11、ヒロインはやっぱヒロインらしい
飛び跳ねながら嬉しそうに近づいてくるパンダ。
「むぅ~。」
「ちょっとまった! タックルはなしだぞ黒雪」
「むぅ?」
俺がしゃがむと、ゆっくり寄ってくる。
本気でこられたらまた吹っ飛ばされるからね。
失敗を繰り返さない男ですよ俺は。
「よーしよーし、御剣を連れてきてくれてありがとな」
「むぅぅ」
腕にすり寄って捕まってくる。
卵二個持ってるから抱いてやれないなぁって思ってたら……
どうやら腕にしがみつくのが定位置らしい。
しがみつくってイメージはコアラなんだけど……
「御剣も助けてくれてありがとう」
「……」
あいかわらずクールビューティー。
あれ?
でもちょっとづつだけど……
近づいてきてないか!?
まさかの親密度アップ!?
「……」
「あっ、そういうことか……」
御剣が俺から卵二個を受け取ってくれる。
卵を守ってくれるってコトか。
「本当にありがとな」
「……」
……反応なし。
いつかこのクールな御剣ともイチャイチャしたい。
絶対になついてもらえるようにがんばろう。
しかし、頼もしい家族ってのはうれしいんだけど……
このユーカリナイトだけはゲームバランスが崩れるレベルでチートだよな?
賢くて、目で見えない程のスピードがあって、剣の腕前は超一流。
人切り抜○斎の剣○もビックリだよね?
逆○刀なしで殺さず精神も守っちゃってるし。
「あいつらをあえて傷つけずに追っ払ったんだよな? マジで凄いよ」
「……」
『どうせなら、多少痛めてつけてから追い返すべきでは?』
「白玉さん過激!?」
『山彦さんを傷つけて、御主人様を侮辱したんですから当然です』
「あっ! 山彦は!?」
あの襲われてたっぽい女の子と一緒なはず!?
隠れてるだけだから大丈夫だとは思うけど……
ガサガサッ
「あの……」
噂をすればなんとやら……
出てくるタイミングを見計らってたのかな?
でも本当に良かった。
女の子が無事なのはもちろんだけど……
腕に抱かれている山彦の無事な姿を見て改めて安心する。
「俺の家族を守ってくれてありがとうございます」
「キャッ! ……お願いだからなんか服を着て!」
山彦を盾に顔を隠す彼女。
「あっ……ごめん」
ついつい自分が素っ裸なコトを忘れてしまう。
羞恥心がないわけじゃないんだけど……
もう全部見られたわけだし、今更慌てて隠す方が恥ずかしいような気もする。
「えーっと……実は装備とかなくて隠すモノないんだよねぇ」
ぶっちゃけて、あいつらをジャイ○ン顔負けなギッタギタのボッコボコにする予定だったわけですが……
その後で装備を追い剥ぎしてやろうと企んでました。
まぁ、御剣先生の活躍で何もかもコマ切れですが。
「……コレ、良かったら使って……見てないからね! 私、本当に見てないからね!」
女の子から差し出される白い布。
「え? いいの? なんか高級そうな布だけど?」
絹っぽいというか……
あきらかに高級そうなんだけど?
『ホーリーマントですね。防御力、魔力、精神力に補正がかかる光神官には良い装備ですが……御主人様には宝の持ち腐れでしょう』
「だろうね。 あの、コレ……」
「いいから使って! そのままでいられる方が困るから……」
んーっ。
とりあえず、ありがたく腰タオルがわりに使わせてもらおっかな。
上半身もなんとかしたいけど贅沢は言えないか。
腰に上手く巻いて、取れないように結び目を強めに……
「……よし、原始人レベルだけどなんとか見れるかな?」
「……はい、大丈夫……ダイジョウブ。……ふぅ、ラッコちゃんは寝てるだけだと思うので――」
「――山彦」
彼女の腕からラッコを受け取る。
見る限りどこにも怪我ななさそうだ。
「きゅーぅ……きゅーぅ……」
呑気にいびきかきやがって……
どんだけ心配かけたと思ってるんだかこいつは。
「えっと、こいつのコトを守ってくれてありがとうございます」
「違うよ! その子が……山彦ちゃんだよね? 山彦ちゃんが私を助けてくれたから……こちらこそありがとう」
山彦が彼女を助けた?
ぐぅーぐぅー寝てるだけなのに?
