3分だけお時間を頂けませんか?
「三分だけお時間を頂けませんか?」
橋の下に佇むフードを深く被った怪しげな女性が、散歩中であろう男性に声をかけた。男性は嫌そうな顔をしたが、女性が「興味深い、面白いお話だと思いますよ」と食い下がった。
「何も買わないぞ」
「ええ、構いません。ただ、話のあとにお願いがありますが……どうぞ、断ってくださいな」
女性は自信があるのか口角を上げて言った。
「ありがとうございます。えっと……ではあの話にしましょう。水道の話です」
水道……はご存知ですよね。この町の地下も通っている、ヒトの生活を支える水を提供するものです。これから話すのは、水道管に潜む――怪異と呼ばれるものの話です。
今、帰ろうとしましたね? 疑うのも無理ありません。怪異は普通に生きていたら見ることなんてありませんから。歴史の古いこの国は怪異への対処法が充実していますからね。安倍晴明って、知ってますか? ああ、良かった。一般人の中でも有名なんですね。こちらの世界ではもう本当に有名で……。あ、こちらの世界っていのは……オカルト好き界隈というか、そんな感じです。その安倍晴明よりももっと昔の古代からヒトと怪異は戦い続けていますから歴史は長いのです。
先ほど話した怪異というのは日の当たらない水の中に生息しているのです。現代でそのような場所と言えば……そう、お察しの通り水道管です。あれは地下にありますからね。この怪異はとっても恐ろしいのですよ。怪異がいる水に近づいた途端、こう……にょき、パクッと。いえ、ペロリの方が……? ちょっと! 語彙力がないとか言わないで下さい! 捕食シーンを第三者目線で見たことがないんです!
ごほん。話を戻しましょう。この怪異はわりと正の気に弱く……って帰ろうとしないでください! 簡単に言えば、対処は簡単なんです。水道管はこの怪異が蔓延らないように対策が取られています。これから話すのは、小銭のために命を失ったヒトの話です。
「その男が水道料金を払わずに水を使おうとして、その怪異に食われたってところだろう?」
ええ、その通りです。よくお分かりで。分かりやすくしすぎましたね。反省します。
その愚かな彼は大きな戦争の前のヒトだったのですが、最近はそんなことをするヒトはおらず、その怪異の多くは飢え死にしてしまいました。少しは残っていますよ、もともと川に生息していた個体とか、愚かな彼を食った個体とか……。
「思っていたよりは早く話が終わってしまいました。でもまあ……ちょうど良いくらいでしょうか」
「オチのない話だった」
男性はつまらなさそうに言った。女性は「あなたが展開を言い当てたからです」と拗ねたように返した。
「さて、最後にお願いを一つ。断っても……ええ、断れるのなら、どうぞ?」
かさりと草が擦れる音がした。何かを察した様子の男性が後ろに一歩下がった音だ。
「お腹が空きました」
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