ティアとの食事①
そういえば、パムッカレは実在する遺跡なんですが気候や植生その地の名物なんかは小説内で出てくる描写は実際に物とは違う場合があります。
完全に再現するだけの力が私にないが故です。
すみません。ご了承いただければ幸いです。
パムッカレ某所、日中のわりに薄暗く人気のない部屋だった。
雑多な恰好をした男とも女ともわからない人物が一人その部屋に入ってくる。
先ほど部屋に入ってきた人物は虚空に向かって話し出す。
「対象に接触した。対象は生贄とも接触している。対象には与えるべき情報は伝えた。」
話し相手は姿を現さない。しかしこの場所でこの時間に任務の進捗を報告する手はずだった。
対話する相手が見えることはないままその人物は一通り報告を終えると、その部屋から老婆となって出ていった。
シノは広場の泉の端に腰かけながら老婆のなんとも形容しがたい不気味さにゾッとしていた。発言からしてシノが魔女であることを知っている可能性がある。仮に魔女であることを知られているならばどこでそれを知られたのか気になるし、魔法を使って助けなければならないような状況のティアのことも気になる。そしてなぜそれをシノに伝えたのか。シノは疑問ばかりで頭を抱えていたため、通りの方からかけてきたティアに気がつかなかった。
「お待たせしました、シノさん。どちらへ行きましょうか?」
「うわっ!」
シノはついびっくりして大声を出してしまった。そんなシノの様子を見てティアはクスクスと笑った。ティアが笑っているのを見てついシノも微笑んでしまうが、先ほどの老婆の言葉が頭をよぎりなんだか笑いきれないでいた。しかし、とりあえず今はティアとの昼食に意識を切り変えることにした。
またシノは考えていた。ここはティアの地元なのだからシノが率先してティアを案内するわけにはいかない。しかし、呪いのせいでシノが食事をとれる場所は限られてくる。屋台で食べ歩きも考えたのだが、せっかく食事に誘っておいて屋台というのも気が引ける。お金のこと一食分くらいは贅沢してもいいくらいには持っていたから大丈夫だけど……。などとまたシノが考え込んでいると、
「どこにしましょうか?ここパムッカレにはたくさんの名物があるんです。どれもおいしいものばかりで、今日は奮発しちゃいます。」
ティアがやけに陽気に言った。もしかして気を使わせてるのかもと思ったがなんだかティアが笑うのを見ているとシノ自身も幸せを感じるようで心地よかった。
「せっかく晴れてますし、オープンテラスの食事処にしませんか。」
シノはもしティアに行きたいところがあったのなら申し訳ないなと思いながら、さりげなくシノでも食事がとれそうな場所に話を持って行った。
「オープンテラスですか、いいですね。良さそうなところを知っています。食事もおいしいと聞きます。」
「じゃあ、そこにしようか。」
とシノが言うと、
「行きましょう!」
そういってティアはシノの手を握って駆けだした。
シノにとっては同い年の友人というものは得難いものだった。二人で手をつないで大通りを走るのは照れくさくもあったが、それ以上にこの上ないほどの幸せだった。だから二人をほほえましく思う群衆の目線の中に混じった睨むような視線にシノは気がつかなかった。