「あいつらに凄くしつこく絡まれてて、どれだけ強く言ってもやめなくて……その、私って……言いにくいんだけど……男性恐怖症なところがあって……怖くて動けなくなっちゃって……」
「そこに山彦が通りかかったってコト?」
「それどころか間に入って庇ってくれたよ。そのパンダちゃんも私を励ましてくれて……」
「黒雪も一緒にいたのか」
こいつら……
さすがは俺の家族!
可愛いうえに勇気があって性格が良い子なんて文句なしパーフェクト!
「黒雪ちゃんもありがとうね」
「むぅ~」
まぁ、だいたいの流れは分かった。
それでいきなり一方的に攻撃されたってわけか……
「あの黒い方が盾をかまえたら山彦ちゃんが飛びかかって……一瞬でその盾を壊しちゃって……」
え?
今、飛びかかったって言った?
あれれ?
「それで怒ったあいつが山彦ちゃんを蹴ったせいで怪我しちゃって……」
つまり……
コレって山彦の自業自得!?
こいつロボット戦の時もそうだったけど……
攻撃的すぎないか?
イヤ、負けん気が強いと言えばいいのか?
……とにかく絶対に目を離さないようにしなければ。
「一応怪我は治しておいたけど……とにかく、本当に助けてもらったから感謝してる」
「いや、えっと……逆にこいつのせいでトラブルになったんじゃない? そうだったらマジでごめん!」
「ううん。分かってもらえないと思うけど……本当に怖くて……バカなコト考えちゃう位に怖くて……本当に山彦ちゃんと黒雪ちゃんには感謝の気持ちしかないから」
その怖いって気持ち……
俺もわかるよ。
修学旅行で寝込みに同級生に襲われた時も……
部活の先輩達に風呂場で抑え込まれた時も……
学校の先生が単位と引き換えに体を要求してきた時も……
あの血走った目にどれだけの恐怖を感じたコトか……
え?
改めて言うけど、俺は男!
相手も男だよ!
でもゲイじゃないからねっ!!
「良かった。こいつらが役に立てたなら俺もうれしいよ」
まぁ、あいつらが一方的に悪いわけじゃないってコトも薄々分かってしまったのが複雑な所だな。
まさかこっちから手を出して怒らせていたとは……
ちょっとだけ心の中であいつらに謝っておこう。
ごめん。
うん。
よし、これで終わり。
結局は剣だの魔法だの出してきたあいつらが最終的に悪いってコトだしな。
それに……
あいつらがしつこく彼女に絡んでいた気持ちも分かるっちゃ分かるんだよね……
だって彼女は……
めちゃくちゃ美人。
黒い長い髪を一つに束ねて、まとまった白い服がお嬢様感がイイ感じで出てるよね?
ただただナンパしたかっただけなんだろうなぁ……
「あの……」
「ん?」
「その……」
「え? 何?」
「えっと……仲良く……仲良くしてもらえないかな?」
え?
そりゃ嬉しい申し出だけど……
「確か男性恐怖症なんだよね? 俺のコトは怖くないの?」
「それが上手く説明できないけど……全然平気で……」
あはははははははっ。
コレって……
お前なんか男として見てないよ宣言!!
なんでこう俺は同性からはイヤって程にモテるのに、異性からはまったくもって相手されないんだろうか……
まぁ別に俺もこのゲームの中で女なんか求めてないし……
家族がいるもんね……
イジイジイジ……
「……まぁ、仲良くなるのは全然いいんだけど……俺、実は何の役にも立たないと思うよ?」
「……というと?」
『御主人様は装備なし、職業なし、持っているスキルは命の危険があるモノとマイナスにしか働かないモノだけでして……しいていえば魔獣である私達だけが取り柄だと言えます』
「言い過ぎです白玉先生!」
まぁ間違いなくその通りなんだけどねぇ。
「それでもいい! ……一緒にいちゃ……ダメ?」
グハッ!!
会心の一撃!!
美女に潤んだ目で言われてダメって言える?
言えるわけないよな……
「えっと……このマント返さなきゃだし、とりあえず俺の装備がそろうまでは一緒にいてもらっていいかな? その後のコトはまたその時に考えるとして――」
「――ありがとう!」
うわーっ……
コレ絶対に営業スマイルだよね?
