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フラグがたたない!  作者: カンザキ
ラブ・ゲームは突然に。
4/27

ゲームの中を異世界転移で生き残れ

 昼休み、俺が神宮寺を怒らせたことがクラスで話題になっていた。

 本庄と二人で食事をしていたが、

「何やっているんだよ!? 相手は氷の女帝と言われた副会長だぞ!」

 と、食事中に本庄にも謝罪するように促されたが、ここで折れる理由がなかった。

「俺は別に悪いことはしていないし、ぶつかったことは謝罪した」

 そう反応をすると、本庄に「怖いもの知らずだな」と呆れられる。

 結局、あの後は俺も逃げるように教室に戻ってしまったせいで、今日提出しないといけないはずのプリントを持って帰ってきてしまった。

 あとで、また職員室に行かないといけない。

「なぁ、本庄」

「何だ?」

「ゲームの中に異世界転生したら、どうする?」

「何の話だ?」

 急な俺の話題に本庄は目を丸くする。

「乙女ゲーの中に転生するとか、そういうラノベやアニメの話か?」

 当然、そういう反応になるよな。

 俺も未だ理解できていない。

「例えば、ギャルゲの世界に入ってヒロインと恋愛できるってなったら、お前ならどうする?」

「どうするって…それって、どういうゲームかによるけど」

「現代の俺らが生きているような世界で、よくある幼馴染や生徒会副会長、後輩や先輩とかと恋愛できる世界に転生したらって……」

「和彦、現実と二次元の区別はつけた方がいいぞ」

「知っているよ」

 本庄は少し馬鹿にしながらも、手に持っていた焼きそばパンを口に入れながら考える。

「ん〜そうだな……そんな魅力的な相手と恋愛できる機会があるなら、是非とも全員を攻略したいって思うだろうな」

「……」

「和彦?」

「いや…そうだよな、男ならハーレムだよな」

「そこまでは言っていない」

 当たり前のように話す本庄の言葉に停止してしまっていた。

 この世界に来て、キャラの魅力に感動していたが、俺は誰かと恋愛することを想像もしていなかった。

 この世界でなら、大好きなキャラと恋愛できるのか。

「そんな野望を抱くなら、副会長には謝った方がいいんじゃないか?」

「うるさいな、もういいんだよ」

 ほんの少し、子供相手に大人気なかったとは思うが、今は俺も高校生なのでノーカンにしよう。

「笹倉くん」

 ちょうど、俺がパンを食べ終えたところでクラスメイトの女子が声をかけてくる。

 ゲームの中では登場しなかったクラスメイトで、名前がわからない。

「ど、どうした?」

涼風(すずか)先生が呼んでいたよ」

 涼風先生とは俺らの担任で、攻略対象ではないが主人公をサポートしてくれるので物語にも頻繁に登場する女性キャラクターだ。 神宮寺と同じクールな性格ではあるが大人びていて落ち着いていることと、容姿も大人の女性を体現していてファンも多い。

 朝のホームルームで姿を見たが、モデル顔負けのスタイルと容姿で「クラスの男子生徒を全員恋に落とす気か!?」と思わされた。

「屋上に来てほしいって」

「屋上?」

 屋上に呼び出されるイベントなんかなかった気がするけど。

 俺はクラスメイトにお礼を言って、そのまま屋上に向かう。

 屋上に近づくにつれて不自然に人が少なくなっていった。

 まるで屋上に俺以外は近づけないようにしているようにも感じられた。

 そして、薄暗い部屋から屋上に出るドアを開くと、そこに涼風先生の姿はなかった。

 しかし、そこには男子生徒が一名立っていた。

「こんにちは、笹倉くん」

 と彼が笑顔になり、また名前のないモブキャラが登場したのかと思ったが、すぐに彼が訂正する。

「違った、新井和彦くんだったね」

 俺は涼風先生を探すのをやめる。

 俺の本名を知っている相手ということは、この世界に来た理由に関係する人間ということになる。

「お前は誰だ?」

「ごめんなさい、申し遅れました。 私は田中と言います」

 不気味な笑顔で田中は深くお辞儀をする。

「田中?」

「名前なんてどうでもいいんじゃないですか? あなたは現状を…何故ゲームの世界に来てしまったかを知りたいんじゃないですか?」

「話が早くて助かるよ」

「ここはご存知の通り、ゲーム『ディアレスト・メモリー』の世界です。しかし、ただのゲームの世界ではなく、キャラクターが実際に生きて生活しているリアルな世界でもあります」

