9、ヒロイン目線→変態さん現れる
ゲームモニターのアルバイト三日目。
正直に言って、三日目にして……
私はリタイアしたい。
「ねぇねぇ彼女っ。名前なんて言うの? ねっ? 教えてくれてもいいじゃーん」
このサラサラ金髪ロングヘアーの青い目をした外国イケメン俳優風な男は……
しつこいチャラ男。
銀色の杖に、銀色のローブに、銀色の尖った靴に、銀色の帽子。
色使いからしてしつこい感じだけど、おそらく職業は魔法使いだろうね。
イケメン好きな女性は喜んでついていきたい風貌なのかもしれないけれど……
私は絶対にお断り。
世の中の女性すべてがイケメンを求めてるとは思わないで欲しい!
綺麗ごとだと言われようと、私は性格が大事だと思う。
それに私が一番大事にするポイントは雰囲気重視……
チャラ男は問題外!
「僕達はこのゲームをはじめて十日目なんです。教えてあげれるコトがあると思いますよ?」
茶髪ツーブロックヘアーの韓流アイドル風なこっちの男は……
間違いなく勘違い男。
すべて黒色に統一された全身鎧と、大きな剣や盾。
黒騎士なんて職業があるとすれば間違いなくあてはまると思う。
でも、やさしさを押し売りしないで欲しい。
女性が優しくされたいのは好きな男性からされたいわけであって……
どうでもいい男からされると正直に気持ち悪いだけ!
私のこの態度を見て、それでも話しかけてくるなんて空気が読めてない証拠だよね?
本当に優しい人ならこんな思いを相手にはさせたりしないよ。
「なんでも教えてあげるからさぁ~、ちょっと話しをする位いいだろ?」
「ここら辺にもそれなりの魔獣が出ますよ? 僕達といれば守ってあげますから。安心してください」
無視して歩き続けているのに、この人達はどうしてしつこいんだろう……
「いい加減にしないと温厚な俺も強行突破しちゃうぞぉ~?」
「やめないか! こいつ冗談言ってるだけだから本気にしないでくださいね? 僕達は女性の味方ですから」
どうして分からないの?
話すだけですむはずがない。
こんな人達といる方が危険に決まってる。
味方なわけあるはずないでしょ……
男は危険。
男は信じるコトなんか出来ない。
これは私が生きてきた人生で導いた結論。
浮気するし、バレバレの嘘つくし、お金の使い方荒いし、偉そうだし、暴力ふるうし、ワガママで自分勝手でろくでもない男という生き物。
もちろんそうじゃない人がいるのは分かってる……
でもそうじゃない人を見つけるなんてツチノコを探すようなモノでしょ?
少なからず私が歩んできた人生にはいなかった。
「俺達よく見てよ~、どっからどう見たって怪しくないだろ?」
「一緒にゲームをするモノ同志、仲良くしていても損はないと思いませんか?」
もしかしたらこの人達はイイ人な可能性はある……
私が偏見を持っているだけで、本当に心配をしてくれているのかも……
悪い人だときめつけている私がそもそも間違っているのかもしれない……
それでも私は男という生き物に関わりたくない!!
関わりたくないからこそ、このゲームモニターのアルバイトを引き受けた。
ゲームの中なら現実にいるような男達はいないと思ったから……
なのにどうして?
どこにいっても一緒なの?
「いい加減にして! 私は一人で大丈夫だし、他を当たって!」
男と会話をするのはイヤだ。
でも……
これで追い返せれるなら今を我慢すべきだ。
「…声まで可愛いじゃん。マジヤヴァいね!」
「何か辛いコトがあったんですね? 僕達で良かったら助けになりますよ?」
「お願いだから近づかないで!」
「何怖がってんの? 可愛い~」
「よほどのコトがあったんですね」
「……やめて!」
「男って嫌がられると燃えるんだよねぇ~」
「別に僕達はあなたを襲いたいわけじゃない。心配なだけなんだ」
「そうそう心配なだけだって。ねっ?」
「……やめてよ……お願いだから……」
ここまで拒絶してるのに……
どうして通じないの?
