交わる喫茶店
このページを開いていただきありがとうございます。
「たまもや」と申します。
今回は三題噺企画、第五弾となります。
お題は、
「カチューシャ、田舎、偶然」です。
少々長いですが、お楽しみいただけると幸いです。
気づけば僕は、ヲタクの聖地と呼ばれるこの町をただただ歩いていた。
初の大学の夏休み、人が少なくなるだろうと思い、9月の初旬を選んだ。約3時間、飛行機と電車を乗り継ぎ、たどり着いたこの町は、僕の想像をはるかに超えた町だった。お祭りかと間違うかのような人の多さ、二次元のキャラクターで溢れた高階層のビル、そして何より、町の至るとこにいる様々な格好のメイドさん。同じ日本かと思えるこの町は、初心者の僕の体力を知らないうちに奪っていた。
たくさんのチラシやポケットティッシュをたくさん抱えた僕は、先ほどの喧騒から少し離れたところにいた。
「疲れた」
溜息とともに言葉がこぼれる。用意していたメモには、11時到着、13時昼食(メイド喫茶)、18時ホテルチェックインと書いてあるが、時刻はもうすぐ14時。大幅にずれが生じている。しかし、かといってあの人ごみの中に戻る余裕はない。計画は大失敗だ。さすがに歩き続けるのも限界で、どこでもいいから座れるお店に入ろうと決意する。あたりを見回してみると、趣のある外観の、喫茶店を見つけた。
お店の前に着き、中をのぞいてみると、お客さんは誰も見当たらず、白ひげの生えたおじいさんがカウンターに立っていた。こういうお店なら地元にもたくさんあるな、と思いながらも、ほかのお店を探す余裕もなかったので、扉を開いた。からんからん、と軽快な音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると、かわいらしい声が飛んできた。驚いてさきほどのおじさんがいたカウンターを見てみると、いらっしゃい、と渋い声で言われた。改めて店内を見渡していると、バックヤードからメイドさんが現れた。
「こちらへどうぞ」
そういうと、カウンターの一番端の席に案内してくれた。僕が思い描いていた現代のメイドは、ピンクやオレンジの明るい色で、カチューシャ、フリフリのミニスカートみたいなイメージだったが、彼女は、クラシカルな黒と白のロングのメイド服に、白いカチューシャを身に着けていた。そしてなによりも、黒髪ロング、白く透き通る肌、すらっとしたスタイル、整った顔立ちという、完璧といっても遜色のない容姿に驚いた。
「こちらメニューになります」
「は、はい」
「お決まりになりましたらお呼びください」
そういうと再びバックヤードに戻っていった。メニューはいたって普通の喫茶店で、じゃんけんや、チェキなど、代わった名前のメニューもなかった。少し残念に思っていると、
「がっかりしましたか」
顔に出てしまっていたのだろうか、マスターと思われるさきほどのおじいさんが声をかけてきた。
「い、いや、そんなことないですよ」
「今風のお店ではないからね、この通り、お客さんも常連さんばかりで、初めてのお客さんは珍しいんだよ」
そうなんですね、と何とも言えない雰囲気になる。再びメニューに視線を落とし、一番目に書いてある「ケーキセット」を注文する。
「すいません」
「はいはーい」
再びバックヤードから彼女の声がする。
「お伺いします」
「このケーキセットをください」
「かしこまりました」
そういうとまたバックヤードに戻っていった。先ほど注文したコーヒーを入れるマスターに、
「彼女とお二人なんですか?」
と尋ねる。マスターは穏やかな笑顔で、
「ああ、いつもは別の女の子がいるんだがね、今日はお休みなんだ」
「お綺麗な方ですね」
「そうかい?それを聞いたら彼女も喜ぶと思うよ」
「そんなそんな」
そういうやり取りをしていると、奥から普通のケーキと食べかけのケーキを持った彼女が現れた。
「お待たせしました、セットのケーキになります」
そういうと、真っ白なレアチーズケーキを目の前に置いた。さらに横からマスターのコーヒーが出され、セットが完成した。
「あ、あのそれは」
彼女が持ってきた食べかけのケーキを指さし尋ねると、
「あ、これは私の分」
そういうと同時にマスターから彼女の分のコーヒーが渡された。
「ちょうど休憩時間だったの」
カウンターを挟んだ目の前に座ると彼女は言った。
「そ、そうなんですか」
「うん、ありがとうおじいちゃん」
「はいはい。私は裏に行ってるからゆっくりしなさい」
お客さんもごゆっくり、と笑顔で言うと、マスターはバックヤードに消えていった。
「え、おじいちゃん?」
そう尋ねると、
「うん、さっきのが、おじいちゃん」
僕は、おじいさんに対して、あなたのお孫さん可愛いですね、と言ってたのかと思うと急に恥ずかしくなった。
「おじいちゃんが入れたコーヒー、すごくおいしいから飲んでみて」
すすめられたコーヒーを一口すする。正直味の違いはよくわからなかったが、彼女と二人きりというシチュエーションのおかげか、とてもおいしく感じた。
「あ、おいしい」
「でしょー!このあたりでは一番おいしい自信あるんだよね」
そういうと、彼女もコーヒーをすすった。
「さっきと雰囲気が違う?」
少し戸惑い気味に聞くと、
「ああ、今はお仕事中じゃないからラフな態度だったんだけど、嫌だった?」
「いや、全然、イメージと違ったから少し驚いただけ」
「たしかに、この格好にため口は合わないよね」
「ま、まあ」
「久しぶりに同年代の子が来て少し嬉しいんだよね」
