2、職業が決まりそうにありません
いつゲームがはじまったんだろ?
イヤイヤ、まてまてまて!
まだ現実だよね?
……アレ?
やっぱ夢かな?
この頭上のデッカい光る玉が話しかけてきた……
ような気もしなくもないかな?
ありゃ……
なんか光る玉の様子がおかしくない?
めっちゃ点滅してるけど。
このフラッシュは見てちゃダメな奴じゃね?
ポケ〇ンアニメで問題になったよね?
あっ!
チカチカ止まった。
……ん?
アレなんだろ?
なんかいつのまにか小さな光る玉ができてる。
……テニスボール位かな?
ゆっくり俺に近付いてきてるような――
「――近い近い近いっ! 危ないって……」
予告なしに俺の目の前まで、鼻先ほどの距離まで急接近してきました。
とりあえず近づいてきても熱くはない。
だけどやたらとまぶしいんですけど。
このチビ玉の方は白っぽい光なんだけど、頭上のデカい方は太陽っぽい感じ?
まぁだからどうしたって感じだけど……
『あなたの能力を調査致します』
……うん。
間違いない。
この光る玉が話しかけてきているっぽい。
上のデカい方か?
いや、目の前のチビ玉か?
頭に響いてくる感じだから判断しづらいな。
――なんて考えてる場合じゃなくね?
どうなってんだ?
……ありえないコトだらけだ。
だけど、コレって……
つまり……
ゲームの中?
……でも、どこまでが現実だった?
どの辺りからゲームに変わったんだ?
まさかの風呂ポチャ位からとか?
いろいろ考えてる間にも、チビ玉は俺の頭や足や手や体の周りをクルクルとせわしなく回っている。
しかもよく見れば、時々点滅したり、赤や青や緑や黄色と別の色の光を放ったり、俺の股関の前で止まったり……ってオイッ!
セクハラで訴えるぞコノ野郎!!
しかしまぁ……
ゲームの中だと考えてみれば……
良くできた映像だよなぁ。
これが噂に聞くバーチャルリアリティって奴?
でも、なら……
俺の体はどうなってんの?
手も足も現実と変わらず意思通りに動く。
腕にある毛や、ホクロや、怪我の跡まで完璧に再現されてないか?
って事は、顔や髪もまんま俺コピー?
どうせなら顔をイケメン風にして身長を180センチ以上にしたかったんだけどな。
ご丁寧に丸出し状態な俺の息子も……うん、俺の息子です。
これが最新ゲームのクオリティかぁ……
イヤイヤイヤ!
やっぱどう考えても無理。
どんだけ科学技術が凄かろうが、ここまで出来るわけない……
ならまだココは現実?
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ、水中で息が出来てる時点で現実なわけないって。
……混乱してきた……
『大変お待たせ致しました』
気がつけばチビ玉は元の白っぽい光に戻り、俺の目の前をフワフワただよっている。
『あなたの精神、肉体、知力、経験、すべてを読み取り総合的能力を数値化させて頂きました』
「へぇ~、なんかゲームっぽい」
ってか、ゲームか?
やっぱココはゲームの中で間違いないわけだ。
リアル過ぎて実感がこれっぽっちもわかないけど。
……あっ!
後でこれレポート書いとこっと。
『平均的データと比較しまして、あなたは精神、肉体、知力のすべてにおいて、どの能力も非常に優秀な結果がでました』
「へぇ~」
『中でも経験に関しては、信じられない程の超優秀な結果がでました』
「へぇ~へぇ~」
『総合的能力を数値化した結果として、稀にみない超高レベルな人間であると判断致します』
「へぇ~へぇ~へぇ~」
へぇ~ボタン連打。
なんて平静なフリを装ってますけど……
実はめっちゃ嬉しい!!
一人で生きてきた力はダテじゃないって事ですな。
『すべてを踏まえた上であなたにふさわしい職業は……聖騎士、翼馬騎士、飛竜騎士、滅竜騎士などが候補にあがります。これらの適性がある人間は滅多に見る事がありません。あなたは凄く稀少な存在です。間違いなく英雄になられるでしょう』
「へぇ……」
正直これはポカーンだよ。
素っ裸な俺が英雄とか言われても設定に無理がありすぎでしょ?
