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ぼくらの自転車  作者: 一里 郷
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第1話

 子供の頃に戻りたいと考えるのは大人になった証拠だと言われる。

 自分はそんな大人ではないし、子供の頃に戻りたい訳じゃない。

 ただ、蝉時雨が耳を打ち隣町へと続く坂道に陽炎が立つ頃になると、ふと戻りたいと思う。

 そんな夏がある。


 三原慎也にとって、夏はいつでも楽しい季節だった。

 ぴかぴかに磨かれた青い空。

 わたあめのような入道雲。

 眩しく照りつける日差しの下でじゃあじゃあと鳴き立てる蝉の声。

 学校が終わって長い休みが始まれば朝から晩までが遊び時間。その間は友人たちと、日が暮れて真っ暗になるまで、近所の公園や林で野球やサッカー、秘密基地作りや虫捕りをした。ときには三つ上の兄がカブトムシやクワガタの取れる穴場や、ホタルのいる池を教えてくれた。例え一人になってしまっても、遊びの種はそこらじゅうに転がっていた。

 でもこれは、少し前までの話。

 今年の慎也には相棒がいた。

 それは去年、小学五年生のクリスマスにプレゼントされた自転車だ。不恰好な補助輪が付けられる子供用なんかではない。憧れのマウンテンバイクとは違ってステンレスのカゴが少し野暮ったいけれど、立派な大人用タイヤで六段ギアも付いている。色はメタリックのオーシャンブルー。これで海際を走ればびゅんと風を切り、空と海の青色に溶けてしまいそうに気持ちが良い。

 この素敵な相棒を手に入れてからは探検の毎日だった。新しい路地や空き地を見つけるたびに心が踊り、それを友達に教えては遊びに行くことを繰り返して延々と乗り回していた結果、明けて五月には町のほとんどを走りつくしてしまった。

 それだけ使いに使った自転車は、ぶつけたり転んだりであちらこちらが凹んでしまっている。小さな傷や泥汚れ、剥げた塗装は一日かけて磨きあげ、パンクは自転車屋で直してもらうのだが、カゴやフレームの半端な凹みはそのままである。

 だけどそんなこと構わない。これは幾つもの道で一緒に走ったり転んだりした相棒の証なのだから。

 梅雨入り前には住んでいる町を制覇して、次に目を向けたのは山向こうにある隣町だった。

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