潜伏スキルの弱点
草木も眠ると言う丑三つ時。
この世界の丑三つ時っていつなのかわからないから雰囲気だけど。
姿の見えない何かが音もなく移動していく。
その何かは見えないだけでなく、匂いも気配も感じられない。
そして一人の少女の枕元についた時に移動を止めた。
少女はよく眠っているようで、起きる気配はない。
見えない何かは大きな剣となった。
大きな剣は重力に逆らってしばらく空中に浮いていだが、力尽きたように落下しはじめた。
そしてそのまま少女に突き刺さる。
と思いきや静かに枕元に落ちた。
次に白い塊が現れ少女の顔を潰すかのように落下するが再び静かに枕元に落ちた。
見えない何かは少女がまだ眠っている事を確認してその場を離れようとするが、次の瞬間、動きを止めたと同時に白いマントが現れた。
なぜなら寝ているはずの少女の腕が白いマントを掴んでいたからだ。
姿を表した白いマントの人物は目深にフードを被っていたが動揺を隠せずじたばたと逃げ出そうとしている。
眠っていた少女は寝起きにも関わらず細く微笑む。
そして。
「あら。木の妖精さん。私は何もしないから落ち着いてね」
何もしないって言っているけど逃げられないようにしっかり捕まえているじゃないか。
これが何もしないって言うなら、スル時はナニをするのだと言うんだ。
って、あれ?同じやり取りをしたような気がする。
ってなんでアタシ捕まっているのよ。
早寝したアタシは予定通りまだ暗い時間に目が覚めた。
岩影から出て見下ろすと、かがり火があちこちに焚かれている。
懸念の一つが解消された。
場合によっては、兵隊さん達が夜になって気温が下がってから岩砂漠を移動する事も想定していたが、そんなことはないようだ。
アタシは夜警の兵隊さんに気がつかれないように、死角になる位置に飛び降りた。
急激に動くと潜伏スキルが解除されるからだ。
落下中は姿が見えてしまうだろうが少し遠くで降りたから、見られても鳥と思われるだけだろう。
着地の瞬間に気を出して立てる音は最小にする。
ここからは潜伏スキルと忍び足でゆっくり移動する。
兵隊さんがこちらを見ているが焦点は合っていないところからするともっと先を見ているようだ。
アタシはそのまま夜営の陣に入り込む。
陣の中ではテントが張られていて夜警の兵隊さん以外は中で眠っている。
アタシはテントとテントの隙間に入り込み潜伏スキルを解除してから振動感知をする。
クラウさんの振動は覚えているので程なく場所が分かった。どうやら一人で居るらしい。
これで懸念していた事がクリアーになった。
クラウさんだけ先に移動しているおそれと、相部屋になっているおそれである。
アタシは再び潜伏スキルを使い忍び足でクラウさんのテントに忍び込む。
テントの中は暗いが夜目の利くアタシには問題ない暗さだ。
クラウさんがよく眠っている事を確認して、頭の辺りに移動した。
襲撃があっても直ぐに手で持てるように武器と言うのは、近くに置いておくものだ。
アタシの手から離れた物は潜伏スキルの影響から外れるらしく、すぐに見えるようになった。
始めは何も考えずに置いたが右手でアタシの頭をポンポンしていたことを思いだし。
枕元に移動して右手ですぐに武器を握れるように置き直した。
ついでに鎧とリストバンドの位置も直す。
これで明日の朝にクラウさんが目覚めれば気がつくでしょう。
依頼じゃないけど依頼完了っと。
でも昔の偉い人は言っていた。帰ってくるまでが遠足だと。
アタシは用心深くクラウさんが眠っている事を再確認してからテントを出ようとしたら冒頭の様に捕まってしまった。
見つかってしまったのならしかたがない。アタシは逃げ出すことを諦めて話しを聞くことにした。
どうやら、潜伏スキルにはアタシの知らなかった弱点があるらしい。
それは一度破られた相手への隠蔽効果が下がるという弱点だ。
クラウさんが言うには木のうろに居た時はなんとなくおかしい程度だったが、今回は夢の中の出来事だと言え何かが居ると思えたそうだ。
夢うつつでなんとなく手を伸ばしたら妖精さんのマントの感触が得られたから、つい握ってしまったという。
木の妖精さんが土砂漠に来たら力が弱まるのはしかたがないよとフォローしてくれたが、それは違うと思う。
だってアタシは妖精ではないのだから。
今後同じ相手には二度は効かないと覚悟しておいた方がよさそうだ。
アタシからは今回の用件を伝えて、リストバンドの説明を添えた。
それを聞いてクラウさんは大喜びをして「ありがとう」と言いながら抱き締めてきた上に頭をポンポンしてきた。
その後、あの時に何が有ったのか話してくれていたが子供の身体のせいなのか分からないが
あれだけ寝てから来たのに、包み込む身体の暖かさと頭ポンポンにいざなわれて不覚にも眠ってしまった。
こんなに知らない人がたくさんいるところでは振動感知のせいで眠れなかったのに何故だろう。
アタシは目が覚めた時に目の前にあった双丘を見ながら、
願い事で胸を大きくしたいと言っていたけどBカップあれば十分でしょと現実逃避をしていた。