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交わる喫茶店

作者: たまもや
掲載日:2017/09/06

このページを開いていただきありがとうございます。

「たまもや」と申します。



今回は三題噺企画、第五弾となります。


お題は、

「カチューシャ、田舎、偶然」です。



少々長いですが、お楽しみいただけると幸いです。

 気づけば僕は、ヲタクの聖地と呼ばれるこの町をただただ歩いていた。


 初の大学の夏休み、人が少なくなるだろうと思い、9月の初旬を選んだ。約3時間、飛行機と電車を乗り継ぎ、たどり着いたこの町は、僕の想像をはるかに超えた町だった。お祭りかと間違うかのような人の多さ、二次元のキャラクターで溢れた高階層のビル、そして何より、町の至るとこにいる様々な格好のメイドさん。同じ日本かと思えるこの町は、初心者の僕の体力を知らないうちに奪っていた。

 

 たくさんのチラシやポケットティッシュをたくさん抱えた僕は、先ほどの喧騒から少し離れたところにいた。

「疲れた」

 溜息とともに言葉がこぼれる。用意していたメモには、11時到着、13時昼食(メイド喫茶)、18時ホテルチェックインと書いてあるが、時刻はもうすぐ14時。大幅にずれが生じている。しかし、かといってあの人ごみの中に戻る余裕はない。計画は大失敗だ。さすがに歩き続けるのも限界で、どこでもいいから座れるお店に入ろうと決意する。あたりを見回してみると、趣のある外観の、喫茶店を見つけた。


 お店の前に着き、中をのぞいてみると、お客さんは誰も見当たらず、白ひげの生えたおじいさんがカウンターに立っていた。こういうお店なら地元にもたくさんあるな、と思いながらも、ほかのお店を探す余裕もなかったので、扉を開いた。からんからん、と軽快な音が鳴る。

「いらっしゃいませ」

 お店に入ると、かわいらしい声が飛んできた。驚いてさきほどのおじさんがいたカウンターを見てみると、いらっしゃい、と渋い声で言われた。改めて店内を見渡していると、バックヤードからメイドさんが現れた。

「こちらへどうぞ」

 そういうと、カウンターの一番端の席に案内してくれた。僕が思い描いていた現代のメイドは、ピンクやオレンジの明るい色で、カチューシャ、フリフリのミニスカートみたいなイメージだったが、彼女は、クラシカルな黒と白のロングのメイド服に、白いカチューシャを身に着けていた。そしてなによりも、黒髪ロング、白く透き通る肌、すらっとしたスタイル、整った顔立ちという、完璧といっても遜色のない容姿に驚いた。

「こちらメニューになります」

「は、はい」

「お決まりになりましたらお呼びください」

 そういうと再びバックヤードに戻っていった。メニューはいたって普通の喫茶店で、じゃんけんや、チェキなど、代わった名前のメニューもなかった。少し残念に思っていると、

「がっかりしましたか」

 顔に出てしまっていたのだろうか、マスターと思われるさきほどのおじいさんが声をかけてきた。

「い、いや、そんなことないですよ」

「今風のお店ではないからね、この通り、お客さんも常連さんばかりで、初めてのお客さんは珍しいんだよ」

 そうなんですね、と何とも言えない雰囲気になる。再びメニューに視線を落とし、一番目に書いてある「ケーキセット」を注文する。

「すいません」

「はいはーい」

 再びバックヤードから彼女の声がする。

「お伺いします」

「このケーキセットをください」

「かしこまりました」

 そういうとまたバックヤードに戻っていった。先ほど注文したコーヒーを入れるマスターに、

「彼女とお二人なんですか?」

 と尋ねる。マスターは穏やかな笑顔で、

「ああ、いつもは別の女の子がいるんだがね、今日はお休みなんだ」

「お綺麗な方ですね」

「そうかい?それを聞いたら彼女も喜ぶと思うよ」

「そんなそんな」

 

