そして神々は出会う
目が覚めると俺は森の中で倒れていた。左手には地図。右手には見たことも無い色鮮やかなキノコがほんの一欠片齧られてにぎられている。
まずは記憶の整理。俺はカイト、カイト=スロノク。新しい学園へ向かう途中、空腹の余り倒れた所までは覚えてる。ってか、俺がこのきのこを食ったのか、空腹時のヒトは凄いな。
空腹のせいか、倒れる前後の記憶が曖昧すぎて現在地がわからない。やはり無理をしてでもバスで行くべきだった。
我が家から新しい学園。〈神域学園〉まではバスが出ている。それを節約のため歩いて来たのは間違いだった。いや、ちゃんと途中まではバスで来たよ?少しでも移動費を抑えるために残り一駅でバスを降りたのが間違いだった。まさかその一駅間が歩いて2日以上掛かるとは、しかもその殆どが学園の敷地とか広過ぎる。
「しかし…ここは学園の演習場か?」
〈神域学園〉とはこの大陸に一つしかない神性を持つ子どもたちが集められる場所だ。
神性とは神の力のことで、神世の時代に始まったクロノスを主神とするティーターン神族と、ゼウスを主神とするオリュンポス神族の戦争。不死の神同士では決着の付かなかったこの戦争を終わらせるためそれぞれの力をヒトに持たせたのが神性である。この世界には大陸は2つ存在し、それぞれ〈ティーターン大陸〉〈オリュンポス大陸〉というまんまな名前が付いてる。
因みに俺はオリュンポス大陸所属だ。そして前の学園の進学時の神性適正のチェックで適正が出たので、晴れて神域学園へ進学したのである。
演習場とは神性の演習場のことであり、広さが必要なのも頷けるが…
「流石にこれは広すぎだろ…」
見渡す限りの木々達、背も高いから上を見ても葉と空しか見えない。
「真っ直ぐ歩いてりゃ着くだろ」
そろそろ限界も近い、入学を前に行き倒れとか嫌すぎる。
そんな事を考えつつ歩いていると、ふと前方500mほどで光が見えた。
それも実際の光ではなく、直感的な赤い光。
「攻撃系の神性かっ!」
狙いは自分。恐らく不審者に対する警告を含んだ攻撃。ならば…
(ここは喰らっておくか…)
覚悟を決め数秒待つと、予想通り体を衝撃が襲った。
しかし、神性持ちであれば十二分に耐えられる衝撃、神性が無くとも、打ち身程度で済むレベル。民間人か神性持ちかを調べるための攻撃だと判断。そのまま両手を挙げて待機していると、前方の茂みから人が出てきた。年は恐らく自分とは変わらないだろう、彫りの深い金髪の美少年。ここの男子生徒であろう彼は、俺を見据え、質問した。
「所属とこの森に立ち入った理由。それとどうやって潜り込んだのか、簡潔に答えろ」
「所属はオーディーン。入学式のためにここまで来たのですが、歩いてきたら迷ってしまって。警備の方に学生証を見せたら普通に通されました」
そう言って生徒手帳を見せると、彼は手帳を取り、携帯を出す。てっきり教職員クラスが出てくるものと思ったが…
(教職員以上に権限を持つ…余程に強い神性なのか…)
色々と詮索していると何処かへ、恐らく警備隊への確認を済ませたのであろう男子生徒がこちらへ向き直る。
「確認が取れた。私はこの学園の生徒会長を務める、ゼス=クリシュトだ」
「はじめまして、明日からこちらでお世話になるカイト=スロノクです」
「よろしく、カイトくん。校舎へ案内しよう」
そう言って、会長は後者の方へ向かった。…今俺が歩いてきた方向へと…。
「…え?」
「新入生が知らぬのも無理はないが、この森には侵入者対策のため、入った人物の平衡感覚を奪い、迷わせる結界が張ってある。君が迷っていたのはそのせいだろう」
「…」
「何、入学したら結界の無効化をまず習う。先に体験できてよかったな、カイトくん」
そう言って、生徒会長は小さく笑った。