眠り姫と広辞苑
僕の世界もんだ踏み込んできた。誰にも触れさせまいと必死に守ってきた僕の世界に君はいとも簡単に踏み込み、あろうことか僕に干渉してきた。あの時から僕は君に焦がれる、これが恋なのか妬みなのか羨望なのか‥‥誰にも分かるまい。
だだ、これは喜劇なのだ。僕と君による喜劇なのだ。
どこかの国のお姫様のように美しく、可愛らしい女の子がそこにはいた。彼女は風に踊る白いレースのカーテンの下でその美しくも可愛らしい顔に薄く笑みを浮かべ、幸せを体現していた。ここはどこかの王室なのだろうか?否、ここは図書館である。
もちろん彼女の前に立っている僕は執事などではない。ここの管理者、図書委員長だ。
そして、僕は彼女に声をかけた
君ならばなんと声を掛けただろう?
美しい彼女の名前を聞こうか、彼女の交友リストに自分の名前を入れてもらえるよう頼むか、はたまた図書室で寝ていることに対して注意をするか‥‥
いずれも正解ではない。
なぜなら僕はこの時こう言ったのだから
「幸せそうなところ申し訳ないのですが、広辞苑の第二版を枕がわりにするのはやめていただけませんか?本が可哀想ですので」
なぜこのような事を言ったのか理解できないと言う人もいるかも知れない。こんなに美しく、可愛い女の子に対してなんてことを言っているのかと罵る人もいるかも知れない。
だが、ここはどこかの国の王室ではなく図書室なのだ。そう、図書館すなわち僕の居場所[国]なのだ。そして、僕はここの管理者つまり図書委員長[王様]だ。
だから、本たちは僕が王を務めるこの国の大事な国民であり、国民を王が守るのは至極当然なのだ。
しばらくした後、寝ぼけなまこを擦りつつ、
「あなたにそんなこと言われる筋合いは無いわ、芥川眞くん。私の広辞苑ですもの、どうしようと私の自由じゃなくって?」と見かけに負けず劣らず鈴の音のような可愛らしい声で彼女は言い放った。
この時の一言に僕は動揺を感じたがそれを感じさせまいと敢えて強気で
「いえ、僕はその広辞苑が図書室のものだから注意しているのではなく本そのものが可哀想だから注意しているんです。」
と返す。
「あら、そうでしたか。貴方らしいですわね。まぁいいですわ、それよりも‥‥」
ふわぁ、とあくびをして、こう続けた
「あなたが名前を存じ上げない女の子に名前を呼ばれて動揺しているのでしょう?」
動揺の原因を見事に言い当てられ、返す言葉に同様が伝わる。
「な、なんでそう思ったのでしょうか?」
「なぜって、顔に出てしまっているんですもの。」
ウフフっ、と口にてを当て上品に笑う彼女に言い返す言葉は僕には見つけられなかった。
まぁそんなところも貴方らしいですけどね。と、言いながら出口に向かおうとする彼女は僕が手に持つ小説に気がつき
「あら、その本をお読みなってくださってありがとうございます。あと、起こしていただいて感謝しています。」
と、満面の笑みと共にお礼を述べて去っていった。
「あの人はなんで僕の名前を知ってたんだろう?」パタン、図書室の扉が締まると同時に疑問が口から溢れた。
そして、持っていた本に目を落とし疑問が再び顔を出す。
「この本を読んでくれてありがとうってどういう意味なんだよ?」
本のタイトルは『眠り姫と王様』。80万部売れている大ヒット作で著者は超人気作家の久世七海というどこにでもありふれているであろう中の一冊。とりわけて特別なことが何一つない。それ故に彼女の一言が頭にこびりついて離れない。が、予鈴が僕の思考を妨げる。
「あ、いけない。授業が始まっちゃう。」
つまらない世界に戻らなきゃ、とつぶやきながら僕の世界に鍵をかける。
時刻は8時21分。君と初めて会話した4分後。
教室についたのは3分後の24分。教室に着いて1限目の準備を始めた。
「なぁ、マコ今日の英語の宿題見してくんね?」
と人懐っこい笑みを浮かべながら顔の前で手を合わせている彼の名は夏目優人、僕の幼なじみであり数少ない友人だ。
「優人はやれば出来るのになんでやらないかな」
やれやれと肩をすくませカバンから英語のノートを取り出して優人に渡そうとした。が、優人の肩越しに見えるその人に目を奪われて動作を中断してしまった。優人は途中で止まった僕の様子を見て後ろを振り返る。そして、いたずらっぽい顔をして僕の首に腕を回して語りかけた。
