07・盲目
生徒会室と風紀室は、特別棟の上階の端と端にそれぞれある。俺と修ちゃんは生徒会室から出ると、真っ直ぐ廊下を歩き、目的の部屋に辿り着いた。俺は風紀室と書かれた室名札をなんとなく見上げる。
ちなみに特別棟といっても、一応誰でも入れる。一階の出入り口に、財布と鍵を兼ねた学生証カードをかざすようになっているのだ。集団で入る場合はその中の一人がかざせば良い。生徒会と風紀のメンバーは関係ないが、それ以外の生徒が特別棟にそのカードをかざした時、特に理由なく出入りした場合は厳重注意。その後さらに繰り返したりしたら何かしらのペナルティを課せられる。
「永代君」
「!」
少しボーとしていたらしく、修ちゃんが小さく声を掛けてきた。目が合った瞬間、スッと会計の表情になった。いつもながら素晴らしすぎる。それに感動しながら俺もすぐに副会長の演技に入る。
代表して修ちゃんがノックした。すると分厚い扉の向こうから「はい」と小さく返事がある。
「生徒会の永代と水上です」
そう言ったのは俺だ。数秒間があって、少し躊躇いがちにドアが開いた。
「ど、どうぞ」
怯えた様子で迎え入れられた。そこまで怖がらなくても…。
「失礼する」
「失礼します」
ドアが開いた瞬間聞こえていたけれど、中は物凄く騒がしかった。その原因は主に転校生と生徒会メンバー。俺と修ちゃんは彼らの元へ真っ直ぐ進んでいく。
「だから俺は悪くねぇって言ってんだろ!あいつらが先に手ぇ出してきたんだし、あいつらが全部悪い!」
「楓がこう言ってるでしょォ?正当防衛なんだし、いい加減楓を解放してよねェ」
「そうだよ!いくら楓ちゃんを独占したいからって、変な言いがかりつけて引き留めるのはやめてよね★」
「風紀、楓…独占、駄目」
「会長も何か言ったらどうです。あなたの親衛隊ですよ」
彼らの言い分に俺はため息を吐く。
会長の親衛隊の子達は恐らく隣の部屋にいて、秀君逹はたぶん今そっちを対応しているのだろう。でもそれ、こっちに平の人達だけを残すのは失敗だよ…。まぁ生徒会メンバーが来るとは思ってはいなかったんだろうけど、なんだか凄くややこしい事になっている。
「修ちゃん、やっぱ帰ってもいーい?」
「駄目だろ」
「…」
小さく聞くと即答された。
「生徒会の皆様、風紀室で何を騒いでいるんでしょうか?」
一通り騒いでいるのを眺めていると、修ちゃんがやっと皆に声をかけた。入室してから観察して、大分遅い問い掛けに風紀の人達が疲れた表情をする。
「あっ、水上先輩☆」
「ハルハルもォ!」
「…」
この子達本気で俺達に気付いていなかったんだね。どんだけ興奮してたの。
「君達、(仕事もしないで)風紀室で何を騒いでいるんだ?」
俺は眉間に皺を寄せてメンバーを見回す。俺と修ちゃんに仕事を押し付ける気かな?
