ。なんかこんな委員長を何時間か前にも見たような気がする。
「海道委員長様、ちょっとすみません」
「っあ?なんだ」
なんか、今度はすっかり修ちゃんのペースだね。
「少し永代君とお話しさせてください」
「!…おう、いいぞ」
「悪魔?」
突然、修ちゃんに部屋の隅に連れていかれた。
「修ちゃん?」
「ハル…」
あまりにも真剣な表情だった為、俺も背筋を伸ばして耳をよく澄ませる。今後について重大な話だろうか。修ちゃんは真剣な表情のまま口を開く。
「これって確実に委員長から副委員長への矢印だよな?なんだよ、俺の知らない所でまた萌えが誕生してんじゃねぇか。俺を喜ばせて一体どうしたいんだよ。てかあの副委員長はなんだ?鈍い。鈍すぎんだろ。どんだけ俺の事心得てるんだよ。腐男子魂に火がつくぞ。しかも強面なのに敬語キャラとかマジおいしすぎ。ハルの元同室だって?んな素晴らしい人材がこんな近くにいるなんて盲点。ちくしょう!なんでこんなどツボをつくようなCPを俺に教えてくれなかったんだ、ハル!?」
「修ちゃん…」
知らないよ。




