目覚めると、そこは…。
何で恋をするのか、何で人を好きになるのか考えたことはなかった。
それは「一緒にいたい」とか、「手を繋ぎたい」とか「触れていたい」といった、自分と相手の距離を縮めたいという想いを抱くことが多い。
そして、それは時に身近な人間でないこともある。
アイドルや芸能人や声優だったり、ゲームやアニメの中のキャラクターだったり、動物など人の形をしていないケースもある。
でも時に、人は想いとは別の感情を抱く。
自分を犠牲にしても、相手には幸せになってほしい。
相手を想うことで、本当は一緒にいたいのに、一緒にいられない選択をする矛盾。
その感情は恋とは違うのだろうか。
これは、そんな物語。
ピピピピピピピピピピピピッ。
高い音が鳴り響き、目覚めを促される。
「ふぁ〜」
大きな欠伸をしながら目を開けて、体を起こす。
いつの間にか寝てしまったらしい。
昨日は仕事が終わって帰宅してから、クリアしたゲームのギャラリーモードを見返しながら夕飯を食べていたはずだ。
寝落ちしてしまったのかな?
ぼやけた視界がクリアになっていくと、目の前に知らない部屋が広がる。
ど、どこだ、ここ?
トントン。
ドアがノックされ、こちらからの返答を待たずに開かれる。
「お兄ちゃん、そろそろ起きないと遅刻するよ」
中学生くらいの美少女が入ってくる。
彼女は俺が寝ているベッドに近づいてきて、腰に手を当てながら「はぁ…高校生になったばかりなんだから」と、ため息をこぼす。
俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ彼女のことはもちろん知らないし、俺には妹だけでなく姉や弟もいない。
というか、さっき彼女が「高校生になったばかり」とか言ってなかったか?
俺は三十代半ばの独身男性だぞ。
「き、君は誰?」」
と恐る恐る聞いてみる。
「はぁ!? お兄ちゃん、まだ寝ぼけているの?」
と、呆れられてしまった。
「朝ご飯できているから、早く下りてきてね」
状況が飲み込めない俺をよそに、彼女はそのまま出ていってしまう。
静寂が部屋を包むと、俺は周りを見回し自分の状況を確認することにした。
まず、起きると男子高校生の部屋にいて、俺を兄と呼ぶ妹らしき人物がやってきた。
ここは俺の実家でもなければ、知り合いや友人の家でもない。
赤の他人の家…なのに、どこかで見たことがある。
そういえば、妹と名乗る彼女もどこかで見たような気もする。
ふと、昨日最後に見ていたゲームを思い出す。
…そういえば、あのゲームの主人公の部屋に似ているような…それに、さっき話した女の子が主人公の妹、「笹倉亜美」に似ているような気がする。
もしかして…。
ゾッとする想像をしながら、俺は壁にかけられたものや部屋中を見回して、今の自分の現状を知るための手がかりを探す。
そして、机の引き出しから俺の顔写真が入った生徒手帳を見つける。
そこにはこう書かれていた。
月白学園高等学校 一年生 笹倉和彦。




