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第七話 これからはあなただけ…


「ありがとうございました」


 あれから一週間。わたしは夕焼けのヴェールが下り始めた空の下、部室の扉を閉めた。


 野球部の応援から帰ってきて、わたしのチアリーダーとしての活動は区切りをつけることにしていた。


 次の年次の後輩たちへの引き継ぎ、そして部室に置いてあった荷物の片付けをして、今日で部活を引退した。




 ……振り返ってみると、我ながら無茶苦茶な高校生活だと思った。


 運動が出来ないわたしが、チアリーダーだなんて、本当に誰が予想していただろう。


 でも、そんなわたしに夢を託してくれた人がいた。その人のために、わたしが出来ることをしよう。そして同じ舞台に立とう。そう決めて過ごしてきた二年半。長かったのか短かったのか……。


 このあとの時間は受験勉強に充てる。それは自分の中でも決めていた。



 夏の終わりは、こんなに寂しいものだっけ。久しぶりにそんなことを思って、自転車置き場に向けて歩き出したとき、



「光代……」

「亮平……」



 同じように、グランドの隅に座っていた亮平。

 実はあの試合のあとに言葉を交わしてから、顔を見ていなかった。



 心の整理もあるだろうし、夏休みが終わればまた二人で登校することになるのだから。



「もう……落ち着いた?」

「光代の方こそ、大丈夫だったか?」

「あはは、帰ってきてからはもう有名人だったよ」


 試合中にも応援代表として何度も顔が映ったし、あの試合後のやり取りや例のエピソードも幾度となくテレビで取りあげられて。もうすっかり亮平とわたしたちが()()恋人同士だと全国放送されてしまったかのように思える。


 とは言っても、わたしの両親も亮平のご両親も、わたしたちの関係には口を出してこなかったし、雰囲気的には逆に歓迎しているようにも感じた。


「声、出るようになってよかった」

「うん、心配させてごめんね」


「光代、ごめんな……ほんとならもっと長く……」

「ううん。わたしの夢、叶えてくれたじゃない。謝る方がおかしいよ。ありがとうって言わなくちゃいけないのはわたし。亮平……、格好良かったよ。ちゃんと一生分目に焼き付けたから、忘れないよ」


 嘘じゃない。あの時の姿を見て素直にそう思えたんだよ。


「あの打席で、光代の声が聞こえたんだ」

「本当に?」

「うん、名前呼ばれてアルプス見たら、泣きそうな光代が見えて、このまま帰すわけにはいかないって……。でも結果は同じだったけどな……」


 やっぱり、あれはわたしのこと見えていたんだ。あんなスタンドの中のちっぽけなわたしを探してくれていたなんて。


 同じ舞台に立つ。その夢を叶えてくれた。だから、力一杯声を上げて応援したよ。だから、後悔は何もない。


「なぁ、光代はもう応援やめちゃうのか?」

「えっ?」


「その髪、チアリーディング部に入るって伸ばしたんだろ?」

「う、うん……」


 もともとはショートボブだったわたしの髪。でも、チアをやるときに、ポニーテールの方が見栄えがいいと、ここまで伸ばしてきた。これを切るかどうか決めていなかったっけ。


「それ、切らないでいてくれないか?」

「え?」

「光代、ポニーテールも下ろしたときのロングも似合うし、俺の好みだし……」


 亮平、突然のカミングアウト? 顔が赤いけど、なんだか嬉しい。ちゃんと見ていてくれたんだ。


「俺さ、光代の応援があれば、出来ないことなんかない気がした。光代にもっと応援してほしいんだけど……」


 それって……、


「わたしが、そばにいていいの?」

「光代に隣に、ずっと俺のチアでいてほしいんだ」


 ずっと考えていたセリフとは少し違っていたけれど、心の中の想いは同じ。しっかりと伝わったよ。


「いいよ……。ずっと応援してあげる。これからは亮平だけ。一番近くでいいんだよね?」



 ヒグラシの声が響く夏の夕暮れ、わたしたちは初めて手を繋いだ。


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