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国王の宝を盗み出そう

 どこを見てもきらびやかな装飾の施された城内の通路。


 誰にみせるわけでもないはずだろうに、どうしてここまで金を使うのだろうか。


 ただの貧乏な平民の僕には理解ができない。


 隣にいる現在はいかつい兵士長の姿をしているエイミーを見ると、懐かしそうに周囲を見渡していた。


 ちなみにだが、僕も兵士の男から鎧をはぎ取り変装をしている。


 少々不格好な気もするが、これなら目立つことはないだろう。


「それで、これからどこに行くんだ?」


 そう言いつつ僕は通路の端のほうまで視線を送ってみた。


 以外にも城内には見回りらしき兵士の姿はほとんど見当たらない。もちろん王族らしき人物も全くいなかった。


 すると、エミリーは僕の考えを悟ってくれたのかすぐに口を開く。


「王族は城内に鎧姿の兵士がうろつくのが嫌なのよ。当時は私も同じように思ってたけれど、今考えればおかしな話よね。まさか自分たちが狙われるなんてかけらも考えてないんだから」


 「はぁ」と昔を思い出したのか大きく息を吐くエミリー。


 それに対し僕は特に何も言葉を返さなかった。


「この城には国のお金……とはいっても実際は王族の金なんだけど、金を保管する金庫室があるわ。でも、今回はそこには行かない」


「……じゃあどうするつもりなんだ?」


 てっきり金を奪いに来たつもりの僕は意味が分からずそう問い返した。


 すると、エミリーはニヤッと元王族らしからぬいやらしい笑みを浮かべて僕を見てくる。


「お金なんて私たち二人じゃとても持ちかえれない。私たちが奪うのは国王の秘蔵のお宝よ。私も詳しくはわからないけれど売れば相当な金になるはず」


「なるほど。それなら持ちかえるのも簡単と。でも、そう簡単に行くのか?」


 金を奪うのも宝を盗むのもそう簡単にいくとは思えなかった。


 いくら見張りが少ないとはいえ敵がどこにいるのかわからないのだ。


 しかし、エミリーは何か考えがあるらしく指をたてて左右に振ってみせた。


「この時間は王族の会議があるのよ。国王はもちろん他の地位の高い王族も参加するものよ。その間なら警備もそこに集中するし国王の部屋にも簡単に忍び込めるわ」


「……」


 僕はエミリーの話を聞いてじっと考え込む。


「私のこの魔法だってあるのよ。勝算は十分あるはずだわ」


 自信満々のエミリーは何度も首を縦に振っている。


 エミリーの言う通りこの作戦は十分魅力的なものだった。


 リスクはゼロではない。しかし、リスクを恐れては見返りもない。


 僕は首を縦に振ってエミリーを見つめる。


「よし。やろう。エミリー案内してくれ」


 そうして、僕らは国王の部屋へと向かった。




 --他の扉とは明らかに違うひときわ豪華な扉が奥に見える。


 どうやらあれが国王の部屋のようだ。


「あそこよ。見張りがいるけど私に任せて」


 エミリーの言葉通り国王の部屋の扉の横には見張りの兵士が一人立っていた。


 僕は視線をやや下げて、エミリーの背後を目立たないように着いていく。


「兵士長? どうしてここに?」


 僕らに気が付いた兵士は早速そう尋ねてきた。


 すると、エミリーは即座に言葉を返す。


「国王に取ってきてほしいものがあると頼まれた。ここを通してもらうぞ」


 そう言うとエミリーは無理やりに室内に押し入ろうとする。


 ここで無駄な会話をしていてはボロが出るかもしれないと考えての事なのだろう。


 しかし、見張りの兵士はそう簡単に僕らを通してはくれなかった。


「兵士長。今日は確か隣町に向かったはずでは? 会議の見張りについているとは聞いていないのですが……」


「……事情があってな。今日は会議の見張りにつくことになったのだ」


 やや言葉に詰まったもののエミリーはそう返す。


 僕は手にジワリと汗を感じながら様子を窺った。


「国王が待っている。もう通っていいか?」


「は! はい! すみません呼び止めてしまって!」


 エミリーがじろりと睨みでもしたのだろう。


 兵士の男は慌ててそう口にすると、すぐに扉の前から離れた。


 そうして、僕らはすぐに国王の部屋へと入っていった。


 背後でゆっくりと閉められていく扉。


 扉が完全に閉まられたあとも数秒僕らは沈黙していた。


 そして、一気に力を抜いて息を吐く。


「はぁーー。緊張したわ」


「ばれたのかと思ったよ」


 僕とエミリーは顔を見合わせて言葉を交わす。


 国王の豪華な室内などはこの際気にもならなかった。


「よし。でも時間は無いわ。急いで宝を持ち出すわよ」


「場所は分かるのか?」


 僕がそう尋ねるとエミリーは左右に首を振った。


「ううん。でもここに宝があるのは確かよ。実際ここで何度も見せびらかしてきたのを覚えてる。確か奥のほうから持ってきていたのよね」


 そう言うとエミリーは部屋の奥のほうを指さした。


 そこには確かに奥の部屋へとつながる通路が見えた。


 どうやら僕らがいる大きな部屋とは別にもう一つ部屋があるらしい。