プルプル……
どうしよう……
体が震えてくる……
怖い……
医者からは男性恐怖症だと言われた……
でもそんな簡単な言葉では片づけれる問題じゃない!
私だって治せるなら治したい……
でも治らないモノは治らない!
こんなのイヤだ……
嫌だっ!!
「……誰か……助けて……」
「どうしたのかなぁ~?」
「町まで運んで行きましょう!」
「じゃ、俺が優し~く運ぼうか……」
「……いやだ……」
どうして私は戦闘スキルを取らなかったんだろう……
戦うコトが怖くて、補助スキルや回復スキルばかり選んだ……
あの時に何か攻撃スキルをとっていれば……
「……誰か助けてっ……」
誰でもいいから誰か!
お願いっ!!
ガサガサガサッ
「ヤヴェ! 魔獣だ!」
「杖をかまえろ!」
まさか魔獣が……
そうだ……
こんな男達につきまとわれる位なら……
魔獣に襲われて……
バッ――
「――危ない!」
「戻ってこい!」
誰が戻るもんか!
どうか痛くないように……
ガサガサッ……チョコン
「え?」
パンダとラッコ?
どうしてこんな所に?
「ぎゃははははっ……なんだよアレ?」
「警戒をとくな! あんな見た目でも魔獣に変わりはないんだ!」
そんな……
こんな可愛い魔獣が強いわけない……
そもそも、もし本当に恐ろしい魔獣が出てきたらどうなってた?
私は何を考えてたんだろう……
「……くっ……」
涙がこみあげてくる。
男から逃げたいって衝動だけで私は自分を傷つけようとした……
頑張るコトを一瞬でもあきらめうようとした……
どうして私はこんなに情けないんだろう……
「うっ……ひっ……ひっく……」
「あ~ぁ~泣いちゃったよ~」
「大丈夫です! そんな魔獣は蹴散らしてみせます!」
「さぁ、俺達と一緒にいこうよ。絶対に楽しいからさ」
もう何も考えたくない……
「むぅ?」
「キュ?」
「……え?」
パンダちゃんとラッコちゃんがそっと私に触れてくる……
可愛い。
きっと慰めてくれようとしてるんだね。
「……っ……やめて……この子達には手を出さないで……」
見るからして手に葉っぱを持ってるだけ。
敵意なんてまったくない。
この子達は何も悪いコトなんかしていない。
きっと食べれる葉っぱなんかを集めているだけなんだ……
「そうはいかないよなぁ?」
「えぇ、魔獣は悪です! 例え見た目が可愛くても人間に害する存在なんです! 駆除しなくては!」
「簡単に倒せて経験値が入るのもおいしすぎるしねぇ~」
そうだった。
こいつらは何も話しを聞いてくれない……
覚悟しなきゃ。
「お願い……話しなら聞くし……ついていくから……この子達はそっとしといて……」
「むぅ?」
「キュぅっ」
これでいい。
私が少しの間だけ我慢するだけでいいんだから……
そうやって生きてきた……
このゲームの中でも同じコトをすればいいだけ……
私の認識が甘かったんだ。
「マジ? 一緒にくるの? やったね」
「仕方ない。その魔獣は見逃してあげましょう」
「……森にちゃんと帰るんだよ?」
この子達はきっと人に慣れてるのかな?
私がそっと手を出したら嬉しそうに体を摺り寄せてきた。
また……
会えるといいな……
「早くおいでよ!」
「触ると汚れますよ?」
テクテク、チョコン
「え?」
ラッコちゃんが私の前に立ちふさがってる。
パンダちゃんも私の足元でしがみついてる。
これってもしかして……
「……私をかばってくれてるの?」
「むぅー」
「キュゥッ!」
なんて優しい子達なんだろう……
こんな情けない私の為に……
目から涙があふれて止まらない……
ありがとう……
そう言いたいのに言葉が出ない……
「ぎゃはははっ! マジか? まさかそのパンダとラッコが俺達にたてつこうっていうのか?」
「人間に牙をむけるなら……駆除ですね!」
「……やめて……ちゃんと行くから……」
泣きやめ自分……
今がんばらなきゃこの子達が殺されてしまう……
タタタタタッ……
……あっ!
