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30cmの人造人形  作者: アサキ
潜入
29/51

人形の事実


僕の知識では理解が出来ず、まともな質問もままならない。結果的にオウム返しとなるだけ。

「外? 戦いって……」

「外国は全滅したんと違うんか」

 ミキの的確な質問には一切反応しない。言いたいことを述べるのみ。

「理解は不要です。貴方方は深く考える必要はありません。ただ選べば良いのです──技術進展のために今、協力するか。将来の戦いに備えて、今は眠るか」

 考える必要はない──その言葉がとても耳に残った。

 目を閉じて、かつての自分を思い出す……そのままでいいと言ってくれたオトナシの優しい響き。家の中に引きこもり、心地よい空間で生を繋ぐだけの日々。

 けれど彼女が僕を守った理由を知った。自らの思考を放棄する恐ろしさを知った。

 瞼をあげて、目の前の男を見つめる。恐ろしくなどない。

「目的を教えて下さい。僕達には知る権利がある──そうでなければ、僕は選びません」

 どよめき。分をわきまえろと怒声。代弁者を名乗った男も目を細めてこちらを見下ろしてくる。

 口走ってからまずかったとも思ったが……後悔はなかった。

「相手も見ずに、こぉわいこと言いよるわ」

 隣を見ると、ミキは満足気に口角をあげていた。

 場は喧騒──そこへ一人の声が響いた。

「お静かに」

 全員を制止して一歩踏み出したのは、驚いたことにあの人だった。

──ウミナリさん。

 ヒールの音をカツリと立て、黒髪を耳へと掻きあげた。

「彼はまだ幼い、意気がるのも致し方ないでしょう。皆様も痴れ者ではないのですから、そう騒ぎ立てず」

 眼鏡の奥の目をすっと細めて、周囲の人を一瞥……牽制。ざわめきが止む。この人がそこまで発言力を持っているとは想定外だったが、お陰で助けられる。

 場が静まったのを確認すると、彼女は僕へと視線を送ってきた。

「しかし、センチの人形、使い手としての素質は歴代記録を更新する可能性が示唆されます。是非とも進んで協力して欲しい」

 僕の次は、上座の男へ。

「技術部門最高責任者として、私からお話する許可をいただきたい。よろしいでしょうか」

「貴女には一任するよう言付かっております──そう思われるなら、お好きにされると良い」

 微笑みを浮かべてお辞儀する様は高雅。若く見える割に年齢はいっているのかもしれない。

 最高責任者、ウミナリと呼ばれる女性──招集を直接知らせ訪ねてきた政府関係者。兄やカンナの反応から少なからず所縁があることは想像していたが、正体は把握しておらず。

「技術……?」

「マリオネット全般のことよ」

 呟きが聞こえたのか、即座に伝えられる。ウミナリさんは僕達へと歩み寄ってきた。

 マリオネット──頷ける。僕達に対して好感触だったのも納得できた。ミキは首だけ動かし、僕は彼女の方へと向き直る。以前と同じように、優しそうな笑み。

「マリオネットはね、我々の希望なの」

 そうして──彼女は語り始めた。嬉々として……恍惚として。

「街で使っているマリオネットは知っての通り、収縮率が著しい。まさに人形サイズ……そうでしょ?」

 そうと言われても、そういうものだという考え。代わりにミキが応えた。

「死後変化を防ぎつつ、新規ATPの生成がなくともイオン輸送を維持させるために容積自体を縮小させた──とか言いよるが、ようは固定液の作用やろう」

 小難しい単語を連ねる姿は、まるで兄のよう。こういう時にコイツも人形師なのだと……自分の体を助けたのはコイツなのだと、改めて認識させられた。

 頷くウミナリ。

「ええ。施術後は原寸の二十パーセントほどが限界。けれど、それを零にして──実測値百パーセントを維持させる」

 マリオネットとはあのサイズのものだという固定概念。それすらも覆そうと言うのか。

「百パーセントって……」

「人そのまんまね」

「そんなことしてどうすんじゃ、デカいだけ邪魔と違──」

 言いかけて、ミキは目を大きく見開いた。体の向きを変えて、僕と同じように彼女を正面に。

「勿論、課題はまだ沢山あるわ。媒介となる電解質を含む液体に浸からずとも行動できる工夫……まぁこちらもほぼほぼ解決済みだけど」

 嫌な予感は──徐々に形に。また輪郭を表す。

「自分で歩けば、邪魔じゃないでしょ」

 満面の笑みで彼女は言った。

「おい……まさか」

 今度は顔をしかめて……汚いものを見るようなミキの目付き。

「街の子達にとっては所詮人形遊びでしょうね」

──所詮ってなんだ、ままごととは違う。

 つい僕も眉間がぴくりと反応してしまうが、ぐっと堪える。幸い彼女はミキを見て話していた。

「けれど、人形師の君なら考えたことがあるんじゃないの? これが──実寸大で動いたらって」

「ああ……せやな。解体しとりゃ、嫌でも想像してまう──つぎはぎだらけの人造人間っちゅうもんを」

 二人は鋭く睨み合ったが、ウミナリさんはすぐに、ぷいと顔の向きを変える。また僕を見つめてきた。

 彼女の言葉が続く間も……ミキが話した人造人間という単語が頭の中で繰り返されていた。

「貴方も来る時に見たでしょう。文字通り馬車馬のように働く人形を」

 人形……人形なんて見ていない。だけど見に覚えがある。城へ来る時に僕等を運んだ無言の二人──あの重さを易々と平気で動かし疑問。同時に全くの感情が感じられず……不気味に思った。

 はっとする。

──まさか、あれが。

「あれが人形言うんやな」

 僕より早く、ミキが食いついた。

 にこりと……ニヤリと、ウミナリさんは得意気に笑う。

「そうよ、素晴らしいでしょう」

 言葉が出ない──あれが人形。僕達がやっているマリオネットの進化形。成れの果てだと言うのか。

「でもまだ不完全でね……あの子達は特定の命令しか再現出来ないの。君達のお人形さんみたいに、全て指示通りには動いてくれない。キャパオーバーなのか何なのか」

 マリオネットは人を使った罪過。 

 なのに、それでは──従命厳守の操り人形。

 今度はさも困ったように、彼女は首を傾げた。

「ちゃんと成功したのは一体だけ。まだ再現性に欠ける不確かな技術だから、益々検討が必要。センチ達のように相性のいいペアの協力が必要不可欠なの」

「……それが完成したら、何になるというんですか」

 躊躇なく、答える。

「替えのきく人間兵器」

──思い返せば確かにそうだった。

  人形の中枢は強固に守られているから、僕のように無理をしなければ基本的に壊されることはない。たとえ他のパーツが損傷を受けても交換、修理が容易に可能。

「優れたパーツの寄せ集め。完璧な人間なんていないもの。ダメになったら部品交換。人を増やすのに技術は要らない──神様はとても良い発明をされたわ」

 吐き気がした。口元を押さえて僕が黙っていると、ミキは更に冷たく言い放った。

「人形を公認にしとんのも、それが狙いか。戦争に備えた下準備ちゅう訳か」

「我々が欲しいのは即戦力。当然でしょう。だから強い操り手と素材のよい傀儡を集めてきた──センチ達のように」

 すっと目を細めるミキ。それ以上、問うことはしなかった。

 一方、僕は発言することが全く出来ず……説明された単語を一語一句噛み砕くのに必死だった。

「さぁ、教えてあげたのだから選びなさい──もう普通の生活には戻れないわよ」

 最後にウミナリさんは笑いながら、そう言い放った。


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