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フラグがたたない!  作者: カンザキ
見栄王の革命
24/27

本当の幼馴染の「彼」

 翌日、俺は夜食を買いに買い物に家を出た。

 家の近所にコンビニがある。

 ゲームでは基本的に夜遅くの時間帯は描写がない。

 そのため、夕飯後の時間は何も起こらないと高を括っていた。

 でも家の近所であるからこそ、知り合いに会う確率は0ではないと思っていた。

 梓や本庄なら何気ない会話をできるので安心だった。

 まさか、星音と遭遇するとは思わなかった。

 しかも、ジャージに丸メガネのダサいファッションのままで…。

「ほ、星音?」

「あんたか…」

 驚いたのは、この格好で外に出ていることだ。

 彼女にとって、この姿を見られることはリスクでしかないのに。

「星音…」

「何よ」

「その格好…」

「ん? ああ、そうね…あんたにしたら、この格好で出る理由なんて分からないって話でしょう?」

「あ、ああ」

「ここに来るのって、本庄と梓くらいでしょう?」

「そうだな」

 学校から一定距離もあり、少し不便な場所にもあるせいで、このコンビニに来る人間は限られている。

 高校生といえば俺ら四人くらいで、その親族以外の若者は来る用事がない。

「だからって、不用心じゃないか?」

「…いいかなって思っているのよ」

「え?」

 小声で彼女が何かを呟いたが、聞き取れなかった。

「もう隠さなくてもいいかなって思っているのよ」

「へ?」

「というか、梓には素で…素の自分のままで話したいと思っているの」

 よほど恥ずかしいのか、彼女の顔は真っ赤だ。

 でも、どういう心境の変化だろうか。

「な、何かあったのか?」

「あんたのせいなのよ」

「は? 俺のせい?」

「そ、そうよ…」

 耳まで真っ赤にして必死に俺のせいにしてくるのは言いがかりだとして、彼女なりに何か心境の変化があったのかもしれない。

 彼女なりに梓たちとの距離を詰めようと考えているのかもしれない。

 そう考えると、ゲームでは知らなかった新たな一面を知ることができたと思える。

「何、笑っているの?」

 無意識で頬が緩んでしまったみたいだ。

「キモいわね…」

 その俺の様子を見て、彼女は罵ってくる。

 しかし、ゲームの中なのに彼女たちは成長していく。

 それだけで頬が緩まないわけがない。

「星音も素直になったな、と思っただけだよ」

「キモい」

「二度も言わなくていいんじゃないか?」

「ずっとニヤニヤしているからじゃない」

 星音はそう言って、目の前の棚から菓子を手に取ってレジに歩いて行ってしまった。

 俺も後を追うように自分が欲しかったものをレジに運ぶと、先に歩いて行ってしまった星音を追いかける。

 静かな住宅街に二人の足音だけが響く。

「何でついてくるの?」

「夜道は危ないだろう?」

「あんたが一番危ない気がするけど…」

 どれだけ信用ないんだよ。

 少し歩くと、機械音のような音が聞こえた気がして振り返る。

 しかし、誰もいなかったので、気のせいだろう。

 薄暗いと少し不安になってしまうものだ。

「どうしたの?」

「え、誰かいたのかなって…」

「え、え、ちょ…冗談はやめてよ」

 怯えている彼女は先ほどまでの態度が虚勢だとバレることも気にせずに、俺の手を掴んでくる。

 嬉しくもあるけど、怯えさせてしまったことに申し訳なく思う。

「きっと気のせいだと思う」

「そういう冗談はやめよね」

「ははは、ごめん」

 そこから、彼女は俺に近い距離で歩きながら黙っている。

 何か話すわけでもなく、無言でゆっくり帰路を歩いた。

 何故だろう。

 こうやって誰かと夜道を歩いているだけなのに、心が穏やかな気持ちになる。

 一人でコンビニ往復なんて、一人暮らしなら当たり前の行動だから新鮮と感じているのかもしれない。

「ねぇ…」

 静寂を破るように、彼女から話しかけてくる。

「あんた、最近雰囲気全然違うわよね」

「お、俺?」

「うん、今月の最初くらい……あんたに素の私を知られた日くらいから、態度が落ち着いているというか、横柄になったというか…」

 俺が主人公として、この世界に来た日のことを話しているのだろう。

 以前はゲームの設定通りの主人公が彼女と一緒に過ごしているので、急に人格が変わったように感じたのだろう。

 俺とは違って、優しいが優柔不断で弱気な部分が強いけど、やるときはやる性格だったはずだ。

 その違和感は、幼馴染なら気づいてしまうだろう。

「そっちのほうがいいと思うわ」

「え?」

「今のあんたのが、昔より話しやすいって意味よ」

「……」

 少し照れながら話す彼女を見て、嬉しくもあり複雑でもあった。

 今、俺はどんな表情をしているのだろう。

 その表情を見せるべき相手は別にいるんじゃないのか。

 君の前にいるのは、本当の幼馴染の彼ではないのだから。


 ◇


 家に帰って、買ったスナック菓子を口に放り込みながらボーッと考える。

 恋人を作らないと俺は死んでしまう。

 でも、星音が見ているのは、本当の俺なのだろうか。

 俺はこのゲームが好きだ。

 それは主人公とヒロインたちとの関係性や、やりとり一つ一つが好きだとも言える。

 だからこそ、本当の主人公とは別人の俺が彼女と恋をするべきなのだろうか。

 まだ恋をするってことすら分からないのに、俺は彼女たちとどう向き合うべきなのだろう。

 俺が俺として向き合うべきじゃないのか。

 しかし、きっと軌道修正をして、ゲームの主人公として接することができればハッピーエンドに向かうことができる。

 ただ、それは本当に俺の恋なのか?

 考えていても仕方ない。

 ゲームをクリアしないと死んでしまうんだ。

「悩んでいても、やることは変わらないんだよな…」

 自分に言い聞かせる。


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