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短編集・散文集

邂逅

作者: Berthe

 いつに変わらぬ休みの前日、となればもっぱらお酒と相場はきまり、芽衣(めい)は近頃二週に一度は足の向く焼き鳥屋の暖簾をするりとくぐるとメニュー取るいとますらひときわ惜しんだものか、まずはビールを一杯、ほっと落ち着くと、それを片手に壁の短冊にゆるりと目を走らせいつもの好みにあつらえたうちから、ぼんじりを選び身をひと口かじりとる。

 席について三十分もしないうちジョッキの四分の三はすでに退いて、残りをぐいとひと飲み、此度はメニューをながめる余裕さえみせつつ注文はせんから変える道理もなし、新たなビールをちびりちびり、串を頬張り漬けた茄子を楽しむ最中、目先にふとあらわれた二人連れ。その後ろからひょっこり顔を出して遠慮も次第もなしに芽衣の向かいに傲然と腰掛けた一人の男、じつはこれこそ待ちに待ち焦がれたひと。

 彼は心安い挨拶もそこそこに首をきょろきょろ片手をひらひらついに一声あげてすっすっとやって来る店員を手で制してビールをひとつ、頼むが早いか向き直って、何か頼みますか? と義理でもこちらを気に掛けてくれる優しさ嬉しさに芽衣は断りながら俄に胸ときめかせつつ恥ずかしさにおもてを伏せた。

  *

 ぽっと酔い心地の帰り道、人通りのまばらなそぞろ歩きも足は自然駅へ向かってしまうのが現代に生まれた悲しいさが。今日こそは名のみ知る彼の素性を知りたいなかんずく連絡先を知っておきたい何ならどこへか連れ去ってくれないかしらと胸に念ずるのが嬉しやついに通じたものか、彼はふいと携帯電話を取り出したかと思えば、すぐさまこちらの期待を裏切り耳に当てて話しだす。手持ち無沙汰に芽衣は足元をながめて歩むうち新たな一足が欲しいとふんわり夢見る矢先、不意に名前を呼ばれて、思わず知らず鞄をぎゅっと握って背をびくっと反らせつつ、はい、と答えると、またあの店での邂逅を約してくるり、彼はそそくさせわしく、駅が近づいてきたものか俄の雑踏に見る間にまぎれこむ。芽衣はふっと気抜けしてほっと胸を撫で下ろしふふっと口元のほころぶまま今夜の余韻とつぎへの期待にふわふわ心躍らせつつ足はすたすたこれでまた仕事に精出せると浮き浮き張り切った。

読んでいただきありがとうございました。

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