これも後でレポートしておきますか。
『さぁ、どの職業を選ばれますか?』
もう決めるの!?
考える時間もなし!?
しかも、他に選択肢がない感じ?
どうせ一ヶ月間もゲームするならメジャーな職業じゃなくて、誰も選ばないようなマイナー職業で縛りネタプレイとかしたいんだけど……
『どの職業を選んでもあなたなら大丈夫です』
「そうですか……」
う~ん……困った。
どうしても選べっていうなら翼馬騎士か飛竜騎士のどっちかなんだけども……
ん?
そうするとペガサスやドラゴンなんてのは貰えちゃうのかな?
……なんてそんなに甘くはないか。
「質問! 例えば飛竜騎士を選んだ場合、ドラゴンはどうなる? なんかめんどくさいイベントこなさなきゃくれないとか?」
『あなたの総合的能力を数値化したわけですが……今からその数値を利用して、身体的特徴、ステータス、スキル、職業、装備などに注ぎ込み、異世界で生き抜くあなたの基礎能力へと変換していかなくてはいけません』
「ふむ……」
なんとなくだけどわかった。
「……つまり、今ある数値を自分好みに振り分けてキャラをつくれるって事でいいかな?」
『それを導く為にやってきました』
チュートリアルって奴だな。
「なら飛竜騎士の場合はその数値を使って、自分好みのドラゴンをつくったりはできるとか?」
『今から行く異世界では、魔獣と呼ばれる地球にいない生物が存在致します』
「まぁファンタジーだしねぇ」
『魔獣は人間にはない様々な能力を所持しており、それを利用するコトで生活をしている異世界人も多く存在致します』
「つまり魔獣は身近な存在だってわけか」
『ありとあらゆる場所に魔獣は生息しているので身近だという認識で正解だと言えます。ですが、野生の魔獣のほとんどは無差別に人間を襲ってくる為に利用するコトはできません』
「え? 矛盾してない? 魔獣と生活してる異世界人はたくさんいるんだろ?」
『異世界人は魔獣から卵を奪い利用しているのです』
魔獣の卵?
……やべぇ。
めちゃくちゃ楽しくなってきたぞコレ。
『魔獣を人になつかせる為にも卵から育てる事を主流としており、それらの魔獣の卵は金銭で売買されています。品種によってはどんな宝石よりも高くて価値あるモノとして高額の値段がつくそうです』
「つまり自分好みのドラゴンの卵を買えってコトだな?」
『ドラゴンのような上位種の卵は、普通ならばレア過ぎて手に入れるコトはできません。値段が高いのはもちろんのコト、そもそも売買されるのは何十年に一度あるかどうかだそうです』
「なんだよそれ? 飛龍騎士なんて名前だけのハズレ職業じゃんか」
『ですが総合的能力が特別高いあなたの数値があるからこそ……上位種の卵一体だけにしぼれば、基礎能力の一部として変換可能だと判断致します』
「え? つまり……」
『質問の答えですが……あなた好みのドラゴンを選ぶコトが可能です』
「マジで!?」
こうなりゃ最強ドラゴン育てて無双しちゃうしかないよね!!
……ん?
ちょっと待てよ……
上位種の卵なら一体だけにしぼればって言ったよな?
て事は……
「えっと、上位種があるなら中位種や下位種の卵もあって……そっちなら複数個の卵をゲットできたりする?」
『品種にもよりますが、中位種なら四体前後、下位種なら九体前後の卵に変換可能だと推測できます』
きたぁあぁあっ!
まさかの究極ネタプレイ道を発見したんじゃない?
『ですが反対致します』
「えっ!?」
『中位種十体が力をあわせたとしても、たった一体の上位種に勝てる可能性はごくわずかです。それ程までに上位種と中位種にはあきらかな能力の差があり……下位種ともなれば戦闘の役には立ちません』
「凄い極端な差じゃない!?」
『それ程までに上位種の卵を手に入れるというのは凄いコトなのです。あなたの適性は本当に素晴らしいモノであり、通常では絶対にありえないような稀少なモノ……どうかその能力を無駄にしないでください』
そりゃ言ってるコトは理解できる……
ドラゴンにまたがり空を舞う最強の騎士!
