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ハレーの友人

蚊と老人

作者: 金城司

 4月の光が差すベンチには、白髪の老人と青年が座っている。

 極端に年が離れた二人が、同じベンチに座る姿は何か風刺画のようで、穏やかな日曜日の公園は、小さな子供たちが駆けて笑う声とそれを幸せそうに見守る父母の視線で満たされていた。


 青年は老人と何の関わりもなかったが、フラフラ公園に来たはいいものの、どこにも自分がいていい場所がない気がして、たまたま空いていたベンチの片側に腰をかけていた。


 物憂げな青年がふと自分の手元を見ると、蚊が一匹、その立体的な黒点が一つ、青年の手の甲の上に張り付いていた。青年は目線を手元に落としただけでただそれを見ていた。青年は何を思うでもなく、広げた片方の手を小さくふりあげる。


「まぁ、殺すことはないだろう。」


 青年は姿勢はそのままで、その声の元に顔を向けた。

 隣に座る彫刻のような老人の声であることは、その口元がそぼそと動くのを見るとすぐにわかる。


「この歳になると色々考えたりする。食物連鎖なんてものがあるだろう。あれも見方をかえると実は生かし生かされていたりするのかもしれない。いやこれを強者のエゴだと言われればそうだが、今日は君もその小さな命を生かして見てはどうかね。」


 青年の物憂げな顔は変わらなかったが、その振り上げられた手はゆっくりと収められた。間も無く蚊はうっすらとした赤色を孕み、青年の鼻の先をゆっくりと飛んでいく。老人はにこりと笑うと、ベンチから立ち上がって去っていった。


 数週間後、白髪の老人は真っ暗闇の部屋の中でテレビの電源を入れて、光沢がある皮のソファーに深く腰掛けた。


 画面に映ったキャスターは深刻そうな顔で言った。


「都内で蚊を媒介とした新型の感染症に感染した患者が急増しています。外出時には十分注意してください。」


 暗闇の中、画面から漏れるぼんやりとした光が、照り返す老人の顔と、何百もあろうか、中で黒点が飛び回る虫かごを浮かび上がらせた。


「いささか人類は増えすぎたのだ。...しかし危なかった あの時青年があの蚊を殺していれば、計画は五年は遅れていただろう。」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。 最初はほっこりするなぁと読んでいましたが、最後の展開で驚かされました。 自分はどんでん返しの展開が大好きだったのでとても良かったです…!
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