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一人目 田沼俊之の場合・・・親友

カロンの骨 全七話予定。

一人目 田沼俊之の場合

 

「蘇生者、確認。これより、生者へと変えます。」

若い女の人の声が室内に木霊する。

「許可する。」

「了解!ミスター・カロン」

カロンと呼ばれた男は、いつも仮面をかぶっていた。しかしこの部屋にいる唯一の人間の女性ですら、カロンの素顔を知らなかった。この文だと、カロンは人間ではないのか?と思うが人間である。いや、人間であった・・・・が正しいのかもしれないが。とりあえず、カロンは手に持ったグラスに液体を注いだ。赤い、半透明の・・・。そのままグラスを一回転させて、元通り手に持った。ぐいっと一息で飲むと、カロンは問う。

「今回の蘇生者は?」

女性はファイルをめくり、目的のページを読み上げる。

「今回の蘇生者は、田沼俊之たぬまとしゆき。年齢は、27の男性。職業は、名波社の営業マンです。」

カロンは眼を細めて尋ねる。

「と言うことは、あの有名な派遣会社にも関わっていると?」

「ハイ。カロン。彼の死因は崖からの転落。原因は友人の池知芳正いけちよしまさの多額の金目当ての犯行と、警察は考えています。」

「ふむ、実際は?」

「我がシステムの計算によると、俊之が殺された理由は・・・・・いえ。逆に理由などありません。神の気まぐれというか、運の悪さというか・・・あやふやですね。」

カロンはグラスを目の高さに掲げるとつぶやいた。

「・・・・・。事故・・・・か。」

「ハイ。カロン。そう言うことになります。」

カロンは事実を聞くと、グラスをおいて、目をつぶった。

「何をしているんですか?カロン。」

カロンは目を開けずに答えた。

「何をしているんだ。君も、早くこの青年に黙祷したまえ。」

女性も直ぐに目を閉じて黙祷をした。




「よし。黙祷は終わりだ。」

「死者組成、充電完了。」

カロンは、アニメの船長のように人差し指で前を指して、叫んだ。

「発射!」


「カロン。発射ではなく、乱射です。」


あろう事にカロンはボタンを押し間違えていた。

「・・・・・・・。なおしたまえ。」



女性は、仏頂面で答えた。

「はい。」










俺は、今どこにいるんだ?

暗い・・・・暗い空間で、一人の男が自分に問う。

自分は何でここにいるんだ?

そのうちに一人の男は、激しい頭痛で思い出した。

俺は、一人の男に殺された・・・・・。

暗闇の中で、男は、激しく憎悪を煮やした。

憎い・・・・。この俺を、殺したあいつが憎い・・・・・。

男は、そう思う中で一つの疑問を見つけた。

あいつは・・・・・芳正が、俺を殺したのか?いつもともにいた?

男は、そう思った次の週間、光に包まれた。しかし、冷房が効いた部屋に突如出されたため、男は、嚔をした。


「俊之君。これから君に一週間の人生を与える。その間にやり残したこと、知りたいことを、知るのだ。そのために、まず、この服を着るのだ。その恰好では、外にでたとたんに警察に掴まって、一週間が無駄になるからな。」