「まぁまぁ永代君、彼等はここに連れて来られてしまった楓君が心配だっただけなんですから…。騒いでいる理由は全く理解できませんが」
「はっ!元はと言えば、貴様がこいつらを引き止められず、尚且つどこから仕入れたか分からん情報とやらをこいつらに吹き込んだのが原因だと俺は解釈していたんだが?」
「おやおや永代君ともあろう者が、また随分と読み誤ったものですねぇ。この通り情報は確かでした。私は只、彼らにそれを“伝えただけ”です。それによってどう行動するかは本人達次第だったのですよ?なのでそこまでの責任を負う必要性は私には皆無と言えませんか?」
「はっ責任逃れの戯れ事は貴様の得意分野だな」
「ふふふ、お褒め頂きありがとうございます」
そこまで言い合って目を合わせる。俺は見下し表情で、修ちゃんは笑顔だ。
「ちょっ、ミナミナとハルハルゥ?…えへ、あ、あのさァ」
「うるさくした俺達が悪かったですからッ☆」
「二人、喧嘩…止める…」
バチバチする俺達にそんな静止が。
「…おやおや」
「…ふんっ」
これからが良い所だったのにね。まぁ。なんか皆顔青くしてるし、止めてもらって良かったか。
「で、君達はなんでそんなに騒いでいたんだ?」
「それなんですが!楓は会長の親衛隊に対して正当防衛といえる行動しか起こしていないのに、風紀の方々が中々楓を解放してくれないんですっ!」
「そォそォ。だからァ俺ら文句言ってたのォ」
俺の質問には小向兄弟が順に答えてくれた。いつもはおとなしい空まで、珍しく興奮し、苛々している。本当に転校生を気に入ってしまったって事だろうか。
「風紀の方々、何故でしょうか?正当防衛との事なんですが…」
「だから違うんですよ!」
「お願いですから話しを聞いて下さい!」
修ちゃんが風紀の人達に質問すると慌てたように彼らは言い返してきた。
「違う、何!風紀、楓…取るっ?」
「時間稼ぎでもしてるつもりなのォ?」
「二人とも」
すぐに反応する生徒会メンバーに俺は制止の声を掛ける。ちょっとは冷静になって話しくらい聞いてあげなよ。
「違うとは?」
すると明らかにほっとした表情をされた。
少し離れた場所に立つ風紀委員の人が、やっとまともに話し聞いてくれる人が来たと小さく呟いていた。なんかすみませんね、うちの子達が。
「確かに今回は二堂楓は被害者であり、先に手を出したのは親衛隊の方だったので正当防衛とも言えるでしょう。しかし、親衛隊の中には二堂楓の反撃で病院へ運び込まれ、未だに目を覚まさない者もいます。その為、防衛が自己防衛の域を越えた行為と判断されて二堂楓にはここに留まって頂いているのです。それに親衛隊にしても、委員長の話しによると今日は忠告だけの予定だったのが、被害者の挑発ともとれる発言が原因で起きた暴力事件と断定されました」
「なっ…なんだよそれっ!確かに俺は反射的に殴ったりしちまったけど、俺は挑発なんかしてねぇ!俺は呼び出されて話しをしただけだ!俺は悪くねぇよ、そうだろ皆!比呂!」
風紀の人の言葉に怒りを露にする転校生。同意を求めるように周りを見回した。
いやなんで会長は“皆”の中に含まれなかったの。
「そうだよ☆楓ちゃんは悪くない!」
「悪いのはァ会長の親衛隊の子達だしィ」
「楓、悪い、違う。親衛隊、全部…悪い」
俺は耳を疑った。今の説明聞いても転校生は何も悪くないの?
俺も現場にいたけど、転校生の暴力、本当に半端なかったよ?確かに正当防衛以上の行為に見えたけど。俺は、自分の行動を正当化させようとする転校生に不信感を抱くようになってきた。
「比呂は!?」
「…あ?」
「比呂も俺は悪くないと思うよな!!」
今まで黙っていた会長に転校生は詰め寄る。もうそれ、質問じゃなくて同意を求めてるだけだよね。
「俺は…」
なんだろう。この件に関して、会長の答えを聞きたくない。修ちゃんが気付いたようにこちらに視線を向けたのが分かった。けど今はそれでも…。
「君達は」
止められない。
「風紀委員の言葉を聞いていなかったのか?」
俺は思わず、割り込むようにそう言葉を発していた。
皆の視線が俺に集まってくる。風紀委員の人達も、生徒会メンバーに向けていた呆れたような表情のままこちらを向く。
「風紀委員は確かに正当防衛とも認めた。しかしそれは過剰防衛だと言っているんだよ。君達には聞こえなかったのか?」
いくら転校生を気に入ったからと言って、現実から目を背けちゃ駄目だ。
「なっ、副会長は楓が悪いって言うんですかっ!?」
空、いつもとキャラが違う。
「全てが悪いとは言っていない。しかし今回の件に関しては、彼にも責任があると思う」
「なっ、ハルハルは現場にいなかったんだから分からないよ!」
「そうですよ!もしかしたら風紀のでっち上げかもしれないし!」
「永、代…?」
陸と緒方の口調も変わっている。本当、何だよこれ。久山は信じられないと言った表情で口をパクパクしていて、金魚みたい。
でも俺、何か間違った事言った?




