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貴族の娘と女神様

現実逃避を続けていてもしかたがない。

抱き締められた状態から逃げ出せないなら、

眠ってしまう前に聞いた話しを整理しようと考えた。


クラウさんはアタシが御祝儀を作っている間、地面に座って待っていたが、

どれくらいかかるか聞いていないことに気づいて、待ち時間に大剣と鎧のメンテナンスをしようと立ち上がろうとしたが、その瞬間に背中側から黒いもやが通り抜けていった。

なんだろうと思った時には意識ははっきりしているのに身体が動かない。

声も出せない。

そして真っ黒集団が現れてロープでぐるぐる巻きにされてしまった。

その後、荷物のように運ばれて岩山の麓に作られた扉の壊れた家の前に着くまでに聞かされたのは

クラウさんは闇教の生け贄として選ばれていて、昨日やっと見つけたと。

近くをうろつかさせる訳にはいかない兵隊さん達に嘘の証言をして早朝から森の奥に向かわせた。

例え見つけても捕まえるのに苦労するだろうと思っていたが、大剣も鎧も装備していないで座っているところを見付けた。

大剣はともかく祝福を施された白い鎧を装備していないということは闇魔術が効くということである。

発動に時間がかかる闇の魔道具に魔力を通して打ち込んだ瞬間に立ち上がろうとしたから

避けられると思ったが運良く当たってくれたという。

闇教は魔王を復活させようとする集団である。

黒い法衣を着ている偉そうなやつが私に向かって言っていたのだから間違いない。

私は魔王への捧げ物。魔王の血肉となれるのだから感謝しろとも言われた。

せっかく妖精に会ったのに闇を祓う魔道具を授かる直前にこんなことになるなんてと思っていた。

何かの破片が赤い炎をあげて燃えている、黒い法衣を着た人が杖を向けると黒い炎に変わった。

この黒い炎に焼かれれば魔王の元に行けるという。

動けない私を抱え上げて黒いマントを着た人物が黒い炎に向けて進む。

私はまだ死にたくない、魔王の血肉になんてなりたくない、助けてお父様、助けて妖精さん。

と心の中で叫んだ瞬間に岩山の天辺が白く光ったと思ったら大量の水が降ってきた。

それは降ってきたと言うより水の塊が落ちてきたと言った方が良いくらいの量であった。

水の塊は地面についた瞬間に破裂して全てを水に埋めた。

黒い炎は一瞬にして消えて黒い集団共々私も巻き込んで押し流していった。

気がついた時には森の境目にいたが先程までと違うことに気づいた。

身体が動く。縛られているから自由にとは言わないが、これなら抵抗できる。

もしかして木の妖精さんが助けてくれたのかもしれない。

そう考えなければあんな大量の闇を祓う水が現れるわけがないからだ。

だが、そこまでだった。

ぐるぐる巻きに縛っているロープから抜け出す前に黒いマントを着た人物に再び抱き上げられたからだ。

ここから場所を変えるようだ。

せっかく逃げるチャンスを妖精さんが与えてくれたのにの私は活かせなかった。

奇跡は二度も起きない。

でも身体が動くのなら最後まで足掻こうと決心した時に、たくさんの兵が現れて私は助け出された。

神は最後まで足掻こうとする者を見捨てたりしない。

そう思ったそうだ。

その後の事は、眠ってしまいあまり良く覚えていないけど。

兵隊さん達は「我々は女神に導きらし者達なり」とか「女神の為に」とか女神、女神と口々に叫びながら戦っていたから不思議だと言っていたような覚えがある。

世界の王や魔王の他にも女神もこの世界には実在するのかしら。

そう考えながらもいい加減そろそろ抱擁からの脱出を試みるがやっぱり出来ないでいる。

ふと視線を感じて見上げるとクラウさんと目があった。

このまま見つめあっていたら百合の花でも咲きそうだがアタシにはその属性はない。

放せと意思を込めた視線を送ると、諦めたのか腕の力が弛んだ。

アタシは抱擁から抜け出して身体の調子を確かめる。

特に問題は無さそうだ。

やっと言えなかった台詞が言える。

『さようなら。もう会うことはないけど、元気でね』

変に関わってしまったけどここで終了しないといけない。

このままでは闇教に関わることになりそうだからだ。

宗教は良い宗教でも悪い宗教でも関わってはいけない。

異世界トリップ小説で宗教と来たらぜったいに面倒事に巻き込まれる。

せっかく先人がそう記してくれているのだから轍を踏む訳にはいかない。

アタシは別れの挨拶をするために口を開きかけた時に。

「罪人が逃げたぞ。おい。何をする気だ。捕まえろ!」

と叫ぶ兵隊さんの声と共にテントが燃えだした。

そしてその火は黒い炎となり何故かクラウさんに襲いかかる。

状況は良く分からないが、とにかくクラウさんがピンチだと思い。

黒い炎に向けて気を飛ばした。

黒い炎は気に当たると、のたうち回るように消滅していったが、テントも吹き飛んでいった。

テントから見えるのは青い空、白い雲、どこまでも続く……

クラウさんは黒い炎から身を避けるために頭を下げてしゃかみこんでいる。

まるで平伏しているようだ。

対するアタシは気を飛ばした時にとった、両手を開き天に向けて突き上げたポーズで立っている。

まるで力を誇示しているかのように。


気を飛ばした時に発生する見えない壁がアタシとクラウさんを包み込む。

周囲は風が吹き砂が舞っているが見えない壁に当たり落ちていく。


とっさに気を放ってしまったけどもしかしてまたもややり過ぎてしまったかもしれない。

それでも振り上げた両手を下ろしながらクラウさんの無事を確認していると。

兵隊さん達の感極まった声が聞こえた。


「「「ああっ、女神様」」」


え?


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