「そ、そうなの?」
「うん。あ、自己紹介してなかったね。私、東川 玲。今年で19」
「あ、小谷宏司です。僕も今年19の大学1年です」
「同い年じゃん。すごい偶然」
「本当ですね」
「それじゃあ、お互い、敬語はなしで」
「はい、あ、うん」
言い直したのがおかしかったのか、笑い声が響く。
「どこから来たの?」
「あ、南の方なんだけど」
そう言って、駅周辺にも田んぼばかりの田舎である地元の話をした。
「え、隣の県だ」
突然驚いた顔になる彼女、同じく僕も驚く。
「え、こっちの人じゃなの」
「違う違う、夏休みだから観光がてら、手伝いに来てたの」
「そうなんだか」
「こんな偶然ある?」
「本当、すごい偶然だね」
そのあともケーキを食べながら話をしてくと、学部や専攻、好きなアニメ、アーティストなど、いろんな共通点が判明した。
「まさかここまで重なるとは思わないよね」
「本当に」
「いつからこっちに来てるの?」
「今日の朝着いたところ。明日も引き続き観光して、明後日の夕方には戻る予定」
「そうなんだ、どのあたりを観光するの?」
「本当は今日、この辺りを観光して、明日は下町の方に行こうと思ってたんだけど、全然上手くいかなくて」
「まぁ確かに最初は来るだけで疲れちゃうよね」
「そうなんだよね」
「ちなみに、今日はどれくらい周れたの?」
「このお店だけ」
俯き加減で言う。
「全然ダメじゃん!」
鋭いツッコミを受ける。確かにその通りだ。
「明日の下町、あたしが案内してあげようか?」
突然彼女が提案してきた。願ってもないお誘いだが、
「え、あの、いいの?」
「明日はバイトの子来るし、大丈夫だと思うけど?」
「いや、そうじゃなくて、その、僕みたいなのに付き合ってくれて」
「全然!むしろこんなにいろいろ合う人になかなか会わないって!これも何かの縁だし、どう?」
「ぜひ、お願いします」
「それじゃあ」
そういうと彼女は、ポケットから携帯を取り出すと、
「私が読み取る方で」
というと、カメラの画面で待機している。
僕もSNSのアプリを起動し、QRコードを表示する。
「へぇ、写真好きなんだ」
僕のアイコンを見るなりそう言った。
「あ、うん。大学入ってから始めたんだけどね」
「今日は持ってきてないの?」
「いや、ここに」
僕はカバンから一眼レフのカメラを取り出した。入学祝いに父に買ってもらった大切なものだ。
「じゃあさ、後で私を撮ってよ」
さらに願ってもない提案をしてもらった。
「喜んで!」
急に声のトーンが上がってしまったせいか、彼女が笑った。つられるように僕も笑っていると、鐘の音が鳴った。音源を探すと、壁に掛けられた大きな時計で、針はちょうど3時を指していた。
「もう3時か」
「これからどうするの?」
「ここで休んだら少し元気になったから、リベンジに行こうかな」
「そっかそっか、次は行き倒れないように気をつけるんだよ」
「頑張ります」
それじゃあ、と立ち上がり、レジでお会計を済ませる。
「写真、どこで撮ろっか」
「このお店の中で撮ってもいいのかな?」
そう尋ねると、まるでタイミングを見計らっていたかのようにマスターが現れ、
「好きに撮っていいよ」
と許可をくれた。ということで、即席の撮影会が始まった。
趣のある店内に、容姿端麗なメイドさん、完璧なロケーションと、被写体が揃っているので、いくら下手な僕でも、驚くほどにいい写真が撮れた。
何枚か撮り終えたところで、二人で確認する。カメラのスクリーンを確認する横顔がとても綺麗で、そちらばかりを見ていると、
「すごい上手だね、宏司君」
彼女は突然こちらを向いた。僕は急いで目を逸らし、
「いや、店内も雰囲気があるし、玲ちゃんも綺麗だから」
「ほめても何も出ないぞ―」
そう言うと彼女は、軽く小突いてきた。
「後で写真送るね、マスターもありがとうございました」
「うん、楽しみにしてるね」
「いえいえ、楽しんでもらえて何よりだよ、またね」
笑顔でそう言う二人に見送られ僕は店を出た。
店を出て少し歩いたところで、そういえばあのお店の名前をまだ知らないと思い、振り返って看板を探していると、【喫茶店Associer】の文字を見つけた。どういう意味か分からなかったので、意味を調べようと携帯を見ると、先ほど登録したばかりの「東山玲」からメッセ―ジが届いていた。
【また明日ね】の言葉と、【登録よろしく!】の看板を持ったカエルだけが表示された画面に、【楽しみにしてます!よろしく!】という文字と、【了解!】の看板を持ったカエルを追加し、携帯をしまう。
そのせいで、僕がこのいくつもの偶然にさらに驚き、納得するのは、軽い観光を終え、ホテルについてからのことになった。
これまで書いたものに比べて、少々現代風の作品になったと感じています。いかがでしょうか。
この作品も、続きが想像できる作品になっていますので、今後、続編やスピンオフみたいなものを書くかもしれません。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
どんな些細なことでも構いません。
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みなさまの声をお聞かせください。
よろしくお願いいたします。
これまでの作品もよろしくお願いします。
三題噺のお題に関しましては、以下のホームページを参考にさせていただきました。
http://youbuntan.net/3dai/