「じゃあ早速探そう。手分けすればすぐに見つかるはずだ」


 僕らは奥の通路へと入っていき、その先の小さな部屋へと入り込んでいく。


 そして、僕はその部屋を見て思わず声を漏らしていた。


「すごいな。宝の部屋か」


 その部屋は壁一面にショーケースが置かれており、そのすべてに宝石やら武器やらが所狭しと飾られていた。


「私も初めて見た。これすべてかなりの価値があるはずよ」


 エミリーも室内のあちこちに視線を奪われながらそう口にする。


「さすがにこれすべては持ちかえれないよ。例の国王のお気に入りはどこにあるんだ?」


 そう言って僕は再度室内を見回していったが、お目当てのものは意外にも早く見つかった。


 部屋の中心。他のものとは明らかに違う特別な台座に置かれた宝石が見えた。


「これよ。この宝石」


 エミリーと僕は台座の青い宝石の回りに囲むようにして立つ。


 宝石はまるで海のように透き通った青色をしていた。


 僕もこういったことに詳しくはないが、これがかなりの代物だとすぐに分かる。


「たしか名前は……『深海の女神』。かなりの値打ちだと聞いてるわ」


「よし。すぐに持って帰ろう。これくらいならポケットに入れて置ける」


 僕は台座から『深海の女神』を取ると素早くポケットに入れた。


 そして、さらに周囲のショーケースも確認していく。


「何してるのよ。速くここから……」


「ついでに持てそうなものは持って帰る。せっかくここまで来たんだ」


 僕は近くにあった銀色の指輪をつかみ取りポケットに突っ込んだ。


 見る限り他のものは武器やら大きめのものが多く持ちかえるのはリスクが高そうだ。


 僕は諦めてすぐにエミリーの後を追った。


「このまま何事もなく脱出するわよ。とりあえずは水路に降りるまで油断しないでね」


「分かってる」


 それだけ言うと僕らは扉へ向かってまっすぐに歩いていく。


 あとは見張りの兵士を抜けて、井戸に降りるのみ。


 それでとりあえずはひと段落がつく……はずだった。


「!?」


 突然開かれる扉。


 そこから現れたの真っ赤なマントを羽織った初老の男だった。


 僕らは思わず足を止めてその男を見つめてしまう。


「兵士長。これはどういうことだ?」


 その男はしわがれた声で静かにそう尋ねてきた。


 微かに怒りを秘めたその声色に僕は背筋が凍るのを感じる。


「国王……これは」


 しぼり出したように話し出すエミリーの言葉に僕はその男が誰なのか理解した。


 『魔人』の頂点でありこの国の国王。


 まさかこの状況で顔を見ることになるとは。


「国王様。兵士長に何かを取ってくるように命じたのでは?」


 扉の奥から顔を見せた見張りの兵士はそう口にする。


 それを聞き国王は何かを察したのかギラっと僕らを睨みつけてきた。


「……貴様らは一体誰だ? 兵士長ではなかろう」


「……」


 僕もエミリーも何も言葉を返せない。


 ただ氷のように固まっているだけ。


 僕は目だけ動かして辺りを確認する。


 この部屋の入り口は国王と見張りの兵士が塞いでいる。


 室内には窓がいくつかあった。


 しかしここは一階ではない。飛び降りればただではすまないだろう。


 それに外に出れたところで逃げ切れるわけではない。


 まさに絶体絶命の状況だ。


 僕は国王と見張りの兵士には見えないようにエミリーの背中に触れる。


「……何を言っておられるのですか? 私は兵士長ですよ。見てくださいこの姿を」


 両手を広げるエミリー。


 その背後に隠れるようにして僕は微かに移動した。


 そして、素早くポケットへと手を滑り込ませる。


 ここに来る前、もしもの場合としてエミリーと考えていた作戦だ。


「後ろの貴様! 何をしている!」


 国王の声が響き渡る。


 しかし、僕はもうすでに目当てのものをポケットから見つけ出していた。


 薬師が作るものとしてはいささか変わり種だ。


「エミリー!」


 その掛け声とともに僕は手に持っている煙玉を地面に投げつけた。


 一気に室内は煙で充満し誰の姿も見えなくなる。


「目くらましか! 小癪な!」


 国王の怒声だけが室内に響き渡っていた。


 煙はそれほど長い時間効果は期待できない。


 時間にして数十秒ほど。


 しかし、それだけの時間があれば十分身を隠すことはできる。


 僕はあらかじめ目を付けていたか大きなカーテンへと走りこみ姿を隠した。


 あとはエミリーが上手くやってくれるはずだ。


「……クソ! 決して逃がすな!」


「はい! 逃がしません!」


 国王と見張りの兵士の声。


 そのすぐあとようやく煙はなくなり、視界は戻り始めた。


「……!?」


 驚愕に染まる国王の表情。


 それもそのはずだ。


 目の前には全く同じ顔をした見張りの兵士の男が二人。


「なんだこれ……」


「お前は……一体」


 お互いに目を見合わせる見張りの兵士。


 僕はその様子を見て思わず笑みを浮かべてしまう。


 彼らにこの状況が見破れるのだろうか。

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