マクド○ルドの0円サービスもコレ見習うべきだわ。
『イチャイチャもその辺にして頂いて、私の方からも話しをさせてもらってよろしいですか?』
「イチャイチャしてないから!」
出来るならしてみたいが……
もはや男として見れない宣言済みですから。
「えっと白玉ちゃんだよね? さっきは誘導してくれてありがとう。心の中に直接声が響いてくるんだね」
『伝心というスキルです。それより二つ程確認したいコトがあります』
「え? 私に?」
『一つはあなたが持つ回復スキルを御主人様に使って頂きたいのですが』
「え? 怪我してるの!?」
「あるっちゃあるような……」
リズムラッコの卵を割る時に手がボロボロ。
ハズレパンダーにタックルされて背中ボロボロ。
ロボットとぶつかってアバラがボロボロ。
うーん。
なかなかのボロボロレベルでした。
「酷い……すぐに手を出して!」
「あっ、うん」
彼女が俺の手を優しくつかむ。
「優しき光よ、このモノに癒しの手を、光癒手」
「おーっ……光ってる」
彼女の手から淡い光が出たかと思うと俺の傷まで光出した!?
しかも光った所から治っていってるのが目に見てわかる!
回復魔法すげぇな。
「背中向いて」
「はい、お願いします」
背中を向けるとそっと触れられる。
男性恐怖症って言ってたわりには普通に触ってるみたいだけど……
まぁそれ程に俺が男性として意識されてないってコトか?
……悲しいかも。
でも回復魔法って便利だなぁ。
触られる所がほんのりあったかい感じで心地よい。
ズキズキしてた痛さが引いてジンジンとあったまる感じかな?
「さっきから怪我した所に触ってるけど……血がつくよね? ごめん」
「気にしないで。こうしないと治せないから」
『光癒手は骨や筋肉にまで達した損傷を治すのに一番適したスキルといえます。処置部分に直接触れるコトが条件となっている魔法なので彼女の判断は適切です』
「そっかぁ……なんか離れた所からパパーッて治すイメージだった」
実際にほとんどのゲームだとそんな感じだよね?
『それは光癒杖のスキルですね。杖から飛ばす光で軽いレベルの損傷を治すのに適したスキルです。もちろん彼女は習得しています』
ほぉー。
回復魔法にもいろいろあるんだねぇ。
「あの……白玉ちゃんは私達のスキルとか装備を見抜く能力があるってコトだよね?」
『神眼というスキルです。その他にも分かるコトがありますよ……水美月姫さん』
「名前まで……」
かぐや姫!?
サラサラ黒髪ロングの和風美人……
はまりすぎ!?
しかもみなみって、タッ○のあさく○みなみか!?
永遠のヒロイン像。
『御主人様。水に美しい月の姫と書いて水美月姫さんです』
「南のみなみじゃないの!?」
『違います』
さりげなく心を見透かしてきた白玉先生が恐るべしだよ。
「しかしまぁ、月の姫でかぐやって……キラキラネーム?」
「気にしてるから言わないで。名前負けしてるのがイヤなんだから……」
「イヤイヤ、苗字も名前もはまりすぎでしょ!?」
「ありがと。でも、友達からは姫ちゃんってあだ名で呼ばれてるからそっちの方がありがたいかな」
姫ちゃんってのもなかなか覚悟がないと名乗れないあだ名だよね?
「OK! 俺は日向野育人。日向野は説明がメンドクサイから、育つ人って書いて育人で呼んでよ」
「……育人……くん。よろしく」
「姫ちゃんもよろしく」
『イチャイチャをまたもや中断するようで申し訳ないのですが……』
「「イチャイチャしてない」」
あっ。
そろった。
「ありがとう。手も背中も全然痛くなくなったよ」
「……もうちょっとかかりそうだからジッとしてて……」
「あ、うん」
背中越しとはいえ……
こんな美人に背中をずっとなでられてると思うと……
なんか今更ながらに照れてくるんだけど。
『……。二つ目の確認をしてよろしいですか?』
「……あっ! そうだよね。いいよ。二つ目聞きます」
俺すっかり忘れてたわ。
『先程の問題二人組にも当てはまるコトなのですが、姫さんはなぜこのような場所にいたのですか?』
確かに……
周りを見る限りは木ばっかりだし、相当な森の奥っぽいよな?
