お祭りの神話
初心者なので読みづらかったりしたらすみません。
意見を下されば修正します。
お礼の薬を家において来ると言ってティアは一度家に戻っていた。大通りの半ばほどの広場で待ち合わせなのでシノは広場中央の泉に腰かけて時間をつぶしていた。ティアの家はそんなに離れていなかったので、すぐに来るだろうと待っていると、近くにいた老婆に話しかけられた。身なりもきちんとしていて感じの良い老婆だった。
「こんにちは。ここらじゃ見ない顔だね。旅人さんかい?」
「ええ、旅をしながら薬師をしています。」
「薬師かい、まだ小さいのに偉いね。」
「親がいないもので、仕方なくです。薬師としてもまだまだですし。」
「そうかい、先の内戦かい。」
「はい、多分。実はあまり覚えてないんです、両親のこと。何となくいたことは記憶にあるんですが、詳しいことは全然で。」
「苦労してるんだね。」
「もう慣れたものです。」
「そうかい。強い子だね。今週は祭りが開かれるゆっくりしていくといい。」
ふと気になってシノは老婆に尋ねた。
「どのようなお祭りなのですか。」
「名前はフリギヴァーレ、この街の発展を祈り、温泉の恵みに感謝するお祭りだよ。この地に伝わる神話が由来でね。ここパムッカレは昔から温泉の恵みによって栄えてきた。年によっては温泉の出が悪くなることだってある。そうしたら冬に凍えてしまうだろ。そんな時に祭りをしてきたのさ。」
「神話について聞いてもいいですか。」
とシノが聞くと「少し長くなるよ」といって老婆は話し始めた。
「実はフリギヴァーレは寒さを逃れるという意味があるのさ。
昔、まだ人間と神がもっと近くにいた時代のことだ。神にも神を産む大いなる存在ってのがいてね、そうやって生まれた神たちがこの世を司っていた。そしてこの地パムッカレには水の女神と火の女神がいらっしゃった。二人は仲の良い姉妹でこの地の人間と触れ合いながらこの地を治めていた。人々は神に守られ、神は人々に祭られて幸せな時代だった。
だけど、ある時大いなる冬が訪れた。その冬は四季によるものではなかった。大いなる存在に生み出された神たちの行く末、冥界フリギテッラによるものだった。その寒さに水の女神は凍り付き、パムッカレの人々は寒さと渇きに苦しめられた。
最初は火の女神が人々に暖を与え守り、水の女神を元に戻そうと力を振るった。しかし、幾重もの神の死から成る冥界には火の女神だけでは抗えなかった。人々が死に祈りをささげる人間がいなくなれば火の女神も水の女神も死んでしまう。追い詰められた火の女神は自らを用いて冥界の寒さを防ぐことを選んだ。
火の女神は地の中へ自らを投げ、冥界からの寒さを防ぐ業火となった。
火の女神の献神によってこの地は寒さから逃れ、春が訪れた。春の陽気によって目覚めた水の女神は火の女神がその実をささげてこの地を守ったことを知った。
地の底に落ちた火の女神を助けようと水の女神は必至に手を伸ばした。しかし水は火の女神の業火でいくら手を伸ばそうともその水の手はすぐに蒸気となって届かなかった。姉を助けられない事へ流れた涙がこの地の水脈となった。今この地で温泉が湧くのは今でも火の女神が冥界の寒さからこの地を守り、その火の女神を求めて水の女神が泣いているからと言われているって話さ。
本来よく伝えられるのはここまでだけど実は続きがあってね、火の女神に会えない水の女神は代わりに力を与えた人間に火の女神のもとに向かわせた。それがかつての魔法の基だと言われている。しかし今は魔法も政変で廃れてしまったけどね。」
「悲しいお話ですね。」
とシノが言うと
「なあに、今はほとんど楽しいお祭りだよ。」
そういって老婆は笑った。
ふと、シノは疑問に思ったことを老婆に聞いた。
「そういえば、祈られなくなると神は死ぬのですか」
「見る、聞く、触る、そういった様々なものを通して存在する信じること。それは一番簡単な魔法だよ。」
そういうと老婆は立ち上がって歩き出した。そうしてシノとすれ違う瞬間つぶやいた。
「ここで会ったのも一つの縁だ。私から一つお願いだよ。あの子をティアの助けになっておくれ。君はそれだけの力をもっているだろう。」
そうシノに言った声は老婆には似合わずひどく冷たくて、思わず振り向くとそこには老婆はいなかった。