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その飲みかけ致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果  作者: やっくん


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15話 このメモリ、消去につき

――蒼井 深守あおいみもり の視点――


 六畳間の私の部屋。


 カーテン、開けなきゃ。


 そう思いながら、伸ばした手が止まる。


 そして先日のことを想起する。


 わたしは結城さんにフラれた。


「ふふ……ふふふ……ぐふ……ぐふふ……」 


 彼は言ってくれた。


 まぁ……正直めちゃくちゃ可愛かったっす――


 可愛かったっす


 可愛かった、可愛かった、可愛かった――


 何度リピートしても飽きない。


 あのシーンは脳内に永久保存されている。


 私の一生分の栄養が、あの一言に詰まってる。


【豆知識:この世界では、男性が女の子を褒めることは稀である。男性は女性を褒めるなくても相手からのアプローチは無限にあるためだ。ちなみに男性がうっかり褒めようものなら、相手は本気で意識を始める】


 でも、後悔があるとすれば一つだけ。


 録画データがないことだ。


「……アイゼロにレコーディング機能、追加しておかなきゃ」


 わたしはモニターに向かい、パートナーであるドローン――アイゼロの改造リストを開いた。


 これで、次に結城さんになにか言われた時には一言一句録音できる。


「そうだ……マイクも高性能なものにして……それと……口の動きを言葉に変換するアプリと……」


 そうすれば、遠くからでも何を話してるかわかる。


「あと……これも……ついでにこれも……」


 気づいたら四時間が経っていた。


 でも、この子とも少しずつ距離を置かなきゃ……


 わたしはアイゼロを見つめる。


 だってわたしは、引きこもりを卒業したいから。


 結城さんのとなりで、一緒にお外を歩きたいから。


 でも、この子に頼っていたら、いつまでたっても家にこもっちゃう。


 ……でも、もう少しだけ。いいよね。


 わたしはアイゼロの電源を入れた。



 いつもの公園のベンチで、結城さんを補足した。


 斜め四十五度の上方二十メートル。サイレントモードでホバリングする。


 わたしはモニターをピンチアウトして、レンズを拡大する。


 今日も、かっこいいなぁ……


 ベンチで本を読んでいる。それだけなのに、かっこいい。


 どんな本を読んでいるんだろう……


 レンズを最大まで拡大した。


 表紙が映る。


 なになに……


「サルでも分かるトランプマジック入門……」


 マジシャンに興味があるのかな。


 タキシードとシルクハットを着た結城さんも、きっと似合いそう……


 しばらく想像していたら、彼はいつの間にか本を閉じたところだった。


 左ポケットからスマホを取り出して時間を確認している。


 まもなく彼はすくっと立ち上がった。


 どこに行くんだろう。


 気づいたら指が動いていた。


 ポチッ


 わたしは自動追尾のボタンを押した。



 ……あ



 やってしまった。



 ずっと自分に言い聞かせていたのに。



 それをしてしまったら、ストーカーや変質者と何ら変わりないから。



 迷いなく歩き始める彼の足取りからして、結城さんは多分……自宅に戻ろうとしているんだと思う。


【豆知識:この世界でのストーカー行為は、8割から9割の女性が加害者となっている。その大半は、つきまとい、無断行動の監視や位置情報取得になる。ちなみに今の深守はすべてに該当している】


 葛藤した。


 今すぐに、この解除ボタンを押して引き返すべきだ。


 押そう……今押そう。


 気持ちに反してなかなか指が動いてくれない。


 モニターに視線を戻すと、彼は街通りを抜けているところだった。


 いつ押すの。今押すんだ。今押す。


 彼は少し外れた住宅街へ入っていく。


 それでも、指は動かない。


(結城さんが、どんな家に住んでて……何階の……何号室の……どんな部屋で……どんなベッドで……どんな枕で……どっちに頭を向けて寝てるのかなんて……わたしは……わたしは、興味が、ないないないない……)


 ぶんぶん


 頭の中の妄想を、かき消していく。


 よし……覚悟は決まった……


 目を閉じる。


「やぁーっ!」


 ポチッ――


 自分の中の欲望に打ち勝ち、追尾モードの解除ボタンを押すことに成功した。


「やった……結城さんのプライベートは……きちんと守った」


 でも――


 すでに彼の足は止まっていた。 


 マンションのゲートの前で。


 あぁ、少し古いタイプのマンションに住んでるんだ。


 なんか結城さんっぽいな……。


 気づいたら、視線がモニターに釘付けになっていた。


(って、そうじゃない!今すぐアイゼロを戻さなきゃ!)


 そう思っていると、結城さんがエントランスのゲート解除のための番号を入力し始めた。


 それだけは見てはいけない。人として。


 両手で目元を覆い、ぎゅっと目をつむった。


 数秒後、そっと目を開ける。


「ふぅ……見なくてすんだ……」


 結城さん、ごめんなさい。もうこれ以上はプライベートに踏み込まないから……


 レバーを操作して引き返そうとした。


 その時だった――


 吹き抜けの階段を上がっている彼を、ドローンの視界でとらえてしまった。


 二階まで登る彼。


(あぁ……二階に住んでるんだ……二階っていいよね、一階より安全だし、外に洗濯だって干せるし、エレベーターこなくても階段使えるし……)


 そこから少し歩いて、二番目の扉の前で止まった。


 端から二番目……つまりわたしの推理では……202号室、かな。


 すぐに我に返る。


(……202号室かな、じゃないよ!)


 彼の大事な個人情報は、今すぐ脳内記憶から消さないといけない。


(きえろきえろきえろきえろきえろ…………よし消えた!!)


 わたしは彼のマンションの場所と部屋番号を頭の中から消したあと、引き返そうとドローンを操作する。


 ちょうど彼のマンションの反対側にドローンを移動させたその瞬間――


 何かが、視界の端に映った。


 あれって……


 位置的には彼の隣部屋だと思う。


 そのマンションのベランダに目つきの悪い銀髪の女性が一人。

 

 その女性は慣れた手つきで柵に手をかけ、ひょいと足を持ち上げて隣のベランダへと渡ろうとしていた。



 結城さんの部屋のベランダに――


【後書き】

深守:「記憶よ、きえろきえろきえろきえろきえろ…………よし消えた!」

作者:消えるか!∠( ゜д゜)/

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