 そういうやり取りをしていると、奥から普通のケーキと食べかけのケーキを持った彼女が現れた。

「お待たせしました、セットのケーキになります」

 そういうと、真っ白なレアチーズケーキを目の前に置いた。さらに横からマスターのコーヒーが出され、セットが完成した。

「あ、あのそれは」

 彼女が持ってきた食べかけのケーキを指さし尋ねると、

「あ、これは私の分」

 そういうと同時にマスターから彼女の分のコーヒーが渡された。

「ちょうど休憩時間だったの」

 カウンターを挟んだ目の前に座ると彼女は言った。

「そ、そうなんですか」

「うん、ありがとうおじいちゃん」

「はいはい。私は裏に行ってるからゆっくりしなさい」

 お客さんもごゆっくり、と笑顔で言うと、マスターはバックヤードに消えていった。

「え、おじいちゃん?」

 そう尋ねると、

「うん、さっきのが、おじいちゃん」

 僕は、おじいさんに対して、あなたのお孫さん可愛いですね、と言ってたのかと思うと急に恥ずかしくなった。

「おじいちゃんが入れたコーヒー、すごくおいしいから飲んでみて」

 すすめられたコーヒーを一口すする。正直味の違いはよくわからなかったが、彼女と二人きりというシチュエーションのおかげか、とてもおいしく感じた。

「あ、おいしい」

「でしょー!このあたりでは一番おいしい自信あるんだよね」

 そういうと、彼女もコーヒーをすすった。

「さっきと雰囲気が違う?」

 少し戸惑い気味に聞くと、

「ああ、今はお仕事中じゃないからラフな態度だったんだけど、嫌だった?」

「いや、全然、イメージと違ったから少し驚いただけ」

「たしかに、この格好にため口は合わないよね」

「ま、まあ」

「久しぶりに同年代の子が来て少し嬉しいんだよね」

「そ、そうなの?」

「うん。あ、自己紹介してなかったね。私、東川 玲。今年で19」

「あ、小谷宏司です。僕も今年19の大学1年です」

「同い年じゃん。すごい偶然」

「本当ですね」

「それじゃあ、お互い、敬語はなしで」

「はい、あ、うん」

 言い直したのがおかしかったのか、笑い声が響く。

「どこから来たの?」

「あ、南の方なんだけど」

 そう言って、駅周辺にも田んぼばかりの田舎である地元の話をした。

「え、隣の県だ」

 突然驚いた顔になる彼女、同じく僕も驚く。

「え、こっちの人じゃなの」

「違う違う、夏休みだから観光がてら、手伝いに来てたの」

「そうなんだか」

「こんな偶然ある?」

「本当、すごい偶然だね」


 そのあともケーキを食べながら話をしてくと、学部や専攻、好きなアニメ、アーティストなど、いろんな共通点が判明した。

「まさかここまで重なるとは思わないよね」

「本当に」

「いつからこっちに来てるの?」

「今日の朝着いたところ。明日も引き続き観光して、明後日の夕方には戻る予定」

「そうなんだ、どのあたりを観光するの?」

「本当は今日、この辺りを観光して、明日は下町の方に行こうと思ってたんだけど、全然上手くいかなくて」

「まぁ確かに最初は来るだけで疲れちゃうよね」

「そうなんだよね」

「ちなみに、今日はどれくらい周れたの?」

「このお店だけ」

 俯き加減で言う。

「全然ダメじゃん!」

 鋭いツッコミを受ける。確かにその通りだ。

「明日の下町、あたしが案内してあげようか?」

 突然彼女が提案してきた。願ってもないお誘いだが、

「え、あの、いいの?」

「明日はバイトの子来るし、大丈夫だと思うけど?」

「いや、そうじゃなくて、その、僕みたいなのに付き合ってくれて」

「全然!むしろこんなにいろいろ合う人になかなか会わないって!これも何かの縁だし、どう?」

「ぜひ、お願いします」

「それじゃあ」

 そういうと彼女は、ポケットから携帯を取り出すと、

「私が読み取る方で」

 というと、カメラの画面で待機している。

 僕もSNSのアプリを起動し、QRコードを表示する。

「へぇ、写真好きなんだ」

 僕のアイコンを見るなりそう言った。

「あ、うん。大学入ってから始めたんだけどね」

「今日は持ってきてないの?」

「いや、ここに」

 僕はカバンから一眼レフのカメラを取り出した。入学祝いに父に買ってもらった大切なものだ。

「じゃあさ、後で私を撮ってよ」

 さらに願ってもない提案をしてもらった。

「喜んで!」

 急に声のトーンが上がってしまったせいか、彼女が笑った。つられるように僕も笑っていると、鐘の音が鳴った。音源を探すと、壁に掛けられた大きな時計で、針はちょうど3時を指していた。

「もう3時か」

「これからどうするの?」

「ここで休んだら少し元気になったから、リベンジに行こうかな」

「そっかそっか、次は行き倒れないように気をつけるんだよ」

「頑張ります」

 それじゃあ、と立ち上がり、レジでお会計を済ませる。

「写真、どこで撮ろっか」

「このお店の中で撮ってもいいのかな?」

 そう尋ねると、まるでタイミングを見計らっていたかのようにマスターが現れ、

「好きに撮っていいよ」

と許可をくれた。ということで、即席の撮影会が始まった。


 趣のある店内に、容姿端麗なメイドさん、完璧なロケーションと、被写体が揃っているので、いくら下手な僕でも、驚くほどにいい写真が撮れた。

 何枚か撮り終えたところで、二人で確認する。カメラのスクリーンを確認する横顔がとても綺麗で、そちらばかりを見ていると、

「すごい上手だね、宏司君」

彼女は突然こちらを向いた。僕は急いで目を逸らし、

「いや、店内も雰囲気があるし、玲ちゃんも綺麗だから」

「ほめても何も出ないぞ―」

そう言うと彼女は、軽く小突いてきた。

「後で写真送るね、マスターもありがとうございました」

「うん、楽しみにしてるね」

「いえいえ、楽しんでもらえて何よりだよ、またね」

 笑顔でそう言う二人に見送られ僕は店を出た。


 店を出て少し歩いたところで、そういえばあのお店の名前をまだ知らないと思い、振り返って看板を探していると、【喫茶店Associer】の文字を見つけた。どういう意味か分からなかったので、意味を調べようと携帯を見ると、先ほど登録したばかりの「東山玲」からメッセ―ジが届いていた。

【また明日ね】の言葉と、【登録よろしく!】の看板を持ったカエルだけが表示された画面に、【楽しみにしてます!よろしく!】という文字と、【了解!】の看板を持ったカエルを追加し、携帯をしまう。


 そのせいで、僕がこのいくつもの偶然にさらに驚き、納得するのは、軽い観光を終え、ホテルについてからのことになった。


これまで書いたものに比べて、少々現代風の作品になったと感じています。いかがでしょうか。


この作品も、続きが想像できる作品になっていますので、今後、続編やスピンオフみたいなものを書くかもしれません。



ここまで読んでいただいてありがとうございました。

どんな些細なことでも構いません。

感想やコメント、評価などしていただけると励みになります。

みなさまの声をお聞かせください。

よろしくお願いいたします。



これまでの作品もよろしくお願いします。


三題噺のお題に関しましては、以下のホームページを参考にさせていただきました。


http://youbuntan.net/3dai/

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