男は・・・・俊之と呼ばれた男は、自分の体をみた。全裸だ。通りで寒いはずだ。

「ありがとう・・・ございます。」

俊之は素直に服を受け取ると、下着に足を通した。ふと気が付いて、先ほど自分に服をくれた男に話をしようと思った。

「あの、・・・・・・・・・?」

男は消えていた。どこにもいない。

歴史をかえることは出来ない。

あの男の声で、頭の中にそう聞こえたような気がした。

俊之は袖を通すと、目の前に見えている群青の扉を開ける。




「カロン。せめて死者蘇生の人に、最初から服を着させることは出来ないのですか?」

カロンは、手に持った買い物袋に目をやり、答えた。

「そしたら、渋谷で買い物するという、私の楽しみがなくなるだろう?わからないのかね?」

何を考えているのか全く分かりません。女性はそう答えようとして、止めた。カロンが包丁を研いでいたからだ。

「ふふ。賢くなったね。メリアも。」

「その名前は・・・止めて下さい。」

「じゃあ何かい?P−4087」

メリアと呼ばれた女性は、服の袖から、千本じょうろを出してカロンに投げつけた。

「ふふ。そう言うところが、まだ君の組織抜けが出来てないと言う一つだよ。・・・・・。一つ聞こう。君は、セロンとあっているね?」

メリアは唇を噛んでこっそりと深呼吸をしてから、答えた。

「プライベートな時間ぐらい、私にあっても良いはずですが?」

カロンは、むぅと言う声を出してから、答えた。

「それを言われると僕としても反論できないな。やっぱり、賢くなったんじゃないかい?メリア。」


メリアは立ち上がると給湯室へと直進した。

「おい、メリア。壁を壊して本当に直進しなくても良いだろう!修理代も馬鹿にならないんだぞ?今の時代。」





僕が開けた扉からでると、芳正に電話した。一週間後登山に行こうと。・・・・僕のにどめの人生の最後の日に行こうと。

それから一週間が経ち、行ってみると、そこはいつもの山だった。そこには、芳正が座って、僕のことを待っている。

「どうしたんだよ。俊之。」

どうやら、僕はまだ死んでいないらしい。それが、この六日間で分かった。

「芳正。今日こそあの山を越えようぜ。」

僕は不思議な気持ちになった。自分を殺したかもしれない相手と、これからまた殺されようと行くなんて。

芳正と他愛もない話をしているうちに、休憩所は、ゴミのように小さくなった。まるで、綿埃のように。

そして、僕は、自分の死に場所にきた。崖には近づくまいと思うのに、体が勝手に動いていく。これが歴史は変えられないと言うことか。芳正も近づいてくる。止めろ。来るな・・・来るな・・・・。

芳正は、崖に腰掛け、座った。そして僕の体も勝手に。

「夕日が綺麗だなあ。」

芳正が、のんきに僕に話しかける。これから僕を殺すって言うのにか。お前は親友一人殺すのも、何とも思わないのか。それとも、お前からみて、俺は親友じゃないのか?

風が吹いた。立とうとしていた僕の体が、風に押される。

「お・・・わわっ」

さらに強い強風が、僕の体を押した。

僕の目には、芳正が映る。芳正は急いでたって、僕の体を・・・どこでも良いからつかもうとする。でも、僕の体はドンドン落ちていく。





芳正の耳に、頭の砕ける音が聞こえた。




僕は親友に殺されてはいなかった。

僕は親友を親友として、死んでいけた。

僕は、

僕は、




「どうだったかね?田沼俊之君。君の最後は」

いつの間にかあの部屋にきていて、目の前にはあの男が立っている。

「親友の・・・大切さが分かった。」

「ほう・・・やはり、人生には友人というものが必要なのかね?」

「当たり前だ。友人がいたから・・・・・・・芳正がいたから、俺は楽しかった。誤解を解いてくれて、ありがとな。」


男は手のひらをみて、たぶん僕に言った。

「親友は大切。」



僕は再び、暗い・・・・暗い空間にいた。でも、心の中は、とても明るかった。





「メリア。私は友人がいかに大切か知った。だから友人を連れてきたぞ!名前は、パロというそうだ。」

メリアはカロンのほうを向いた。

「ワン!」

メリアがみたものは犬だった。カロンは友人の何たるかを、まだ知らない。

これもまあ、種族をこえた友人なのかもしれないが・・・・。




同時刻、別の場所で。

「すまぬ。許してくれ・・。この・・・愚かなセロンを・・・・。」

セロンと言った青年は、誰かの墓の前で、必死に謝っていた。

彼の名は、セロン。カロンの親友であり、メリアと恋人で、そして、死者蘇生の二人目の学者。

「カロン、私は、おろかだった。カロン。君と僕との呼び名だ。僕はセロン。けれど君が決めたこの僕の名前は、もう使えないな・・・・・。登美永・・・・・・。」

セロンと名乗る青年は、必死に彼のカロンの墓の前で頭を下げ続けた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・あと六人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カロンの骨 後六話予定

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