災厄の巫女
神に災厄を託された少女がいます。
その少女は、慈愛にあふれ、清く正しい心の持ち主でした。
人でありながら、神の代わりに神が見逃してしまうような小さな災厄を人々から取り除く神具となるよう、頼まれたのです。
少女は受け入れます。その日よりその少女は神の代わりに善悪を計る神具となりました。
神は言います。
『人々の災厄を取り払うと、己の身に災厄が降りかかることになる。
だが、人々の災厄を人一人の身で請け負うことはままならない。
罪深い人々に災厄を返しなさい』
そう、信託がなされました。
災厄を取り払う力と、災厄を与える力を。善悪を見る目に、右手は善を、左手は悪を、計ることのできる両の手を、与えられました。
「巫女様、災厄を取り除いて下さい」
善人な男が言いました。
「あなたの災厄を取り除きましょう」
善人は感謝します。高価な布や宝石、金貨。様々な品を少女に奉納します。
「巫女様、災厄を取り除いて下さい」
人殺しの男が言いました。
「あなたには更なる災厄を与えましょう」
人殺しは恨みます。叫び、懇願し、泣き、呪います。
感謝され、恨まれ、様々な感情を一身に浴びます。
人は、幸福に慣れると感謝を忘れます。
人は、不幸であると恨みに囚われます。
神に巫女にされた少女は、いつしか自身に向けられる恨みが積もり積もって、自身の業の深い行いによって『災厄の巫女』と成り果てました。
バランスが崩れたのです。
人々から集めた災厄を、同じ数だけ人々に返しても、災厄は膨れていきました。
災厄を与えると災厄が増すのです。
そして、人々から巫女と呼ばれた少女は、災厄を返すのをやめました。
災厄は、なくなることがありません。
この身が壊れるまで、災厄をただ集めるだけの存在に、彼女はなりました。
濃厚な災厄は、少女が存在するだけで新たな災厄を招きました。
大きな災厄となった少女。
神は言います。
『全ての災厄を、全ての人へ返しなさい』
「いいえ。全てをこの身で受け止めましょう」