表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】いつも側に  作者: Ag/あぐ
第2話「恋のライバルってヤツですか?」
14/54

01・変化

翌日。


ボキッとシャーペンが折れた。本日これで何本目だろうか。ちなみに芯ではない。


可笑しいな。今日のシャーペン脆いのかな。不良品かもしれない。そう思考しながらそれを足元のゴミ箱に投げ入れ、新たなシャーペンを引き出しから取り出す。


「…」


そして、チラリと目線を上げ、相変わらずの光景に溜息を吐いた。


「おら楓、俺の隣に座らせてやるから来いよ」


「なっ!?…い、行かねぇよ!誰が比呂の隣に座るか!それにまだその態度かって、うおっ!?待て引っ張んな!!俺は比呂じゃなくて修二先輩の隣に座るしっ…!」


いつの間にか名前で呼び合っている会長と転校生の戯れ合う姿。朝からずっとこんな調子だ。


いつもだったら会長席に座り、自分の仕事をきちんとこなしていた会長も、


「あ?俺よりも水上の方が良いって言うのか?」


そんな事を言うようになり、


「はぁ!?いや、別にそういうんじゃねぇし!むしろ俺はっ…て、違う!ああっくそ、分かった!仕方ねぇから今回は比呂の隣に座ってやるよ!」


休憩スペースで転校生を自分の隣に座らせて、他の生徒会メンバーと一緒になって彼を取り合う仲間に加わってしまった…。


『会長が王道君に落ちた…かも』


昨日届いた修ちゃんからのメッセージ。あれのせいで昨日はあまり眠れなかった。修ちゃんに直接会って詳しく聞きたかったのに、どうやら中々抜け出せなかったのか、夜にも会えなかった。


朝になって寝不足気味でフラフラと生徒会室にやって来ると、既に皆が揃っていた。何故か転校生を招き入れて。


昨日までは会長の側に寄るのも本気で嫌がっていた転校生も、何故か今では満更でもない態度を取るようになっていて、先程のように会長とは名前で呼び合うようになっている。兎に角距離が近くなっていた。そんな二人を見ていると、俺は胸が痛い。


会長があんな楽しそうなのも、あんな風に誰かを構う姿だって、俺は見た事がない。


もう嫌だ。長い間この部屋にいたくない。こんなワイワイ賑やかで甘い雰囲気の生徒会室にいるのに耐えられない。


会長にも修ちゃんにも生徒会室に来るよう注意されたから来たけど、こんな光景を見せられる日々が続くのなら、俺は今もさっさとここから立ち去って、暫くは来たくない。


俺はガタリと席を立ち上がった。


「修ちゃん…俺、もう行くね」


「…大丈夫か?」


給湯室でお茶を入れ直しに行っていた修ちゃんの所に寄ると、少し疲れた表情の修ちゃんがいた。今はお互い素タイムだ。


「それはこっちの台詞でもあるよ。…大丈夫?少し顔色悪いけど」


「んーちょっと疲れが取れてなくてな。昨日長時間の演技強いられたし、あいつら誰も今日仕事してねぇ。会長もまだ始めてねぇし。あ、あと王道君が思っていたより疲れる相手だった」


「あー…」


俺達は同時に溜め息を吐いた。


「俺今から調理室行くけど、修ちゃんはどうする?」


さっさと部屋から出て行きたいけど、こんな修ちゃんを置いて行くのは心苦しい。


「あー…そうだな。このお茶だけ配ってくるわ。そんでなんか理由つけてあと追うから、先行っててくれ」


「ん、わかった。ごめんね」


俺は修ちゃんの肩をぽんと叩いた。修ちゃんも小さく笑顔を見せてやってくれる。


「「お疲れ」」


最後に、拳を軽く合わせると、俺達はまた仮面を被って背を向け合った。


+++


「…はぁ」


調理室。昨日残しておいた生徒会用のドーナツを口にくわえながら、俺は窓の外を見つめる。いつも通り、見渡す限り木ばっかりだ。


「会長が王道君に落ちたかも、かぁ」


携帯を取り出し例のメッセージを見つめる。


本当に会長はそうなのかな。そうすると、会長は転校生の何処に惹かれてしまったんだろう。あの、こわいものなんてないような強気な態度と正直で裏表のなさそうな性格?


「…」


そうだったのなら、俺には何も出来ない。傷付く資格もない。


だって、会長と接している時の俺自身が偽りなんだもん。裏とか表以前の問題だ。


「!」


そう物思いにふけっていると、握っていた携帯が震えてちょっと驚いた。


「修ちゃんからだ」


まさか転校生に引き留められたとかじゃないよね。


「何々…ん?」


しかし、そうではなかった。むしろ俺に関係してるっぽい。


『隠れろ』


殺人鬼でも来るのかな??


「もう、修ちゃんたらっ」


詳しい説明くらい入れようぜ。


「ふんふんふ~ん♪」


取り敢えず修ちゃんには『詳細キボンヌ』と返してから、俺は隠れもせずにクッキーを作り始めていた。


「ココアは10gー」


今日はアイスボックスクッキーを作るつもりだ。急に食べたくなった。隠れるのは詳細が分かってからとクッキーが完成してからでもいいだろう。


「よし」


出来上がったバニラとココアの生地をラップに各々包む。あとは冷やして重ねて切って焼くだけだ。


「そういえば、昨日のドーナツはどうしようかな…」


二つの生地を手に持ちながら、箱に入った残りのドーナツを見る。生徒会室には戻りたくないし、これから来る筈の修ちゃんもこんなにたくさんは食べられないだろう。そうだな。新さんの所にでも持っていくか。


冷蔵庫に生地を入れて暫く冷やす。その間にボールとか器具を洗ってしまおう。そうして丁度スポンジを泡立て擦っている時だ。


「ん?」


調理台の上に置いていた携帯が震えた。


「タイミング悪いなぁ」


修ちゃんからの返事だろう。さっさと洗い物を済ませてから携帯に手を伸ばす。


『良いから今は大人しく隠れてろ(`Η´)プン』


「えー…」


顔文字打つ暇があったら簡単にでも良いから説明してくれても良いと思う。


「…クッキー完成させよっと」


メッセージの意味は気になるけど、それよりも今はクッキーだ。冷蔵庫から先程の生地を取り出してきて、溶き卵を塗って重ねた。


「…はぁ」


こうやっていつも通りお菓子を作っていても、少しは気が紛れるけど考えてしまう。


転校生と会長の事。


「どうしようかなぁ」


会長が本当に転校生を好きになってしまったのなら、俺は諦めないといけない。転校生も満更でもない反応だったから、きっと二人は両想いになれる。俺はそれを、会長の邪魔だけはしたくない。そう思うのに、苦しい。


自分のこの気持ちには最近気付いたばかりだった。昔なら絶対抱けなかった感情なのに。


「俺、結構本気だったんだ…」


ポツリと呟いて慌てて首を振る。こんなの俺らしくない。


「えと、18分くらいだっけ」


切って見事な模様を出したクッキーをオーブンに入れて焼き時間を設定する。ここら辺はいつも適当だ。回り始めたオーブンを確認して並べた椅子に座る。


「諦めるとか、まだ完全に会長がそうだと決まった訳でもないし。修ちゃんのメッセージにも“かも”が付いてたもんね。だからもう少し様子をみよう!」


だんだん考えるのも面倒になってきた。落ち込み続けるのも疲れるし。そこら辺はいつもの俺らしくて安心。


そんな風にほっと息を吐いた時だった。


ガラッ!!


「!」


(へ?)


いきなり調理室の扉が開いたのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