妖精の宅配便
アタシは動けないでいる。
それは一歩たりとも動けない状態である。
蛇に睨まれたカエルとまでは言わないが、動けないということには違いはない。
この状況を打破するためにも何とかして動かなければならない。
それは。
話しを戻そう、なんでこんな事になったのかを。
ほんとタイミングが悪い。
兵隊さんに見つかるのが少しでも遅ければ、何事も無く御祝儀を渡して、『さようなら。もう会うことはないけど、元気でね』だったのに。
仕方がないから後でこっそり渡そう。
なんかその方がより妖精さんみたいにみえるからね。
どうせ移動中は渡せっこないし、ゆっくり行こう。
まずは突貫作業で散らかしてしまった木のうろの中を掃除してから、ゆっくり朝御飯を食べた。
掃除中にクラウさんの鎧も見つけた。重たかったが胸当てと籠手だけだ、なんとか持てる。それを背負い袋に入れた。
身仕度をして準備万端と言うところで動けなくなった。
そうなのである、クラウさんの忘れ物である『魔法の大剣』が重すぎて動けないのである。
ただでさえ鎧が重く枷となっているというのに。
でも動けないと言うか、そもそも持ち上がらない。
こんな重いものを振り回せるなんて、クラウさんはどんな筋力を持っているのだろう。
ってアタシが非力すぎるのかもしれないけど。
アタシはどうやったら持っていけるのか『大剣』を目の前にして考える。
これではまるで蛇(大剣)に睨まれたカエル(アタシ)である。
暫く考えてから閃いた。
なんだ、影魔法でしまえば良かっただけだよね。
そうと決まればしまう前に『大剣』を鑑定する。
しっかり覚えておかないと取り出せなくなるかもしれないからだ。
『重量増減魔法の大剣
その多大な重量を利用して対象物を引き千切り潰す。
その羽毛の様な重量を利用して対象物を切り裂く』
鑑定結果を見て正直凄いと思った。
この剣にも、この剣を扱えるクラウさんにも。
アタシの妄想かもしれないが、この剣を作った人は剣と言う武器の利点と欠点を無くすために試行錯誤しながらこの剣を完成させたのであろう。
これは剣と言う武器の究極形体だとアタシは思う。
まぁ相手が世界の王ドラゴンモードであったら、話しにもならないと思うが普通の魔物までなら圧倒できるはずだ。
通常は軽くしておき、そのスピードで相手を追い込み。当てる瞬間のみ重くすれば良いのだから。
対象物を引き千切ったら軽くする。
武器の重量による慣性の法則を無視して次の攻撃に移れる。
アタシは『大剣』を持ち上げて振り回した。
もちろん魔力を通して軽くしたからできることだ。
何となく演舞をしてみる。
もちろんなんちゃってだけどね。
ゆっくりと時には速く右袈裟斬り左袈裟斬り、
角度が深いと地面に剣先が触れてしまうので殆ど横払い切りになってしまうが、
アタシの身長ではしかたあるまい。
大剣持ちちびっこキャラなんてゲームやアニメで見かけた時に、なんて無茶苦茶な有り得ないキャラだと思っていたが、
今自分がそんなキャラになっていると思うと可笑しく感じた。
究極の武器の究極の一撃を試して見たかったが、なんちゃって演舞をした時に分かった。いくら軽くてもアタシには大きすぎて扱うことは出来ないようだ。
機能を発動したらきっと自分で自分を斬ってしまうとか怪我をしてしまうに違いあるまい。
アタシは影魔法を使った。
アタシは動けないでいる。
あんまりな光景に立ち竦んでしまったからだ。
アタシがいる場所はクレーター脇の窪みに作ったアタシの家が見える場所。
クラウさんに接触する前に情報収集を兼ねて偵察しようとしていた。
クラウさんを連れ去ったであろう集団の進む方向がアタシの家であったので、兵隊さんに見つかったと思っていたのだが、それは大いなる勘違いだったようだ。
そこにいたのは兵隊さんではなく、真っ黒な法衣を着た人と真っ黒なマントを着た人と真っ黒なシャツとズボンを着た人と、とにかく真っ黒集団であった。
集まっている集団の全員が服装はともかく黒一色に統一されている。
カラスも一羽二羽ならどうとも思わないが十羽も集まっているのをみれば怖いし気味が悪いし一瞬立ち竦んでしまう。
これが白鳥やフラミンゴなら二十羽いても恐怖を感じないのに不思議なものだ。
黒い集団は12人。そして傍らにはロープでぐるぐる巻きにされた上に猿ぐつわをされて転がされているクラウさんが居た。
見ている間、びくりとも動いていないがどうしてなのだろう。
昨日までいた兵隊さんは何処に行ったのだろう。
それとアタシの家の扉が破壊されている。なんてことをしてくれたんだ。アタシの家のを壊したな。
元からここを出発するとき解体するつもりであったが、色々考えて拘って作った家だ、他人に壊され土足で踏みにじられ笑って許せるわけがない。
真っ黒集団め許すまい。
アタシは真っ黒集団をどうやって懲らしめるか、クラウさんをどうやって救出しようか考えることにした。
今までなら直ぐに思っていたであろう、あんな怪しい集団に関わってはいけない、とは何故か思わなかった。
その事を不思議だとも感じないマッキーは真っ黒集団を睨み付けていた。