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転生悪魔は魔法を使う


先ほどのやり取りを見ていたライ……山猿の所属するパーティメンバーが遠巻きにこちらをみていた。

女が一人に男が二人。

これといった特徴のない奴らだ。

ただ少々装備が薄いような気もする。


彼とは別に魔術師らしき女が荷馬車の中で何かを調合していた。

青白く輝く木の枝をすり鉢ですりつぶしてこれまた見たことがない銀色の液体をすり鉢に注いでかき混ぜる。

あの青白く輝く木の枝が神木やらで銀色の液体は水銀だろうか。


薬……だと思いたいが。それをゴリゴリ音を立てて調合している側ではぜいぜいと息を荒突かせながら苦しげに横たわる少女が。これはラナックの言っていた急病で倒れた娘だろうか。

他にいないか見回すが山猿とその仲間とラナックと目の前の魔術師と少女の他は御者だろう。馬車を操作する運転手の冴えないオヤジが四人ばかり。あと召使いみたいな男が2人だ。


冴えないオヤジを見ながら、


男の娘だ


とかいうんじゃないだろうなとか馬鹿なことを考えながら見ていると汗を浮かべて馬車の陰にかくれた。

うん、ないな。



「娘とやらはそいつか」


俺が指で寝ている少女を指すと、ラナックが神妙な様子で深く頷いた。



「《我は影の血脈、深き闇よ姿を見せろ"ディクレクト"》」


魔法だ。俺の足元から伸びた影が不自然に揺らめきドロリとした液体が地面から湧き出し荷馬車の床で眠る少女を包んだ。調合していた魔術師が異変に気付いて攻撃をしようとする前に液体は影に染み込み消える。

深い闇の力で状態異常を見つける看破系の魔法だ。人間にも同じ魔法。というか魔術があって彼らなら『大いなる光よ、彼のものを覆う闇を暴き給え"ディクレクト"』だ。魔法とか魔術をつかうとチャットに詠唱文が流れるからよく覚えている。