行っちゃダメっ!
「ラッコちゃん!」
「うおっ! ラッコの方がやる気みたいだぞ!」
「何をしてくるか分からない。お前は僕の盾の後ろに!」
「あんな奴、俺の魔法で黒こげ決定だろ?」
タッタッタッ……
「戻ってラッコちゃん!!」
ラッコちゃんが手にもっているのは石の破片なようなモノ。
そんなモノで勝てるわけないよ。
「この小ささだと蹴ればいいだけじゃない?」
「いいから下がるんだ! 盾スキルで様子を見てから――」
――ピョンッ――
「――おっと! 危ない。この盾がある限りお前の攻撃が届くコトはないぞ!」
「ぎゃははははっ、ちょっとマジこれうける。ラッコがお前のご自慢の盾にしがみついてるぞ?」
「汚らわしい害獣め……」
「まって! 何もしないで!」
あの勘違い男の盾は普通の盾じゃない。
数値変換をしてそろえてなきゃ、あんな高級そうな装備が序盤に全身で揃えれるわけがない。
「その子達にちょっとでも手を出したら……私は許さないから!」
「くっくっくっ……だとよ? どうする?」
「僕の装備が汚れるのは我慢できません。すぐにでも引き剥がして――」
――コンコンコン、バゴォォオンっ!!
「……へ?」
「……うそだろ?」
「キュッ!」
「えっ?」
盾に飛びついたラッコちゃんを中心にあの高そうな盾が砕け散った……
しかもその後にラッコちゃんが私にVサインをおくっているように見えたのは目の錯覚なのかな?
「僕の……僕の盾がぁあぁぁーっ!!」
「おい、落ち着けよ!」
「うるさい! この害獣が僕が始末するっ!!」
ドガッ!
「キュゥうぅーッ……」
ドンッ、ゴロゴロッ
「やめてぇえぇーっ!!」
目の前でラッコちゃんが蹴られて飛んでいく。
すぐにでも駆け寄らなきゃ!
大丈夫……
落ち着いて……
私には回復スキルがある……
「……きゅぅ……」
「大丈夫だよ。すぐに治してあげるからね……優しき光よ、このモノに癒しの手を、光癒手……」
私の手が淡い光に包まれ、触れているラッコちゃんのお腹も淡い光に包まれる。
「……キュぅ」
「すぐに良くなるからね?」
「その害獣を地面に置いて下さい。そいつを見逃すわけにはいきません!」
「ブチぎれてるねぇ~、こうなるとこいつ止まらないよ? どうする? 後でイイコトさせてくれるなら助けてあげてもいいけどなぁ~」
こいつらが信用できるわけない!
こんな小さな子を蹴るなんて考えられないよ!
すぐにでも逃げなきゃ――
「――おっと、どこに行くつもりなのかなぁ?」
逃げ道が……
「どこにも行かせるわけないよねぇ?」
「あなたがその害獣を庇うなら……あなたにもお仕置きをする必要があるみたいですね」
「いいねぇ~、お仕置き。楽しそぉ~」
そんな……
ラッコちゃんだけでも助けたい……
さっきのパンダちゃんはいなくなってるし……
どうしよう……
「さぁ~て、何して遊ぶ?」
「遊びじゃない。彼女とその害獣にふさわしい罰を与えるんだ」
「はいはい」
今度は私一人の問題じゃない……
あきらめたらこの子まで巻き込んじゃう……
けど怖い……
怖いよ……
ガクガクガク……
どうしよう……
お願いだから……
手の震えなんか止まってよ……
今ここで集中しなきゃ……
「……キュぅ」
ラッコちゃんが震える手をそっとつかむ。
そうだよね。
こんな小さな子でも勇気を持って戦ってるんだ!
