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短編集 星新一風

畑と作物と

作者: 燈夜

つたない文章ですが宜しくお願いします。出来れば後学の為に至らぬ点をご指摘ください。

 窓の外を見ていた。灰色の広大な畑が広がっている。四角い建物の立ち上る畑だ。当然緑は少ない。畑は思いの他静かだった。いつもは騒がしい赤い畑。だが、今そこには緑も赤も無い。

 ……戦線は遠のいたとはいえ、今はそんな季節なのだ。


 彼は秘書官に尋ねた。


「今晩の夕食は何かね?」

「は、閣下。ええと、小鴨のローストに……」

「もう良い」


 彼はせっかく答え始めた秘書官の話を遮る。


「それよりも、だ。戦線のほうはどうかね?」

「は、閣下。全ては順調であります」


 そうだろうか。敵の抵抗は思いのほか強硬で、味方の被害は甚大だとの将軍の報告を受けていたのだが。兵力が不足しているとも聞いた。


「敵の機械化装甲師団は精強だと聞いた。大丈夫なのかね?」

「はい閣下。彼らは最早弱体です。かの反動分子どもは我が赤軍によって駆逐されつつあります。今この瞬間にも我が同志たちは閣下の偉大なる政治的指導の下、数多の勝利を重ねているのです」


それなら良いのだが。


「兵士が不足していたと聞いていたのだが……あれはどうしたね」

「は、閣下。中央アジアの義勇兵が奮起し、祖国解放戦争に貢献しております」

「そうか。だが彼らは祖国に対する忠誠心にいささか疑問があるとの報告を受けていたが?」

「は、閣下。我が愛国心溢れる同志らによる督戦隊が直接指導しております。ご安心ください」


 それならば良い。とりあえず数だけは揃うだろう。自称義勇兵の我が偉大なる祖国に対する忠誠心には疑いの余地が多々あるが、今はただ彼らの乏しい愛国心に賞賛の念を送るべきだろう。たとえそれが背後から銃剣を突きつけられた結果であるにしてもだ。それから後のことは戦争が終わってから判断すれば良い。今はこの戦争に勝たねばならないのだ。処断すべきときは処断する、粛清などいつでも出来るのだ。


「正規軍の方はどうかね」

「は、閣下。それも問題ありません。正規軍の兵士も同様、畑でいくらでも取れるのです」


 そうだな。作物は黙って国家という巨大な装置の前で自動的に動けばよい。自主的に動いてくれればなお良い。但し、海の向こうの偽善者どもの言うような自由意志など、作物には必要ないのだ。それでも手に負えない反動分子はシベリアにでもピクニックに行ってもらえば良い。きっと素晴らしい旅路になるだろう。


 彼は依然、窓の外を見ていた。灰色の広大な畑が広がっている。四角い建物の立ち上る畑だ。いつもは騒がしい赤い畑。自分の名を連呼し賞賛すべき彼の作物ら。だが、今そこには緑も赤も無い。かのチョビ髭伍長のせいで彼の五ヵ年計画は練り直しだった。


 まぁ良い。人など畑でいくらでも取れるのだ。

 敵の首都までもう少し。もうじきチョビ髭伍長との遊戯も終わる。そう報告書は告げていた。報告書の内容は信じるに値するものだろう。ならば今はただ、極東の情勢が少しだけ気にかかる。我が祖国の伝統からすれば、条約とは破るために在るものなのだ。中立条約など信じる方がどうかしている。戦線が片付き次第、戦力の建て直しが急務だろう。平和交渉? 仲介役? 何の冗談なのだろうか。


 全てはあの氷の海の向こう側。巨大な新たな敵が見えていた。彼の畑は今静かだ。今は畑の作物が実るまで、ほんのちょっと待つ必要があるかもしれなかった。なぁに、すぐ実る。何せ我が祖国は広大だ。それに、今度の戦線が片付けば、そこから新たな義勇兵を呼べば住む事。たいしたことではなかった。


 窓の外に畑が見える。それはどこまでも灰色の畑だった。緑なす畑とするには、永い時が必要だろう。

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