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「ロディー髪を結んであげるわ、こちらへ来なさい」


 そう言われて振り向くと、薄いピンクのふんわりしたドレスを着た女性が、微笑んでいるのが目に入った。なんの違和感もなく、返事をする。


「はぁい、ママ」


 そこに、鏡があった。彼女は鏡の前で立ち止まる。不思議そうに鏡を見つめた。

 そこに写っているのは、純白のワンピースを着ている裸足の少女だった。茶色い大きな瞳に、栗色の軽そうな髪。陶器のようになめらかな白い肌。彼女はロディーであり、中村知幸であった。


 ――ユリにそっくり。

「どうしたの、ロディー」

 彼女は少し考えた後、何か思い出しそうで怖くなり首を横に振った。

「ううん、何でもないの」

 にこにこして女性の前に座った。温かい手が頭に触れるのが気持ち良いので、母に髪を結んでもらうことが大好きだった。


「今日は、どのゴムにする?」

 宝石箱のような箱を開けると、宝石のようなゴムがたくさんあった。大きいポンポンの付いたもの、透明なボールの中にキラキラしたビーズがはいったもの、いちごがついたものさまざまだった。彼女は、目を輝かせながらゴムを選んだ。


「んーとね、リィはこれが良い」

 そう言って、宝石みたいにキラキラ光るピンクのハートが付いたゴムを手にとった。

「今日はみつあみにしようか!」


 女性がはしゃぐように言うと、ロディ―も喜んだ。

 女性は髪をとく。ロディーは目だけで周りを見回した。真っ白な世界。左手には大きな窓があり、太陽の光が輝きとても眩しかった。そのおかげか、部屋の中は白すぎて何が置いてあるか見えない。置いてないのかもしれないが。


「あっ、お姉ちゃん良いなぁー!」

 聞き覚えのある声がした。

 向こうからロディ―と同じ身長くらいの少女が走ってくる。


「私も結んでよ」

「はいはい、ロディーが終わってからね、ユーリ」


 ――ユーリ?

 目を凝らして見れば、あの、ユリがいた。




「ユリ!」

 中村は飛び起きた。

 きょろきょろして、自分の部屋のベッドに寝ていたことが分かると、ため息をつく。


「夢かぁー」

 しかし、自分の恰好を見て、目を見開く。昨日の洋服……白いニットと黒いスカートのままだったのだ。これはどういうことだろう。中村は考える。どこからが夢だった?


 ――男の人とオーロラを見たのは夢っぽかった。

 しかし、彼女には夜になって寝ようとした記憶がなかった。


「今……九時!? 仕事!」


 そう言ってから、自分がクビになったことを思い出す。あれは夢ではなかった。大げさにため息をついて、少し考えると、また布団に潜り込んだ。

 しんとした部屋は、まるで夢の続きだ。

 昨日は自分がいつ帰ってきたのか分からないが、親は不審に思っていないだろうかと不安になる。起こしてくれれば、仕事に行くふりも出来たのに、と思う。

 無関心というか、プライバシーというか……クビになったとばれなさそうであったが。

 その時、布団――彼女の足元――で何かがもぞもぞと動いた。何かが足に触れ、顔をしかめて布団をめくる。


「うわっ」


 それ以上言葉が出ない。

 彼女が目にしたものは……生物は、暗い紫色をしていて羽をばたつかせている。小さくてデブなドラゴンのようだった。


「このふかふかの中は暖かいですなーァ。私まで眠ってしまいましたヨーォ」

 ドラゴンは妙なアクセントと発音でそう喋った。

「しゃ、喋った!?」

 彼女が目を丸くしていると、ドラゴンは怒って目を吊り上げる。

「失礼な! 私が喋らないとでも!? この世界の生物と一緒にするではナイッ!」


 ドラゴンは鼻息を荒くして腕を組んだ。

 あぁ、まだ夢を見ているんだ。くらくらする頭を抱え、息を吸う。

「えぇと、ごめんなさい。あなたは何なの?」

「私はだ、旦那からあなたを見守るように言われていまス」

「旦那ぁ?」


 素っ頓狂な声をあげ、誰だろうと考えた瞬間、『俺が助けてやるよ』という声が頭の中でよみがえり、旦那と言っているのがあの男であると直感した。

「あぁでも……」

 ドラゴンは爬虫類のその目を細くした。


「寒くて動けないので、活動するのはもう少し後にしてくれないでショウカ」

 そう言いながらトテトテ歩くと、中村の腹の上に乗っかった。そのまま目を閉じる。「ハぁふかふかのぽかぽか~」なんて言いながら。


「ちょっと! 地味に重い! 私だって忙しいんだから……」

 両手のひらに乗るくらいのサイズとはいえ、腹に乗られると少々重い。中村は恐る恐るドラゴンの硬い皮膚に触る。本当に爬虫類みたいだ……とつるつるしたその体を撫でた。


「君、名前あるの?」

「グレィ……」


 呟くと、寝息をたて始めた。中村はそれを見ると、やれやれという感じで自分も目を閉じた。

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