そこにプレイヤーが三人もいたら気にはなるかも……
「イベントか何かの途中とか?」
「実は……運営側から急に天の声が響いてきて」
「緊急ミッション的な?」
「多分。すぐにでも始まりの洞窟を調べてくるようにって言われて……拒否ができないイベントだって言うから仕方なく向かってたら……あいつらに絡まれちゃって……」
『あの問題二人組も同じコトが命令されていた可能性が高いと推測できますね』
「おそらくは……」
そっかぁ。
運営側の強制的イベントとかあるのかぁ……
メンドクサイ!
どっかの町に引きこもってモフモフパラダイスな日々を過ごす予定だったんだけどなぁ。
下手したら邪魔されるってコトか。
「んで、その始まりの洞窟ってのは今からでも行かなきゃいけないわけだ?」
「……一緒に行ってくれる?」
背中の手が少し震えてるのかな?
彼女の方に振り返り手を握る。
「……え?」
俺なりの精一杯の笑顔だ!
「大丈夫。俺一緒にいるから」
「……うん」
俺よりもイイ笑顔。
これなら大丈夫かな?
「よし!体も楽になったし、すぐにでもそこに向かってイベントを終わら――」
『――の必要はありません。始まりの洞窟は先程まで私達がいた場所です』
「あっ、そうなんだ」
確かに最初に転送されてきた場所だわ。
ってコトは姫ちゃんも?
「姫ちゃんもあの毒沼風呂に溺れてあの洞窟にいた感じ?」
「うん。すぐに洞窟を出たから印象には残ってないけど……仁王立ちの石像の股をくぐるのにはビビったかな?」
「あぁ……あの石像ね……」
粉々にぶっ壊しちゃったけどね。
あっ……
もしかして……
チラリと白玉を見ると大きくうなずかれる。
やっぱし。
『実は私達がその石像を破壊しました。それを調べる為の派遣だったと想定されます』
「え!? あのデッカくて強そうな奴だよ?」
「ごめん。粉々に破壊しちゃってコレだけしか残ってないんだよ」
なんとなく握り続けていた赤いビー玉を見せる。
「綺麗ー。ビー玉?」
「だと思うよね? これで大金持ちになれるんだってさ」
『ガーディアンゴーレムのコアですから』
本当にコレが売れるのって感じだけど……
白玉先生が言うなら間違いないです。
「本当に壊しちゃったんだ……なら状況を知ったからこのイベントはもう終了?」
「ってコトなのかな?」
「……でもどうやってこのコトを報告すればいいんだろ?」
「メール機能とかあるのかな?」
そういえば運営側にレポート提出とかどうやるんだ?
バーチャルリアリティー感が凄すぎて運営との連絡方法が想像つかないんだけど……
『姫さん。ココは私を信じてまかせてもらえませんか?』
「うん。白玉ちゃんにおまかせする」
『ありがとうございます』
確かに白玉先生にまかせるのが確実ですな。
『これで現在の状況はすべて把握しました。まずは御主人様の装備を整える為にも初心者の森を抜けて町に行きましょう!』
「へぇーっ、ココは初心者の森って言うんだ?」
初心者ってわりには……
絶対に迷いそうな森な気もするんだけどね。
「私でも倒せちゃうような弱いのしか出ないから安心なんだ」
「攻撃魔法でズバーッて感じ?」
『姫さんのスキル構成の中には攻撃系は入っていません』
「そうなの!?」
「……ごめん。戦うのとかって苦手で……」
『ですが、それを補うに素晴らしい回復と補助のスキルが充実しています。今の時点では御主人様の千倍以上有能であるコトは間違いありません』
「はいはいすいませんでした」
どうせ何もありませんよぉ。
「えっと……育人君は職業なしで、装備なしで、変なスキルが二つだけ?」
「おっしゃる通りですが何か?」
「ううん。ただ、よくそんな決断ができたなぁって思って」
「こいつらがいるだけで十分だろ?」
俺の自慢の家族達。
空飛ぶ真っ白なヒヨコに、二足歩行のコアラとラッコとパンダ。
まだ卵から生まれてないのが二匹いるけど……
こいつらも絶対に可愛いに決まってる!
「うん。そんな可愛い子達がいっぱいとかうらやましい」
「だろ? さてさて、じゃー行きますか?」
「……改めてよろしく」
差し出された手。
俺も手を差し出してしっかりと握り返す。
「二人と四匹と卵二個でなんとなくがんばろうか!」
「うん!」
よーし、まずは初心者の森攻略だ!!