 ゲームの世界なのに生きているという言葉が気になった。

「ゲームの中…じゃないのか?」

「ゲームに似せて私が作った世界と言えばいいかもしれません…だから、ゲームオーバーもセーブポイントもありません」

「それって…」

「現実世界と一緒だと思いませんか?」

 俺の内心を見透かされたように先に言語化される。

「そうです…ここは現実の『ディアレスト・メモリー』の世界なのです」

「ははは…」

 頭がついていかない。

「理屈は理解できなくてもいいのです。 ただ、あなたはこの世界で、私の与えるミッションをクリアしていただかないと一生出られないってことです」

「な、なんだよ…それ」

 目の前の田中の説明を理解することができない。

 正体不明の男が現れて、急に意味のわからない世界に放り込まれて、自分が与える試練を乗り越えろと言い出した。

「なんで、そんなことを俺がしないといけないんだ?」

 そうだ。

 何で俺がこんな目にあわないといけないんだ。

「ははは、あなたはSNSで言っていたじゃないですか…」

「え?」

「『俺はこのゲームを制作者よりも理解している』、『俺にクリアできないヒロインはいない』、『全員、俺の恋人にしてやる』って…」

 確かに、夜のテンションとアルコールの力でSNSで調子乗ってアホなことを呟いてしまった気がする。

 匿名のアカウントなのに…俺の個人情報はどうなっているんだ?

「それがどうしたんだ?」

 俺の反応に田中はニヤニヤし続ける。

「だから、あなたにはゲームのリアルワールドに入っていただいて、ヒロインを攻略していただこうと思いまして」

「はぁ!!!?」

「この世界で本当に恋をして彼女を作っていただきます……あ、もちろん、本当の恋人になっていただくことがクリア条件になります」

「ど、どういうことだ?」

「偉そうなことはネット上で匿名でしか言えないのですか?」

「質問に質問で返すなよ…」

 徐々に田中は不機嫌な表情になっていく。

「本当に恋をしてもいないあなたが作業的に、我が物顔で彼女たちに愛を囁くことに反吐が出ただけですよ」

 確かに、調子に乗っていた面もある。

 クリアの攻略サイトを運営するためにルートを作業的に進めたこともある。

 しかし、それでなぜこんな目に遭わないといけないんだ。

「た、たかがゲームじゃないか…」

「たかが……ははは、あなたはその『たかがゲーム』の世界で生きていかないといけないんですよ」

「ふざけるな!今すぐ出せ!」

 我慢の限界だ。

「これはミッションですよ…だから、あなたはクリアしないと出られないんです」

 神経を逆撫でするようにバカにしたように笑い、「理解できませんでした?」と続けた。

「だからって…」

 愕然として言葉が出ない。

 もう何を言っても無駄な気がした。

「ミッションの内容を説明しますね」

 田中は急に上機嫌になって話し出す。

「まずはヒロイン…ゲームのキャラクターと恋をして、恋人関係になることがクリア条件なのは言いましたね。 これは偽物の恋人や両片思いのようなものではなく、恋人関係になり付き合っている状態であることが必須になります。 ゲームの登場人物に限定しますので、どのヒロインかは限定されません」

 まるでゲーム最初のチュートリアルの説明のように淡々と条件の詳細を話していく。

「期限は高校二年生になるまで…」

「期限があるのかよ…」

「はい、期限を過ぎれば…あなたは死にます」

「へ?」

 今、死ぬって聞こえたような気がする。

 目の前のモブキャラが満面の笑みで出したキーワードに体が硬直する。

「あ、さっき、この世界にゲームオーバーはないと言いましたが、訂正させてください。 今回のあなたのミッションにおいてのみ、ゲームオーバーが存在します」

「ちょっと待て! 出られないとかじゃないのか?」

 慌てる俺を見て、再び嫌悪の表情になり深いため息を吐く。

「はぁ…それじゃクリアできなくても、この世界で生きればいいかってなっちゃいませんか?」

「それは…そうだな」

 自分に戻れないのは嫌だが、馬車馬のように働いて過ごす日々より学生生活を再度過ごせるっていうのも受け入れられるかも…と思っていたのに。

「だから、これは恋愛デスゲームなのですよ」

 恋人を作らないと死ぬってことか。

 分かりやすいけど、なぜ俺がこんなことになっているのか誰か説明してくれ。

 恋愛偏差値最弱の童貞の俺に恋人を作れとか…どれだけ無理ゲー、クソゲーなんだよ!

 しかし、もう受け入れるしかないと、目の前のモブキャラは無言で伝えてくる。

「細かい条件は後でスマホに送っておきますね」

「見返せるように、ってか? ご丁寧だな」

「ははは、私は公平にあなたがクリアできるかを見たいだけですよ」

 嘘をつけ。

 さっき、完全に俺にムカついたから、この世界に閉じ込めたって自白したようなものだろう。

 こいつが何者なのか見当もつかない。

「あ、この世界には元の世界にいた人間は、あなたを含めて二人だけですので」

 こいつと俺以外、全員がゲームの中のキャラクターってことか…同じように、この世界に来ている仲間はいないってことを伝えたかったのだろう。

「クリアできそうですか?」

「うるせえ…俺を誰だと思っているんだ?」

「そうでしたね…クリアできないヒロインはいないのでしたっけ?」

 皮肉たっぷりの言葉を遮るように、俺はドアを強く閉めて屋上を後にした。

 空腹を満たすこともできずに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、ハミングする俺の腹の虫が生きているってことを実感させてくれた。


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