「なぁ、マコもしかして七瀬さんに一目惚れでもしちゃったか?」
「いや、そうじゃなくって‥‥あの人、七瀬さん?ってさこのクラスの人?」
真剣に問いかけた僕に呆れ顔で優人は説明してくれた。
「あのなぁ〜。はぁ、七瀬さん本名は七瀬ミク。七瀬ミクっていったら眉目秀麗、才色兼備、将来有望の三拍子揃った完璧美少女だぜ?ファンクラブまであるらしいって噂の超有名人!!そして、今や絶滅危惧種である黒髪ロングの美少女。知らない奴がいたとは驚きだよ」
「そうなんだ、、、ありがと。」
説明を一通り聞いた後ノートを優人に渡すと
七瀬さんのガードはめちゃくちゃ硬いから諦めろと勘違いなことを抜かしている。
僕が目を奪われたその人こそ図書室で寝ていたどこかの国のお姫様だった。
どこかの国のお姫様こと七瀬ミクは僕の視線に気づいたのかこちらを向いて笑顔を送ってくる。その笑顔に見とれているとまたもや優人が腕を首に回してきた。
「お前、七瀬さんと何やってんだよ、羨ましいなぁこの〜」
しばらくじゃれあっていたが始業チャイムがなり優人は席に帰っていった。
この時には気づかなかった、僕の日常に七瀬ミクという非日常が組み込まれ始めたということに。
もっとも他者との接触に積極的でなかった僕にはそんなことを知る術などなかったのだか‥‥
時は流れて放課後。
待ちに待った放課後、僕の世界へ戻れる。
嬉々とした感情でスキップを踏みそうになった足を理性で無理矢理落ち着かせる。
さて、いよいよ僕が世界に戻ろうとして図書室のドアノブに手を掛ける。
「あれ?ドアノブが軽い。」
いつもとは違ったその感覚に戸惑ったが僕以外にも図書室の鍵をもっている人はいる。例えば司書の先生とか‥
そんなことを考えながら世界に体を馴染ませていく。
薄暗い。人がいる筈なのに電気はひとつもついていない。司書の先生が鍵を締め忘れたのか
僕は部屋が湿らないように昼間は開けてある窓を締めよう近づいた。 そのとき不意に風が吹き、白のレースのカーテンはその下で眠る彼女を優しく包み込んだ。
それと同時に僕の目に太陽の光が飛び込んできた。
デジャビュだろうか。突然の光情報に目を抑えのたうち回る僕をよそ目に彼女は朝と同じで幸せそうだ。いや、幸せそうだったに違いない‥‥…
彼女は1つ伸びをして
「う〜ん、よく寝ましたわ。あら?」
と言い、のたうち回る僕を見つけ、悪気なくこう続けた
「芥川眞くんではありませんか!そこで独りで何をなさっているのですの?」
何って言われても困りますよ、目にいきなりの光情報で体がやばいんですよ!あ〜、とりあえず目がやばい。目が、、、
のたうち回る僕の頭には無数の言葉が浮かぶが、僕の口から出た言葉は
「目が、目がぁ〜!!」
今でも思う。この時の一言は間違いなく過去最高に寒かった。友達の前で一発芸でスベるなんてこととは比べものにならないくらい恥ずかしかった。
もっとも僕が友達の前で一発芸をやるなんてことはありえないのだが。
しかしながら彼女は大人であった。
「‥‥まぁ、それは可哀想に‥‥。大丈夫ですか?」
見事にスルーを決め、僕の失態を見なかったことにしたのだ。もしそうならば僕もそれに乗っかるしかないだろう
「いえ、問題な‥‥。あ、やっぱりまずいかもしれません」
頭がクラクラしてきた。そこに彼女は追い討ちをかけるように
「そういえば先程の「目が、目がぁ〜!!」とはなんなのですか?最近流行りの芸か何かですか?」
と言った。
なんと彼女は見なかったことにしたのではなく知らなかっただけなのだ。大人でもなんでもないただの天然系だったのか!
意外な発見だったがそれを一瞬でかき消す感情が僕の心中を独占する。
あぁ、どうしよう。恥ずかし過ぎて死にたい‥‥。そうやって一人、手で顔を覆っていると
七瀬さんは
「またそうやって独りでいろいろなことをやって‥‥本当に面白い方ですね。」
そう言いながら口に手を当て上品に笑っていた。
朝の動作と大差ないはずだが、昼間の陽の中にいるせいか彼女はとても美しかった。この時、僕はファンクラブに入っている人達の気持ちが少しだけ分かったような気がした。
そして、同時にこの気持ちが恋だってことも多分理解し始めた。
まだまだ子供なんで文章下手くそですし、内容も薄いです。
けど楽しく読んでもらえるような作品を目指したいと思います!よろしくお願いしますっ!