オープニング(1)
初の連載作品です。
幼いころに夢に出てきた物語を再現しようと思って、書いてみました。もうあの楽しい夢は見られなくなってしまったので。
とりあえず、終わりまで投稿することを目標に頑張ります。
鍵を差し込むと同時に、鋭い痛みが彼女の右腕に走った。
はじかれるようにドアノブから手を離す。
――この胸騒ぎは何だろう。
そっとドアノブに触れてみる。バチッと音が鳴って、稲妻が見えた。まるで、開けられることを拒んでいるかのようだ。
痛みを無視しドアを開けようとする。
――お願い、開いて。
強く念じると、それは突如すんなりと開いた。
勢いよくドアを開き、中に入る。が、部屋の中の光景を目の当たりにすると、彼女はその場に座り込んだ。
頭から血を流す母。血だまりの床に倒れた父。そして黒いマントを着た四人の人。皆の視線はドアを開けた彼女に集まっている。
家の中は物が散乱し、壊れていた。時が止まったように静かだ。
「お父さ……お母……さん……」
ようやく出た声は、かすれて弱々しかった。
「お嬢ちゃん、待っていたよ!」
遊びに来たと言わんばかりの明るく高い声で男が言った。その男は、フードを被っていたものの、顔を隠そうとはしていない。長い銀髪がフードの隙間から溢れている。笑顔が不気味だ。
「こいつが姉の方で間違いないのか?」
冷たい声。
彼女はびくりとして銀髪の横にいる男を見た。わずかに黒い髪がのぞき、死んだような黒い瞳をしている。無表情で生命感がない。
「その子は殺さないで! 私はどうなっても構わないからぁっ!」
母は狂ったように泣き叫んだ。そして、目を閉じて、静かに涙を流し、父の体に両手を置いた。
彼女はその光景を見て青ざめる。
「あ……頭が……」
血だまりに突っ伏している父の頭部が、見当たらない。
「ああ、これか?」
黒髪が、鼻で笑い父の頭部を蹴って寄越した。
父の見開いた二つの目が、彼女を見つめた。息をのむ彼女は膝ががくがくしており、立っているのがやっと、という具合だ。
遅れたように涙が溢れ、彼女は崩れ落ちた。恐怖と悲しみが彼女を襲う。
「お父さん……!」
彼女はそう呟き、震える手を伸ばした。が、父に触れる数センチ前でピタリと手を止める。恐怖が勝ってしまったのだろうか。
「お父さんっ」
父は何も答えない。
それを見ていた母は、また、わっと泣き出してしまった。
しばらくは、泣き声と鼻をすする音だけが部屋に響いた。しかし、彼女が視線を感じたようにぱっと顔を上げると、男たちは声を上げて笑い出した。馬鹿にしたような大笑いが、それまでの雰囲気を壊す。
「お嬢ちゃん、こっちへおいで。俺たちの目的は君だからね」
彼女は口を堅く結んで、ぎこちなく首を左右に振り拒否をした。
と、恐ろしいことに気が付く。
「なんで、闇国の人がここに……」
彼女のいる国は皆、白いワンピースのような布を纏っている。しかしこの四人は、黒いマントを着ている。つまりこの男たちは、異国の者たちなのだ。
しかし闇国と、ここ光国の国境には門があり、入れるはずはない。
銀髪がにやにやといやらしい笑みを浮かべる。
「入るの大変だったんだぞ。吐き気がする考えで自らを洗脳して……」
そこで銀髪は身を震わせる。よほど気持ちが悪かったのだろう。そして彼女の方に歩いてきて、目線が同じになるようにしゃがんだ。
「お前ら全員殺してもいいんだ。仲良く。……そう、仲良くな。まったく、この国の奴らの脳みそはイカレテやがる。何が愛と正義だ。おまけに悪も赦すときた。奴ら全員おててを繋いで地獄へスキップしていけばいいのにって思ったよ。なあ?」
銀髪は黒髪の方を向いて、同意を求めた。
しかし次の瞬間、銀髪は口を紡いで苦しそうに喉をかきむしりだした。
「黙れ。お前はいちいちうるさい。少しはその口を閉じろ」
黒髪が銀髪を睨んだ。銀髪は暴れる。
「口を閉じてもうるさいのか」
黒髪がため息をつく。と、銀髪の口から、ひゅーという奇妙な音が出た。荒い呼吸を繰り返す。
「少しは手加減しろよ……喉を絞めることはないだろ」
黒髪は今や、先程の無表情ではなかった。目がらんらんと輝く恐ろしい笑顔だ。
「ああそうだな。悪い」
その黒髪の足に、母が縋り付く。
「お願い。――お願いします。……この子だけは、助けて下さい……」
母が泣きながら言った。
「土下座しろよ」
ふざけたように巨体の男が言うと、母は素直に従った。
「お願いします。どうか、この子だけは……」
「面白くねえなあ」
巨体の男がそう言いながら、母の頭を踏みつけた。
「お願いします」
「はっ」
黒髪が乾いた笑い声をたてた。しかしその顔は笑っておらず、歪んでいる。まるで、汚いものを見ているようだ。
「俺が欲しいのはこいつだけだ」
そう言って黒髪は彼女を睨みつけた。