「……光よ、我らを守る壁となって輝け! 光壁陣!」
キィィイーンッ
できた!
この光の壁があれば誰も近づけない!
私の魔力が続く限りだけど……
「ひゅ~っ、やるじゃん」
「回復スキルに補助スキルはまさに理想的。やはり僕達は知り合うべくして出会ったのかもしれない」
勘違い男が本当に気持ち悪い。
「勝手なコトを言わないで! あなた達と関わるつもりなんてない! ここから立ち去って!」
「立ち去ってだってぇ~、そんなコトで立ち去ると思ってる? ココでのんびり君の魔力切れまで待つだけでしょ」
「この盾を壊したその害獣だけは許すコトはできない……」
ジャキンッ
何?
あの刃まで黒い剣……
「この魔剣をあなたに向けたくはないのですが……仕方ありません」
「待てよ! お前のその剣じゃ彼女まで傷つけちゃうだろ? ココは俺にまかせろって……」
自分を信じるしかない……
私だってそれなりの数値を変換して魔力をつくったんだから。
「火よ、炎よ、踊れ弾け飛べ! 火炎弾丸っ!」
チャラ男の杖から火の玉が……
あんなにいっぱい!?
ボォン、ボォンッ、ボンボンボボォォーンッ……
「きゃっ……」
「……キュぅ」
怖い……
目を開けていられない……
凄い数の火の玉が光の壁にぶつかってくる……
集中ができないよ……
ギュッ
ラッコちゃんがあったかい……
この腕の中にあるあたたかさは失っちゃいけないんだ!
「……無駄よ! あなたの魔法だろうとその魔剣だろうと……私の光壁陣で防いでみせる!」
絶対に!
「じゃぁ……手加減やめちゃおっかな? 火炎弾丸壱式!」
ゴォン、ドンドンッ、ゴォオン、ゴォンボンボン、ドドドドドォォーンッ……
「きゃぁあーっ!」
さっきよりも火の玉の数も大きさも倍以上はある……
魔力がドンドンとけずられていくのがわかる……
「まだこのゲームはじめて数日ですよね? 一日差であっても、大きな実力の差になるのが分かってもらえますか?」
「俺達十日目だからね? さぁ……コレで決めようか? 服まで燃えちゃったらごめんねぇ~……火炎弾丸弐式っ!」
ドゴォン、ドゴォン、ドゴドゴドゴッドゴォォオン!!
パキィーン……
「……うそ……」
光壁陣が割れて消えていく……
ゴォォオーッ……
恐ろしい程の熱気がぶつかってくる。
熱い。
こんなに熱いとは思わなかった……
ダメ!
ここであきらめちゃダメ!
まだ魔力はある!
何度だって光壁陣をはればいい!
「光よ! 我らを守る壁となって――」
「――動かないで。傷つけたくはありません」
チャキン
首筋に黒い刃……
いつの間にこんなに傍に!?
嘘でしょ!?
私が弱いばっかりに……
「……お願い! この子は見逃してあげて!」
「うーん……ダメです」
勘違い男が大きく剣を振りかぶる……
もうダメだ……
目が開けていられないよ……
せめてそれなら……
私ごと切って!!
「やめろぉぉおーっ!!」
……え?
誰だろう?
こいつらじゃない声……
誰かが助けにきてくれたの?
「おい……」
「お前は何者だ……?」
こいつらも知らない人?
……誰でもいい!
このラッコちゃんを助けてくれるなら……
「お願い助けてっ!!」
私は目を開いて声のする方を見た……
そこには黒髪ミディアムヘアーの可愛い顔をした……
素っ裸の男がいた。
「「「変態だぁあーっ!!」」」