まさに王道。
漫画やアニメや映画の主役になれそう。
ハイスペックなのは分かってる……
分かってるけど……
俺は――
「期待を裏切って悪いけど、その総合的能力値とやらで変換するのは……ありったけの……」
――この選択を――
「……ありったけの下位種の卵でお願いします!」
――後悔しない!!
……多分ね。
『本当によろしいのですか?』
「もちろん」
『考えなおしてみては――』
「――しません」
『本当に、本当によろしいんですね?』
「いいんだって」
『………いいですか? 下位種の卵では折角のあなたの能力がいかせません! 異世界において下位種の卵は食用などの家畜として使われるような存在なのです! あなたは何万人に一人いるかいないかというような才能を、家畜に使われるおつもりですか!?』
チビ玉さんの声が超荒ぶってる……
キャラ崩壊か?
妙に生々しいAI機能だけど運営側がリアルタイムで操作してるとか――
『――聞いておりますか!?』
「聞いてます! はいっ!」
怒られちった。
『あなたの命に関わる問題でもあります。どうかお考え直し下さい。あなたは英雄になるべき稀少なる存在なのですから……』
運営も必至だなぁ。
まぁ、王道で人気がありそうな職業を優先してデータを集めたい気持ちも分かる気もするが……
だけど俺って……
めちゃくちゃ頑固なんです。
「申し訳ないけど、何をどう言われようと絶対に意思は変えないから! ドラゴンやペガサスはカッコいいと思う……だけど、一体だけとか可哀想だろ? 寂しいにきまってる! うじゃうじゃいっぱい連れ歩いて、みんなが兄弟みたいに仲良くて……楽しい大家族にしてやりたい! 弱くて戦えないってなら守ってやればいいだけだろ? それとも、これも規約とかで制限されなきゃいけないのか!?」
なんてのは建前です。
運営には悪いけど、俺の野望の邪魔はさせない。
俺はこのゲームの中で……
ペットに囲まれた生活をするんだい!!!
現実なら飼育場所や金銭面で悩む所だけど、ゲームの中ならそんな悩みもない!
しかも、猫や犬だけじゃなく……
現実にいる動物よりも可愛くてモフモフな生き物と毎日過ごせる可能性もありえるかも!?
ヤヴぇーっ……
マジ幸せペットライフなヨ・カ・ン。
俺には親も兄弟も恋人も友達もいない……
ならここで出会うペットこそ俺の家族みたいな存在なのかもしれない……
やっとできるかもしれないんだ……
一緒にいてくれる俺だけの家族!!
『……分かりました。大変残念ではありますが、個人の意思は尊重されるべきだと判断致します』
よっしゃっ!!
「なら早速だけど、下位種の魔獣の卵にどんなのがあるのか教えて欲しいな」
いざ俺だけの家族ゲットなう!
『……進化する可能性がある下位種の魔獣を厳選して伝心させて頂きます』
ぉおぉおーっ!?
チビ玉が点滅しはじめた途端に……
どうやってるかまったく分からないけど、頭の中に魔獣のイメージや名前や特徴が分かるようになってきたぞ!?
『複数の卵を所持するとして、適性範囲内の職業は……召喚士、魔獣操士などがふさわしいと思われます』
「それぞれ何が違うんだ?」
『召喚士の場合は「魔獣召喚契約」というスキルを使用します。魔力の中に異次元空間を生み出し、契約した魔獣をその異次元空間に取り込み、召喚獣へと変えてしまう能力があります』
「召喚獣カッコィィ」
『魔力に取り込んだ召喚獣は「魔獣召喚門」というスキルを使えばいつでも呼び出す事が可能となるわけです』
「いいねそれ」
『召喚獣は主人の魔力のみで生きる存在に変貌してしまいます。言い換えれば、自分の魔力以上の能力を持つ魔獣を魔獣召喚契約するコトはできません。召喚士は魔力の高さがとにかく重要となるわけで……あなた向きではないかもしれません』
「え!? 俺って魔力低めなの?」
『魔力が低いわけではありません。召喚士は召喚中は常に魔力が減り続けます。つまり膨大な魔力を保持しない限りは、召喚獣を連れ歩くには向いていない職業だというコトです。また、召喚獣に変貌してしまえば成長するコトもありません。召喚士自身の魔力成長により、召喚獣達も呼応して能力が上がっていくようになるわけです』
「……なるほど」
確かにコレは俺向きじゃないな。
やっぱ常に連れ歩きたい!
