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革命に必要なもの

「まず一番にすることは金の調達だろう……」


 僕とエミリー、ジャックの三人は当然のように席に着いているロードに視線を集める。


「『だろう……』じゃないわよ! なに当然のように私たちの店に来てんのよ!」


「いや僕と姉さんの店なんだけど!?」


 もうすでに我が家のような態度をとるエミリーに僕は思わず突っ込んでしまう。


「それで、ロード……さんはなぜここに?」


 以外にもジャックは冷静な様子でそうロードに声をかける。


 いつもならこういった役は僕のはずなのに……。


 しかし、若干納得のいかない僕をよそにロードは淡々と話し始めた。


「ロードでいい。俺たちに上下関係は無い。そうだろ?」


「は……はい」


 そう返事はするもののジャックはいまだにロードの威圧感におびえた様子だ。


 エミリーはもちろんだが、僕ももはやロードに対する遠慮というものは少しも感じてはいなかった。


 そもそもあそこまで啖呵を切ったのだ、もうそんな小さな感情まで律義に感じてはいられない。


「話を戻すが俺たちに必要なのはまず金だと思う。異論があるのなら言ってくれ」


「……」


 すると、エミリーとジャックの視線は自然と僕へと寄せられた。


 もう僕はこのなかで参謀的役割になってしまっているらしい。


 僕はゆっくりとうなずいて肯定の意を表す。


「何をするのにも金は必要になる。ロードの意見には特に反論はないよ」


「なにか含んだような言い方だな? 他に優先的に必要なものでもあるのか?」


 じろりと睨むような視線を向けてくるロード。


 ロードの言っていることは何も間違ってはいない。


 ただ、そもそも僕らにはまだなにもないのだ。


 必要なものなどありふれている。


「金ももちろん重要だけれど、たとえ僕らが金を手に入れてもそれを十分使えるようなルートがない」


「ルート?」


 首を傾げるエミリー。


「なるほど。つまり様々なコネが必要と……。確かにそれは俺も同じ意見だ。だが、それなら我が『ハウンドドッグ』に……」


「それじゃ全然だめだ」


「……なんだと?」


 別にけなしているつもりはない。


 しかし、ロードは鋭く僕を睨みつけてくる。


 怒っているのかそうでないのか……いつもこの様子なので正直よくわからない。


「『ハウンドドッグ』のコネがどれほどかは詳しくは知らないよ。でも、確実にそれだけじゃいずれボロがでてくる。僕らが相手にしているのは一つの国なんだ。それと対等なものを僕らも作り上げなきゃならないんだ」


 少なくともこの国の『堕人』すべて。


 できるのなら『魔人』サイドにも仲間を作っておきたい。


 いくらなんでも『魔人』すべてが根っからの悪人とは限らないはずだ。


「お前の言うことも分かる。だがな、そんなものは可能なのか?」


 ロードの言葉にエミリーとジャックもうなずいている。


「時間はかかるだろうね。でもいずれはやらなきゃならない。僕としては『ハウンドドッグ』に目を付けたのもこれらの足掛かりに出来ると思ったからだ。交渉するのなら僕らなんかよりもあなたのような名のある人物のほうがいい」


「そ……そうか?」


 『名のある』という僕の台詞に照れているのか、ロードはなにやら気持ち悪い反応を見せ始めた。


 せっかくの威厳が台無しだ。


「だ……だがよ。それならお前らのボス『ヘルスメギストス』も十分適役なんじゃないのか?」


 以外にもこの男は鋭いところをついてくる。


 ジャックも明らかに不自然な様子で視線をそらしていた。


 あれでごまかせているつもりなのだろうか?


 幸いロードは僕しか見ていなかったようで気づかれてはいないようだ。


「僕らのボスはあまり表に顔を出すべきじゃない人だからね」


「どうしてだ?」


「ボスは薬の製造方法を唯一知っている人だ。その存在を知られでもしたら真っ先に命を狙われる危険性が高い」


「なるほどな。それならしょうがねえ」


 突発的に考えた嘘だったが筋は通った話だったはずだ。


 ロードも納得した様子で何度もうなずいている。


「まあとりあえずは金とコネを目的にするってことだな。コネは言われた通り俺らがやっておこう。時間はかかるがそんなに難しいことじゃないはずだ」


「うん。頼むよロード。ということは僕らが金担当って言うわけか……」


 自分で言ったこととはいえ厄介なことを任された。


 正直金の調達はいまだにこれといった作戦を思いつけていないのだ。


「どうするよ? ヘルメス」


「少しはジャックも考えてくれ」


 一瞬で僕に尋ねてくるジャックに僕はあきれ顔を浮かべてしまう。


「一応俺らでも金の手配の方法は探っておく。でも『堕人』っていうのは全員が全員貧乏だ。あまり期待はしないでくれ」


 ロードの言葉に僕は「うん」と生返事を返す。


 色々と考えては見るがどれもそれなりの危険を伴うものばかりだ。


 僕が唸り声をあげて悩んでいると、突然エミリーが口を開いた。


「--私にいい方法があるわ」


 決意を決めた表情に僕はすぐにエミリーが考えていることが理解できた。


「ダメだ。危険すぎる」


「まだ何も言ってないじゃない!」


「なんとなくわかるよ。エミリーが命をはるって言うんだろ?」


「お願い! やらせて! 私もあなたたちの力になりたいの! 見てるだけなんて耐えられない!」


 声を大きくするエミリーにジャックとロードは顔を見合わせていた。


「誰かに手に入れてもらった自由なんか私は欲しくない。私は私の手で未来を勝ち取りたいのよ。あの日城を抜け出した日に私はちゃんと覚悟してきたんだから……」


 エミリーは「お願いよ」とか細い声で発するとゆっくりとその頭を僕に向かって下げた。


 王族の人間がここまですることに僕は驚きを隠せなかった。


 きっと、エミリーの中で複雑に絡み合った思いがあるのだろう。


 ここまでされたら僕もこれ以上断ることはできるわけもない。


 僕は「やれやれ」といいながらエミリーに向きなおった。


「いいよ。やろう。僕も精一杯サポートする」


「!! ありがとう! ヘルメス!」


 瞳をぱあっと明るくさせるエミリー。


 それだけならよかった。


 エミリーは感極まったのか僕にとびかかるように抱き着いてきたのだ。


「ちょっ! エミリー! 落ち着け!」


 恥ずかしながら耐性のない僕はすぐに顔を熱くさせてしまう。


 おそらく周りから見てもすぐに分かるほどに顔を赤くさせていたはずだ。


 さらに恥ずかしいのは、エミリーが少しも照れた様子を見せていなかったことだ。


 王族には恥ずかしいという感情が無いのだろうか。


 エミリーは僕に密着したままやる気の満ちた顔で口を開いた。


「よし! 行くわよ! 城から宝を盗みに!」


 どうやら僕の気が休まる日は当分先らしい。


 僕は「はぁぁ」といいながら大きく息を吐いた。

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