アルテの忠告
沢山の方に見ていただけて光栄です。
頑張ります。
シノはティアに言われた遺跡に来ていた。ティアが言っていた通り、数多くの古代の遺跡が残されていた。それら多くは今も保全と修復を行いながら使用されているようだった。古来より上質な石灰岩が産出したため石像といった芸術分野も発達したようだ。観光都市として成功した所以かもしれない。栄えていたものと廃れていったもの、時の流れを感じながら一人の人間では動かすこともできないような巨石から成る遺跡群の周りを歩くことはその遺跡の裏側にあるかつて人々が確かにいたのだと感じさせてくれるようだった。
シノは中でも特に大きい劇場に訪れていた。半円形になっており美しい石造りの劇場である。その壮大さに息をのんだ。屋根もなく自然に還らんとする崩れかけの劇場とはいえ、呪いによって気を失ってしまう可能性があったため長くはいられなかった。とはいえ人間の力強さを感じられたようでシノは満足だった。
ちょうど祭りの準備をしていたのだろう。遺跡には多くの人がおり、ステージから客席まで色とりどりに飾り付けられていた。祭りの日の夜には舞台上で神話の再演が行われるようだ。おそらく老婆が語ったくれた神話だろう。
シノが劇場から出て街に戻ろうとしたところで、飾り付けをしていた女性に呼び止められた。見たところシノよりも年上らしい。
「そこのローブの君、ちょっと待ちなさい。」
「はい、何か御用でしょうか。」
「ちょっと話があるの、場所をかえましょう。」
そういうとシノを劇場裏に連れて行った。
「で、話とは何でしょう。私たち初対面ですよね。」
「ええ、私はアルテ、この街で働いているの。」
「そうですか、私はシノ、旅の薬師です。」
「端的に言うわ。これ以上ティアに近づかないで。」
「なぜです?見たところティアの親族というわけでもないですよね。」
ティアは美しい黒髪だが、アルテは赤みを帯びた茶髪だった。
「ええ、私とティアは姉妹でもなんでもないわ。」
「では、なぜです。他人のあなたが口出しする筋合いはないでしょう。」
シノはつい、柄になく強い口調で怒鳴ってしまった。
「事情は説明できないわ。あなたには関係のないことよ。」
「それでは、納得できません。」
「どうしてそこまでティアに執着するの?あなたたち出会って数日でしょ。」
「それは……。」
シノは答えに詰まった。シノ自身なぜティアにこれほどまでに惹かれるのか分からないのだ。もちろんシノの言動や老婆の件などティアに関して気になることがあるのは事実だ。だがそれ以上にシノはティアに感情を理由に執着していると感じていた。
そんなシノを見て、アルテは攻勢を強めた。
「そもそも、どれだけティアを口説いたってあの子があなたについていくことはできないわ。あきらめなさい。」
その時、アルテの言葉にシノは違和感を感じた。そういって立ち去ろうとするアルテを呼び止める。
「待ってください。今あなたはティアはついていかないではなく、ついていけない、と言いましたよね。」
「それがなに?ティアはあなたにはついていけないわ。」
「つまり、ティアの意思と関係なくティアにはパムッカレを出られない理由があるんですか。」
アルテが一瞬うろたえるがシノに向き直り毅然と答える。
「えっええ、そうよ。ティアにはここから離れられない理由があるの。」
「それは何でしょうか。」
「なんだっていいじゃない。家族だって置いていけないわ。」
「ティアに家族はいないと聞いています。」
「うるさいわね。あなたには関係ないって言ってるでしょ。これはこの街の問題よ。外野が口をはさむな!」
シノが反論しようと口を開いた瞬間にアルテがシノを平手打ちした。いきなりのことだったので避けられず、シノは地面に倒れ込んでしまう。
「何度も言わせないで。二度とティアの前に現れないで。次ティアの前に現れたらこの街にいられなくなると思いなさい。」
そう吐き捨てるように言い残してアルテは足早に去っていく。
今まで、シノはこれ以上ティアに関わるかどうか迷っていた。今日の食事で恩返しという口実も失った。だけどもし、もしティアがこの街を出ることを望んでいてそれに助けがいるのなら、シノは魔法を使うこともためらわないと決意した。