エピローグはあっさりと
教室に戻ると、誰もいないと思っていた部屋に梓が座っていた。
「どうしたんだ?」
「和彦を待っていたんだ」
なかなか戻らなかったので心配してくれていたのだろうか。
しかし、あんなことがあった後なのに、一人になって梓のが不安だっただろう。
「屋上で考えごとをしていただけだよ」
俺は近づいて、前の席に座る。
「ありがとう」
「何が?」
「今日、デートだったんでしょう?」
「う…」
そういえば、梓は今日のデートのことを知っていたんだった。
「でも何で、星音とデートに行かなかったの?」
「それは…」
梓が心配だったから。
簡単な答えなのに、不思議と口にできなかった。
あの時の最優先事項は星音とデートをして、軌道修正をすることだったはずだ。
そうしないと俺がバッドエンドになってしまう。
じゃあ、どうして梓を助けに行ったんだ?
梓が友だちだから?
きっと、違う…。
「星音のことが好きなんだよね?」
彼女の真剣な眼差しに釘付けになる。
その瞳に嘘をつくことも誤魔化すこともするべきではないと感じさせる。
「分からない」
星音のことが好きかと言われると、きっとこれは恋ではない。
でも恋人になりたいとは思っている。
「恋が何か…誰かを好きになるってことが何かを分かってないんだ」
「そうなんだ」
何故か少し微笑みを見せながら、梓は目を逸らす。
しかし、俺は彼女から目を逸らせなかった。
梓が森下たちに連れて行かれたときに、俺はきっとこう思ったんだ。
梓が傷ついてほしくない。
ゲームのサブキャラクターで攻略対象のヒロインでもないのに、俺は自分の最優先事項よりも彼女に笑っていてほしいと願ってしまった。
この感情は何なんだろう…。
「ねえ、和彦…」
気づけば俺の右手の近くに彼女の左手があった。
どちらかが近づけたのだろうか。
まるで無意識に引力で引き合うように近づいていた気がした。
「な、何だ?」
見つめ合いながら、指が近づいていっているように感じる。
瞳に吸い込まれるようにして、彼女と見つめ合う。
鼓動が速くなる。
無言の時間が長く感じる。
数秒が何十倍にも感じるほど、彼女の言葉に緊張している。
「私…」
ガラッ。
俺らの間の時間の流れを元に戻すように教室のドアが開く。
「おい、そろそろ帰れよ」
涼風先生が顔だけ出して、声をかけてくる。
俺らは顔を見合わせて、今までの不思議な時間を笑って誤魔化す。
このパターン、前もあったような。
しかし、何だったんだ、今の…。
「早く、出ろよ」
「はいはい」
俺らは先生に促されるまま、鞄を持って立ち上がる。
「なあ、笹倉」
教室に出ていこうとすると呼び止められる。
「はい?」
「もう悩みは解決したか?」
「どうでしょう…」
俺は振り返り、先生に一言。
「でも、まだ始まったばかりですから」
不条理で思ったとおりにいかないことばかりで、毎日が予想外の連続でクリアできるかも分からないけど、この世界はまだ続いていく。
そして、このゲームも続いていく。
タイムリミットまで、あと342日。




