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最強のパラメーターSSSと言われたけど詐欺では?  作者: ぎずも・パンタローネ
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聖者と翡翠の物語4

 

「おお、怖い怖い。そんなもんを持って俺を殺す気かい、聖女さんよ?」


 髭面の山賊のボスはからかうようにそううそぶいた。口では笑いながらも油断している様子は見えなかった。


 完全に油断しきっている手下の一人は少し後ろですぐに加勢できるようにか棍棒のような鈍い刃物を振り回して威圧を与えてくる。いや、実際怖い。あれが当たったら鮮血が吹き出し、清潔にした状態で止血しなければ致命傷になることもあるだろう。

 防御力SSSランクの俺の皮膚は別に特別な固さを持っていたりはせず、骨が固かったり、腱が異様に丈夫だったりするだけなのだ、普通に斬れる。それはすでにゴブリンから逃げる時に葉や枝で切られたことで体験済みだった。


「私は聖女などではない!」


 むっとした顔で鍋を構えるその人は、確かに聖女には見えなかった。


「ゲハハハハ。勇者を殺して、賞金首になった聖女様だもんな!そんな粗末な鍋でも人間を殺せるのかもしれねえな!」


「ボスぅ、それマジですかい?あの鍋喰らったらじゅーっとして身体に穴が空いたりするんですかい?勇者ってのはとんでもねえ化物って聞きますぜ?」


 後ろで威勢よく棍棒のような剣を振り回していた手下が勢いを弱めて少し後ずさったのが視界の端に映る。


「バカ!おまえ!んなわけあるか勝手に変な想像してビビるんじゃねえよ!」


 ないよな?ってその聖女様に尋ねる髭面はどこか愛嬌があるように見えた。

 実際、道を歩けば火の手が上がるようなエネルギー的に不安定な世界だ。聖女かなんだか知らないが、特別な力があれば鍋の一部を異様に加熱して相手を焼き切ることくらいは出来なくもなさそうな気がした。


「さて、どうかな?試してみるか?」


 聖女と呼ばれたその人は強がるように口を歪ませ挑発してみせる――俺にはどうにも強がりにしか見えなかった。


「バカやろう!ここまで来て女一人にすごすご引き下がれるかよ!……ん?もう一人いやがんな?誰だ?」


 奥まったところでかの人に庇われるように隠れていたからか、ようやく山賊のボスは俺を認識する。


「はっ、いい御身分だな?男とイチャイチャランデブーってか?はんっ、今まで自分の女が追い詰められても声一つ上げねえ間抜け面が一人増えたところで何も変わりやしねえ!とっとと済ませるぞ!!」


 戦いとは無縁そうな傍観者面の俺を聖女が庇っていることで状況がよりハッキリとしたのだろう。山賊たちは勢いを戻してこちらにジリジリとにじりよってくる。

 聖女の鍋に殺傷能力があるのかないのかはわからないが、油断して飛び掛かってくることはないようだ。


「奥に一人だけ潜れる小さな抜け穴がある。おまえだけでも逃げろ」


 まるで聖女のように、美貌のその人はこんなときでさえ俺の心配をしているようだった。


 逃げる?バカなのか?聖女は全く人の心がわからないらしい。SSSランクの力を持ってて力で負けるはずもない怖い山賊に追い詰められたごときで?恩人を置いて逃げれるやつがいると?


 俺は感情を爆発させるように手にたまたま持っていたまずくて噛むと歯が欠けそうなほど硬い芋を握り潰し、勢いに任せて山賊たちに投擲する。


 SSSランクパラメーターの力で投げ出された僅か3cm弱の芋の欠片たちは――通常の筋力で放られただけでは全くなんの意味もないそれらは、その反動で強かに一人顔面を痛烈に壁に打ち付ける俺を置き去りにして、ただ振るうだけで空間を切り裂く驚異的な加速をもって、空気抵抗を忘れたかのような速度で山賊のボスの顔面へと殺到していた。


 ジリジリと肉を焦がすような臭いを漂わせ、山賊のボスはなにも言わずにただ倒れる。糸が切れたマリオネットのような様は現実離れしており、誰も声をあげることができなかった。

 俺も含めてである。


 何が起きた、聖女と呼ばれた美貌の人が凄まじい轟音と舞い落ちる土埃に今気づいたように後ろを振り返る。


「聖女はやはり噂通りの悪魔だったんだ!勇者殺しの悪魔の噂は本当だったんだ!!」


 彼女がこちらに振り向くころには山賊どもは金切り声をあげて逃げ出していた。山賊のボスはピクリとも動かなかった。


「とりあえず、逃げよう」


 俺は首のと鼻を痛めたかのような痛烈な痛みを押して辛うじて声をあげる。

 あ、ああ。聖女と呼ばれたその人は薄汚れ顔で唯一美しく輝く新緑の瞳をまたたかせて、困惑するように俺の手をとり駆け出した。


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