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王族を奪還しよう

 ジャックが店を後にした後、僕は再度自分の部屋へと戻っていった。


 一応言っておくが姉さんにはきちんと確認を取ってある。


 時刻はもう夕方。お客さんも少ないためそろそろ店を閉めるらしく、僕の仕事はもう残っていないらしい。


「今日も全くと言っていいほど仕事してないな」


 薬の調合は姉さんができるし、お客さんだって姉さんが対応する。


 僕が頼まれるのはせいぜい薬の整理くらいだ。


 まあそれもお客さんが少ないためあまり必要にはならない。


「楽なのはいいけど罪悪感が……」


 僕は自室の机へと腰を下ろすと、散らばった材料たちをみて表情を歪ませる。


 今朝に片づけたとはいっても適当にまとめただけだったのを思い出す。


「うわぁ……これどうしよう」


 薬を作るためにそれらしい素材は集めたが、いまだその効果はよくわかっていない。


 ジャックにはああいったが正直薬自体は仮のものが完成している。


 しかし、それを試すにはなかなかの勇気がいるものだ。


「そうだよ。飲まなきゃわからないんだよな」


 僕は机の隅に置いてある仮の薬第一号を手に取った。


 見た目を良くするために一応錠剤に加工したが、飲むとなると躊躇してしまう。


 体に害のある物は入れてはいない。


 理論上は効果があるはずなのだ。


「よし! 飲むぞ!」


 僕は意を決してその薬を口へと運んでいく。


 しかし、


「ヘルメス! ちょっと薬はこぶの手伝って!」


 階下から聞こえてくる姉さんの声。


 僕は薬を持つ手を止めてその場で固まった。


 一度止まってしまったものはなかなか動かしづらいものだ。


「姉さん。恨むべきか感謝するべきか……」


 僕は薬をポケットに入れると、そのまま自室を後にした。




 --翌日、店が休みの僕はジャックに誘われて近所の酒場へとやって来ていた。


 もちろん僕とジャックはまだ子供のため酒は飲まないが、この店には絶品の料理がたくさんある。


「ヘルメス。俺らももう十七だぞ? 酒くらい飲んでも罰は当たらねえだろ?」


 テーブルに並べられたうまそうな料理たち。


 香ばしい匂いをさせている焼き魚にあったかいスープ。


 それらが逆にジャックに酒を欲せさせているみたいだ。


「ダメだよ。ばれたら色々面倒だろ」


 この国では酒は十八からだ。


 とはいっても僕もジャックの言いたいことはよくわかった。


 酒場ということもあり周りの他の客たちは上手そうに酒を飲んでいる。


 あれを見れば自分も飲みたいと思うのは当然だろう。


「なんだよ。相変わらず真面目だなお前は」


 ジャックも半分冗談で言ったらしくすぐに引き下がってくれた。


 僕は小さく息を吐くと、目の前の大きな焼き魚にフォークを突き刺す。


 柔らかい身がほろほろと崩れ簡単に取れる。


 僕はそれを迷うことなく口に放り込んだ。


「うまっ! やっぱりこの店は最高だな!」


 前を見るとジャックも同じように魚を口にして舌鼓を打っている。


 僕らはしばらくその料理たちに満足しながら食事を続けた。


「--それで、今日は僕を呼び出してどうしたんだよ。何かあるんだろ?」


「ん? ……あ! ああ! もちろんだ!」


 絶対忘れてたとしか思えないその反応に僕は目を細めてジャックを見る。


「実はある噂を聞いてな……」


「噂? 何関係だ?」


 僕らは食事の手を止めて話を続ける。


「王族だよ。王族から『堕人』が出たらしい」


「それって……まじか?」


 王族と言えば『魔人』どものトップだ。


 しかもその王族から『堕人』が出るなんて今まで聞いたこともない。


 『魔人』の子は『魔人』。


 別にそう言ったきちんとしたあれがあるわけではないが、人間の間でそれは常識になっている。


「しかも、その『堕人』……処刑されるらしい。もちろん秘密裏にな」


 当然だ。王族からしたら世間に知られたい情報ではない。


 誰にもバレずに処理するのが妥当だろう。


「それで……どうしてそれを僕に?」


「いや、特に意味があるわけじゃない。ただお前には伝えといたほうがいい気がしてな」


「そっか……」


 僕はその処刑されるという王族に思いをはせる。


 かわいそうではあるが特別同情の気持ちがあるわけではない。


 どうせそいつも『堕人』を蔑む『魔人』なのだろう。


 そこまで考えて僕はとあることを思いつく。


「なあ……ジャック」


「あ? どうかしたか?」


 食事を再開してたジャックが僕に視線を送ってくる。


 僕は現在自分が考えていることを意を決して口にした。


「その王族。僕らの仲間に出来ないかな?」


「仲間? 『魔人』をか?」


「『堕人』だろ? 少なくとも今そいつは『魔人』どもに恨みを持っているはずだ。密かに処刑なんてされそうになっているんだからな」


「……たしかに」


 僕の言葉にジャックは口に運ぼうとしていたスープを下にこぼしていく。


「王族が仲間になってくれるなら僕らとしてもありがたい。『魔人』たちへのいい武器になるだろうしね」


 たとえ処刑されようとしていた王族とはいえ、それは世間からしたら知らない事実だ。


 そいつは王族としか見られない。


 王族だってわざわざその正体をばらすことはしないだろう。


「おいおい。もしかして俺らからしたら相当にいい状況になるんじゃねえか?」


 僕は深く一度だけうなずいてみせる。


「正直言うが薬もそれなりに出来てはいるんだよね。もしかしたら僕らで本当に革命を起こせるかもしれない」


 僕はポケットに手を突っ込むと例の薬を一錠確認する。


「どうする? 俺ら二人で城に忍び込むか?」


「いや。ジャックには『堕人』側に仲間になってくれそうな人たちを探ってくれ。忍び込むのは一人のほうがいいと思うから」


 単純計算だが二人なら見つかる確率が一人の時よりも倍になる。


 それなら僕一人のほうがいいだろう。


「大丈夫か? 見つかったら最悪殺されるぞ?」


「隠れるのは得意なんだ。きっとうまくやるよ」


 まさか王族も処刑しようとしているやつを救いに来る人間がいるとは考えないだろう。


「よし! それなら早速行こうぜ! 城の近くまでは俺もついていく。いい場所を知っているんだ」


 そして僕とジャックは立ち上がった。


 周りで盛り上がっている酔っ払いたちとは真逆。


 決意のこもった表情を浮かべて。 

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