好きな時にモフモフしたい!
成長だってして欲しい!
出し入れ自由ってのはすげぇ魅力だけど……
「もう1つはなんだっけ?」
『魔獣操士は「捕獲」というスキルを使用して魔獣を服従魔獣とするコトができます。ただし魔獣と戦い勝利するコトが絶対条件です。相手を弱らせて、自分の力を誇示し、主従関係を認めさせなければ捕獲は通用致しません』
「いいねいいね。実力主義って奴?」
俺ってそういうポケ○ン要素かなり好きかも。
『捕獲して服従魔獣となれば「調教術」というスキルや「支配力」というスキルを使用して命令するコトが可能となります。これによりある程度のいうコトをきかせられるコトができますが、魔獣の性格や強さによっては難しくなる場合もあります』
ますます俺好みな設定。
「つまり実力さえあればどうにでもなるってことだよな?」
『魔獣操士自身の強さに比例して捕獲の成功率も上がっていき、調教術や支配力も強くなり細かな命令もきくようになると言われています』
となれば、気になるのはアレだな……
「実力があれば複数の魔獣を連れ歩いたりできるのか?」
『可能です。実際に今から行く異世界では魔獣操士は数多く存在しており、ほとんどの魔獣操士は複数の魔獣を従えております』
きたコレ。
これは決まりか――
『――ただ、それは家畜として飼育・生産されている為であり、家畜専門の職業として異世界では広く知られている為です。牛魔獣操士なら牛型魔獣を扱う事に特化し、乳や肉を生産しています。羊魔獣操士なら羊型魔獣の扱いに特化し、毛や肉を生産しています。これらの例から考えて、複数の魔獣を同時に従えるコトを成功させる為には……同種の魔獣を扱っている事。また、一種に特化するコトにより専門的知識が膨大にあるというコトが大事だと思われます』
「なんで? 実力があればいいってさっき――」
『――確かに捕獲や調教術や支配力に関しては実力があればいくらでも出来ます。ただ、戦闘が出来るレベルの服従魔獣ともなれば問題になるのは維持費です。魔獣によって食べるモノや生活習慣がまったく変わるわけですから、複数の魔獣ともなればそれぞれにあわせた知識と食費が必要となります。つまり、扱う魔獣の体調を判断できる専門的知識を必要とし、万全な状態で戦わせる為に個々の魔獣にあわせた食事の確保、怪我した場合の治療費、専門業者に特注しないと手に入らない装備費……莫大な維持費がかかることを理解して頂けますか?』
そういう事か……
家畜なら草とか食べさせればいいから複数でも維持できるわけだな。
だけど、肉食系魔獣が複数いたとして、狩りさせれば肉は手に入るわけだから難しくない気もするんだが……
「言いたい事は分かってきた……だけど、それこそ狩りさえ上手くいけば金も手に入るんだろ? 肉も手に入るだろうからなんとかなるんじゃ?」
『下位種で狩りが可能レベルの魔獣はごくわずかです。せめて中位種であれば食費は倍かかりますが狩りは可能だとか思われます』
チビ玉の激しい点滅と共に、中位種らしき魔獣のイメージがわいてくる。
確かにどれもこれも強そう……
そして、とにかくバカでかい。
2メートル超えも珍しくないみたいだな。
食費がかかりそうって事がよーく分かった。
だけど……
どいつもこいつも可愛くない!!
『やはり上位種ならば――』
「――下位種の卵でお願いします」
頑固なモンで。
『……ではどちらの職業がよろしいでしょうか?』
あっ、声が不機嫌になった。
「召喚士の時は維持費の話が出なかったみたいだけど……」
『魔獣召喚契約した召喚獣は主人の魔力で生きていくので維持費などがかかりません。魔獣操士は維持費が負担とはなりますが、服従魔獣自身は成長していくので進化する可能性があります』
ん~……
どっちも選びがたい……
正直、職業なんてなんでもいいんだよな。
大事なのは複数の可愛い魔獣と毎日モフモフライフを過ごせるコトで……
あれ?
なんか……
ひっかかるぞ?
飛竜騎士になったとしたら、ドラゴンとの関係ってどうなるんだろう?