「ラプラス様……」

「安心しろ、少し"魔術"でみただけだ」


「ほぅ、みたことのない魔術でしたな」

「当たり前であろう、我を誰だと思っている」


悪魔と人間が敵対している世界だから魔法じゃなくて魔術でごり押しだ。いけるいける。

ラナックは感心しているようだ。


「それで何かわかりましたか?私の娘は何を患っているのでしょうか?」


「ふむ、"呪い/魔女の祭典"だな」

「なっ!?の、呪い……ですか」


「ありえないッ!誰だか知らないけど嘘をつかないでくれる」


お前こそ誰だよ。という言葉を飲み込んで、対面するのは名を知らぬ魔術師の女。

調合という自分の仕事を放棄して激おこプンプン丸と言わんばかりに口をへの字に曲げて気難しそうな顔で腕を組んでいた。


「む、貴様。魔術師ではないか」


「はぁ?そうですけど」

なんだこいつ、見ればわかるだろという目だ。


「我はラプラスだ。貴様いい度胸だ何という名だ」

てへっ、僕!ラプラス!君名前なんていうのっ!キラン☆


「は?アリーシャだけど」

イスラム圏にいそう。


「そうか、貴様。魔術師ならば病魔であろうが呪いであろうが"吸魔"で吸い取ればよかろう」


吸魔とは魔術師が悪魔と契約して手に入れる初期能力。契約した悪魔より弱い存在が発動した呪い、バッドステータス、勝手になった病気を吸収して状態異常を解除する魔術だ。



「きゅうま?は?意味わかんない。あと貴様貴様いうのやめてくれないかしら。アンタ何様のつもりよ」


「ラプラス様になんていうことを!口の利き方を覚えろ」

ラナック吠える。お前どっちの味方なんだ、そいつお前の護衛だろ?いいぞもっとやれ。


「はぁ?……ん?ラプラス?どっかで聞いたことある名前ね」


「知り合いですか」


「知らん、こんな出来損ない魔術師なんてあっていたら絶対覚えているだろうしな」


「はぁ!?出来損ないってね!アンタ!ならやって見なさいよ!神木を使わないでその素晴らしい魔術とやらで治して見なさいよ!」

いや素晴らしい魔術とか言ってねーし。


「ふむ、よかろう。このような戯言で我が力を使うのは不本意だが我に忠実な人間の娘を救ってやらんでもない」

つまり、なんか助けてやるよ俺様寛大だからなってこと。


「おおっ!では」

「ふむ、そこで見ているがよい」

「ぅ……ん。パパ……」

「ララ……大丈夫だ。今精霊様が直してくださるぞ」


ラの付く名前、本当に多いな。ラナックにライナー、ララ、ラプラス。ラーラララ♪ラッラッラッラララー♪

「ちびっ子よ、安心しろ」

「ちびっ子っていうな!」



「……お前に言ってない」

自意識過剰かよ。お前の何処かチビだよ。ラナックの方がチビだぞ。

ガキの方に言ったに決まってんだろ。

「ふん、まあよい。先駆者として若輩者に魔術とは何か見せてやろうではないか」


娘に手を向けて詠唱しようとしたが女の魔術師は何やら拗ねているようで、下を向いて砂利を蹴っていた。



「おい、へっぽこ魔術師」

「はぁ!?何よ」

あ、こっち見た見た。効果的。


「見ていろ」


「娘をよろしくお願いします」

そんな大手術するわけでもないんだから肩を抜いておけよとは言わない。

傲慢で凄い魔術師の古代精霊様はうやうやしく大魔術を使うが如くやらなければいけないのだ。

ふぅ……っと無駄な深呼吸をしてから詠唱を始める。


「小癪なる闇の眷属よ、我が力にひね伏せ《吸い付くせ"吸魔"》!!」


《》外の詠唱は無意味だ。なんか凄そうに聞こえるだろうと思って言っただけのセリフに過ぎない。

魔法は発動した。突き出した左手の平に生えた禍々しい口が開きラナックの娘から何かを吸い取る。

体から出てきたのは黒いモヤに包まれた魔女。白い髪に枯れ木のように萎れた青白い肌をもつ老婆。

呪い/魔女の祭典とは、醜愚ウゴバに属する下級悪魔の魔女が発動する魔法で、効果として無作為に選ばれた人間を呪い死に至らしめ魔女に変える凶悪な魔法だが、魔術師の吸魔、呪われている本人ごと光武器で斬りつける等すれば簡単に討伐出来る。それ故大したものではないが、知らなかったみたいだな。

魔術師の癖に出てきた魔女にびびってどうするよ。

「きいぃぃぃぃ……ぃ……」

魔女は金切り声を上げながら左手に生えた口に吸い込まれる。

吸い込まれた後、ばりぼりと音を立てながら口は消える。

遠巻きに見ていた奴らが何やら怯えているが、魔法とはそういうものだ。別に禍々しい口は魔女を吸い込んでばりぼり音を立てていたが、仕様だ。食べてない安心しろ。


と、すっかり元気になったようで穏やかな顔を浮かべて寝続ける娘。

スウスウと息をして、先ほどの苦しげな表情とはうってかわって具合が良さそうだ。


「へっぽこ魔術師、よかったな。今度からどうすればいいかわかって」


「うるさい!私が作った薬を飲んでいても治ったわ!ライナーちょっとのんでみなさい!」


「はぁ!?お、俺かよ」


「山猿、やりなさい」

「ラナックっ!あとで覚えておけよ!」

あ、なんか楽しそう。まんざらでもないのか?山猿って言われるの。


「うっへ、やべえ色していやがる。なあこれ大丈夫なのか?」


「大丈夫に決まってるじゃない!何?……もしかして天才魔術師アリーシャ様の魔法薬が信じられないというつもり?」

つもりつもり。自分で天才って言っちゃうやつの魔法薬なんて飲みたくないよな。わかるぞ山猿。


「ま、いいぜ。男儀をみせてやる」


「ライナーァ!死んだら骨は拾ってやるぞ!」

「いっきいっきいっき!!」

「本気で飲むとか漢ですねぇー!」


「お前ら縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよッ!」

離れたところでみている彼のパーティも茶化し始めた。


「ぐびっ……ごくっぷはぁごぐ。……うッ!?!」



ぐびぐびと勢いよく飲んでいた山猿は瓶に口をつけたまま目を剥いで後ろに頭から豪快に倒れたのだった。


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