決起のとき
学校の近くにある夕暮れの公園のベンチに座り込む。
部活帰りの生徒たちを眺めて、これからどうするべきかを考えていた。
ここまでゲームの本筋と違うと、もう詰んでいるんじゃないか?
そもそも、あの田中の説明は朝にしてほしかったものだ。
現実の恋愛経験が駆け出し冒険者レベルの俺に何をさせようとしているんだ?
「何をしているの?」
俯いて考えていたせいか、目の前に梓が立っていることに気づかなかった。
「世の中の不条理さを憂いただけだよ」
「ははは、馬鹿みたい」
こいつって、こんな酷いこと言う奴だっけ?
「何か悩んでいるの?」
心配そうに俺を見てくる。
前言撤回、とても良い奴だと思う。
しかし、悩み…か。
「悩みというか、これは迷いだな」
「何が違うの?」
「悩みは答えがない状態で解決方法が見当たらないことで、迷いは解決方法はあっても複数あるからどれにするか考えている状態じゃないか?」
「へえ…和彦って、そんな難しいことをちゃんと考えられるんだね」
「お前、さっきから俺のことをバカだと思っているだろう?」
「ははは、バレた?」
梓は可愛い笑顔で小さく舌を出して戯けて見せる。
「それにしても、そんな暗い表情になっちゃうほどショックなことでもあったの?」
「星音が一緒に帰ってくれなかったんだ」
「え、和彦って星音のこと……」
「違うわ!」
言い方が失敗した。
「一緒に帰って話そうと思っていたことが、話せなくて面倒だなって思っていただけだよ」
「ははは、明日話せばいいじゃない」
「それはそうだけど……」
説明が難しい。
ゲームのルートと違う展開に戸惑っているとは言えない。
「でも、星音と和彦ならお似合いじゃない?」
「そうか?」
あの美人幼馴染とお似合いと言われて悪い気はしない。
「和彦って星音と子供の頃から一緒だから色々知ってるじゃない?」
「ああ」
「自分のことを理解してくれている相手に、星音は惹かれると思うんだ」
気兼ねのない相手ってことだろう。
しかし、残念ながら俺と彼女の付き合いはまだ二十四時間も経過していない。
「しかし、そんなに何でも知っているわけじゃないさ」
「それでも自分のことを理解してくれている相手って、一緒にいて居心地いいものじゃない?」
「確かに……友達でも、そうだな」
「でしょ?」
納得する俺に梓がドヤ顔を見せる。
「話は戻るけど、迷いって恋愛?」
「じ、人生?」
「一番難しいやつだね」
「そうだな」
生きるか死ぬかの条件を突きつけられている人生ですけど。
「でも、迷っているだけならいいじゃない」
「どういうことだよ?」
「解決方法があるなら、あとは選ぶだけなんでしょ?」
「選ぶ…だけ」
そうだ。
迷っている場合じゃない。
俺は元の世界に未練があるわけじゃないが、死にたくない。
それに、あの田中とかいうモブキャラのナメた態度が気に食わない。
俺はこのゲームをマスターしたプレイヤーだ。
攻略できないヒロインはいないというくらい、やり込んでいる。
さっき、梓も言っていたじゃないか。
ヒロインたちのことを俺は誰よりも理解している。
理解しているということは、たとえゲームと違う展開であっても彼女たちの恋人になれるかもしれないからな。
「決まった?」
「梓、ありがとう」
立ち上がり、俺は宣言する。
「俺は、彼女を作るぞ!」




