出会いが思い通りにならない!
「まさか、私を見て倒れるとは思わなかったわ」
「すまん…」
学校の教室まで来て、俺は自分の席で笹倉亜美を除いた三人に囲まれている。
「そんなに私の顔が怖かったってこと?」
卒倒しそうになったことで、春日部星音は可愛く頬を膨らませている。
彼女は俺の理想のヒロインであり、このゲームのメインヒロイン。
主人公を含めた本庄や梓と幼馴染で、主人公の家の隣に住んでいる。
女子バスケ部員でスポーツ万能、容姿端麗、学力も学年上位、学校で大人気という完璧美少女だ。
梓も綺麗でスタイルがいいが、星音は別格だと思う。
少し天然だが優しくて幼馴染だからこそのバグっている距離感とか、社会の荒波で疲れ切った俺の心を何度も癒してくれた。
「今日、変だぞ」
本庄が心配そうにする。
こいつ、顔だけじゃなくて性格もいいんだった。
「何かあったの?」
「いや、今日は体調が少し悪いだけだ」
梓の心配する言葉に笑って返す。
「星音も、ごめん」
「いいけど……本当に体調が悪かったら保健室で横になったら?」
「いや、大丈夫だ」
状況を把握するまで、迂闊な行動はしないほうがいい。
この世界に来た理由があるはずだ。
異世界転生やゲームの世界に入ってしまうラノベとかだと、死んでしまっているケースが多いが、転生するのであれば生まれたときだし、大人の場合だったら女神様とかが状況を説明してくれるはずだ。
夢にしてはリアルすぎるし、目覚める気配もない。
◇
その後、授業が始まっても、周囲は日常の時間が流れているように変化も見えなかった。
休み時間を利用して、俺は学校の中を散策してみることにした。
ゲームでは放課後しか自由に動けないのだが、ここはリアルな生活ができるだけあって休み時間も学校の中を歩き回れる。
休み時間のたびに少しずつ見て回ったが、細部までゲーム内の学校と同じ構造だ。
スマホの日付を見ると、この日はゲームのスタート時の日付ということが分かった。
三限が終わった後の休み時間に俺は、ある場所に向かう。
これがゲーム開始の日付だったら…たしか、この後にイベントが発生するはずだ。
そこは、職員室に向かう階段だ。
主人公はプリントを持って職員室に向かう途中に、ある人物に出会う。
教室を出て廊下をゆっくり歩き、階段を勢いよく下りていく…俺はゲームの中ではオートで展開される移動と同じように動いてみる。
そして、この後…。
ドン!!
目の前に衝撃が走る。
「きゃっ!」
誰かとぶつかって俺は倒れそうになる。
しかし、ぶつかった相手は派手にこけてしまって、持っていたプリントが階段の踊り場に広がってしまう。
「ごめんなさい」
ぶつかった相手に反射的に言葉を投げる。
「………」
その相手はゲームでも同じようにぶつかってイベントが発生する推しヒロイン二号「神宮寺 奏慧」だった。
彼女は腰のあたりを摩りながら、立ちあがろうとする。
「……」
「すいません、急いでいて」
無口なのは彼女のキャラクターだが、全然話さないぞ。
もしかして、怒っているのか?
「いや、どうしても職員室に行かないといけなくて…ははは」
しまった、ゲームと違うセリフを言ってしまった。
「はぁ…」
大きくため息を吐かれる。
「階段で人とぶつかったら危ない……」
ゲームと同じセリフが出てホッとする。
その会話に感動してしまう。
彼女は星音とは別のタイプの美人で、何よりも生徒会副会長でシゴデキ・お姉さん・クール黒髪という俺の好みの三大要素を具現化したような存在だ。
リアルで動いているのを見るだけで、好きにならないわけないだろう!と叫び出したい気持ちを押し殺す。
ボブカットの綺麗な髪を横に流すと、彼女は俺を見つめてくる。
あわわわわわわ…緊張でまた意識飛びそう!
「聞いてる?」
「あ、え…すいません」
しまった、ここは初対面の彼女とお近づきになって、彼女と話す機会が増える大事なイベントだった。
ここではあえて彼女に突っかかるのが攻略としては正しかったはずだ。
「でも、先輩も前をちゃんと見てなかったんじゃないですか?」
「え?」
「先輩が前を見ずに歩いていたのを、俺も見てましたよ」
もちろん見ていなかった。
しかし、ゲームではこのセリフを言うことで、彼女は俺のことをちゃんと意見を言える後輩だと認識する。
こうやって、相手にも非があることをしっかり言うことで、真面目で冷徹だと皆から怖がられている彼女の性格からすると新鮮だということらしい。
「え? 本当に? 階段を下りながら、私が何をしていたかを見ていたの?」
「ええ…」
「それでぶつかったと?」
「え、ええ…」
あれ、こんなやりとりあったかな?
「それじゃあ、あなたは私が前を向かずに歩いていたところに避けずに突進してきたと?」
「え?」
「冷静に私の行動を判断できるくらいの余裕があったのに、あなたは私にぶつかってきた…そういうことでしょ?」
「それは…」
確かに、ぶつかるのが分かっていて避けなかった。
でも、それはゲームでも彼女が視界に入ったときに、彼女が余所見していたのは認識できた。
「あなた、学年とクラスは?」
「一年C組です」
「名前は?」
「さ、笹倉…和彦です」
予期せぬ展開からの質問に緊張する。
ゲームとは全く違うリアクションだぞ!?
「はぁ…」
また、深いため息をつく。
何か俺、キレられてる?
これはマズい。
「ちょっと待ってください!俺はわざとじゃ…」
言い訳をするなと目で語るように、彼女は鋭い眼光で俺の言葉を遮る
「わざとじゃないの?」
「は、はい…」
「はぁ…」
彼女はまた深くため息をつく。
「ははははは」
無理やり作った笑顔で誤魔化そうとする。
意思の疎通が取れない。
「もういいわよ」
「え?」
「あなたが悪くないって言うなら、悪くないんでしょう?」
「え、ええ」
彼女はコミュニケーションを諦めたようなセリフを口にしては、冷たい瞳で辛そうな顔をする。
「せ、先輩?」
「ごめんなさい、私は急いでいるの」
これは彼女を怒らせてしまっているみたいだ。
「は、話を…」
俺が彼女を引き止めようと腕を掴んでしまうと、周囲から声が聞こえてくる。
「あの一年生、副会長を怒らせたみたいだぞ」
「神宮寺さんに何をしたの?」
「わざと、ぶつかったみたいだぞ」
これは、本当にダメだ。
このままでは先輩に故意にぶつかって怒らせた、危険な一年生と噂されかねない。
「はぁ…もう行くわね」
「え、ええ」
これ以上、何かを言って現状を悪化させないように、今は彼女との会話を終わらせることにした。
「本当に、すいませんでした」
俺が最後まで言い終える前に彼女は背を向けて歩いて行ってしまった。
「……」
謝っていても、全然反応しないというのは、クールと言うよりコミュ障じゃないのか?
その後ろ姿を見送って、ゲームの中のキャラは現実では思っている以上に面倒な性格なのではないかと思ってしまう。
推しキャラだが、ここまで印象悪くなってしまったなら、なるべく関わらない方がいいだろう。
そして、俺はこの行動をすぐに悔やむことになる。




