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三題噺もどき4

肝試し

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくじゅうさん。

 



 空にある月は、糸のような細さになっている。

 この風にさらわれて今にも掻き消えそうなほどにか細い。

 明日には新月を迎えるから、ほとんどの人間には見えないのだろう。

「……」

 いつもより強い風が吹く。

 耳の横を通り過ぎる風音は、少々乱暴だ。

 生ぬるいものではあるが、勢いがあるからか、気持ち的には涼しげがあっていい。

 それでも暑いことに変わりはない、多少マシだなと思う程度だ。

「……」

 夏用の薄手のシャツが、風にあおられる。

 今日は腕をまくる必要もなさそうだ。

 なんとなく気分で帽子をかぶってきたのだけど、こう風が強いと邪魔なだけだな……今にも飛んでいきそうで気が気でない。

「……」

 頭にかぶったその帽子が飛ばないようにと、つばを持ち少し深めに被りなおす。

 視界は多少狭くなるが、たいした問題はないだろう。

 あの面倒事以降、特段ことが起きているわけでもない。万が一はあるかもしれないが、夏場に何かを仕掛けてくるような奴はいないので、気にしすぎて息抜きが出来ない方が問題だ。この散歩は運動も兼ねているけれど、必要な息抜きの時間なのだ。

「……」

 そうそう。

 今日はいつぶりだろうかという程に久しぶりに、墓場に行こうと足を向けていた。

 住宅街の端の方にあるあまり大きくもない墓場だ。

 夏場この時期には、ああいう場所は色々と集まりやすくなるだろう。

 それをまぁ、お節介かもしれないがはがしたり、ついでにあの少年の様子でも見たりでもしてみようかと。

「……」

 その少年に至っては、いない方がいいのだけど。

 そこにとどまることに、いいことなんてものは1つもないのだ。

 彼が何に執着してあそこに居座っているのかがわからないが……まぁ、子供の考えることなんて私にわかるわけがない。

 居れば、遊んでやるくらいはしてみようかと、その程度だな。

「……」

 そうこうしているうちに、墓場は見えてくる。

 なんだか……人間の気配がするが、気のせいだろうか。

 この時間に、こんな場所にいるのは、幽霊か化物か、頭のおかしな何かくらいだと思っているのだが。

「……」

 すこし警戒しつつ、影に隠れるように移動する。

 まぁそんなことをしなくても、こう暗い夜だと人間ならば何も見えないだろうが。

 死んでいるものではなく、生きている人間の気配なんだよなぁ。

「……、」

 と、そう思いながら墓場を覗く。

 案の定というかなんというか……。ここの墓場は心霊スポットか何かだったのか?

 まぁ、確かに幽霊はいるし、ここらあたりの木は桜が咲くはずなのに年中枯れているし、それに何より墓場だし……そう呼ばれるには充分なほどに不気味な三拍子がそろっているな。そういえば少し道を行ったところには公衆電話もあったか。

「……」

 スマートフォンで先を照らしながら歩いている人間が三人ほど。

 どうしてその恰好をしているのか分からないが、皆がそろって浴衣を着ていた。どこかでまた祭りでもしていたのだろうか……その帰り際に肝試しにでも来たのか?たいして広くもないこんな所に……。

「……」

 しかしまぁ、どうしたものか。

 まさか人間がいるとは思っていなかったからなぁ……夏だから仕方ないし、今はあれくらいの子供たちは夏休みだったりするのか。それなら暇な上に、いつもとは違うことをしたくなるのかもしれないな。

「……ん」

 すこし逡巡していると、いつこちらに気づいたのか。

 眩しそうな顔をした少年が何かを言いたげにこちらを見ていた。

 私は墓場へと入る入り口から少し離れた場所にいるが、彼はあそこから動けないのだろう。

「……」

 すこし脅かしてやるか。

 まぁ、何をするわけでもない。

 肝試しに来たのなら、多少の物音でも逃げていくだろう。それとも影がいいだろうか、何かが見えた方がいいか?

「……」

 こういうことをすると、アイツに怒られるのだけど。

 背に腹は代えられない。この墓場に住む彼らの安寧のためだ。

 こんな所に、来る方が、悪い。





「ああいうのは毎年来るのか?」

「……?」

「あぁそうか、君は今年からだったな」

「……、」

「まぁ、一時はこないだろうよ」

「……!!」

「ん、何して遊ぶ?」











 お題:浴衣・桜・三拍子

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