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プロローグ

鏡高学園の図書室は、放課後の穏やかな西日に包まれていた。


本校では、日常の片隅に小さな怪異が顔を出すことが珍しくない。都市伝説研究会は、そうしたものを観測し、記録し、できる範囲で対処してきた。被害は小さくても、五人で動いてきた。

「学園七不思議」だけは別だった。噂に名前がちらつくばかりで、根拠のある一覧が一向に見つからない。図書委員長の南明日香は、暇さえあれば古い史料をめくり、手がかりを探していた。


その日も、古い資料棚の奥から、明らかに手触りの違う一枚のメモを引き抜いた。表には、震えるような筆致で、題だけが記されている。


〈 学 園 七 不 思 議 〉


(これは…、探していたものかもしれない)

明日香の胸の奥が、怖さより先に喜びで小さく跳ね、脳内に好奇心の火が灯る。裏面を返すと、じわりと血が滲むように文字が浮かび上がった。


『 壱 屋上に 』


その文字が目に飛び込んだ瞬間、明日香は息を呑み、次の瞬間には走っていた。整理用ワゴンがガタンと棚にぶつかる音だけを置き去りにして、図書室の扉を押し開ける。


「みんな! どこ!? ……部室、部室だよね!」


廊下の窓を流れる夕焼けが、走るたびに帯になって揺れる。

角を曲がり、手すりを掴んで体を投げ、階段を二段飛ばしで駆け下りる。

上履きが床を叩く乾いた音が、旧校舎の奥まで跳ねていった。


「みんな、見て! 図書室でこんなの見つけちゃった!」


勢いのまま部室の扉を引き開ける。室内の空気が、ぴたりと止まった。


弓を手入れしていた安齋東貴が顔を上げ、溜息をついた。

「……また明日香の暴走か。少しは落ち着けよ」

細めた目が、明日香の手元のメモに留まる。


「違うよ東貴、これ、雰囲気が全然違うんだって!」

「……ふーん。まあ、明日香がそこまで言うなら、解析してみる価値はあるかもしれないね」

西岡真木が、興味深そうにメモを指先で弾いた。


「えぇーっ、行くのかよ!? 俺、今日は嫌な予感がするんだって!」

北野豪が情けない声を上げて壁際まで後ずさる。しかし、そんな彼の襟首を、真木が無表情のままガッチリと掴んだ。


「……豪。行くよ。反応が消える」

「ひっ、ちょ、待っ、ネクタイ! ネクタイ締まる!」

豪はネクタイを引かれて前のめりになり、つま先でたたらを踏みながら両手をばたつかせた。

「で、でも俺、逃げたいわけじゃなくて! その! 先に危険を確認してから行くのが護衛の仕事っていうか!」

「つまり、行くんだね」

「行きます! 真木さんが行くなら俺も行きます! いちばん近くで守ります!」


「……行きましょうか」

水城レナが、静かに、けれど拒絶を許さないトーンで言った。


明日香はメモを胸に握り、先頭で廊下へ飛び出す。

その後ろを、東貴、真木、襟首を掴まれた豪、そしてレナが続いた。


旧校舎の階段を駆け上がる足音が、手すりのきしみに混ざって、夕闇の中へ吸い込まれていく。

最上段を上がった先に、屋上へ続く鉄扉が、湿った風の匂いとともに、黒く横たわっていた。


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