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08.従兄弟の心境(ダレン視点)

子供のころから天使と言われるほど綺麗な顔立ちで使用人からも大変愛されていた従兄弟のゼギオン。

性格は甘ったれで転んだだけでもすぐ泣いてたし、両親から離れられないほど人見知りが激しかった。

だけどそれも初陣を機に変わってしまった。変わらざるを得なかった。

よりにもよってゼギオンの初陣で前当主、ゼギオンの父親が殺されゼギオン自身も殺されかけたからだ。

運よく俺の父親が助けてなんとか押し返したがあいつの心に酷いトラウマを残した。

それからは自分を殺し、ひたすら敵国を憎み、蹂躙し続けてきた。

幼いころに受けたトラウマ、悲しみ、当主としての責任などのストレスによって青かった髪の毛は白く変わり、笑うことすらしなくなった。

綺麗な顔で笑うことなくただひたすらに殺戮を続けるあいつを恐れ、可愛がっていた使用人も、仲間達でさえも離れて行く者がいた。

それだけじゃない。敵に寝返った裏切り者も少なくない。

常に気を張り、前線に立ち敵軍を殺戮し続けるゼギオンは人間なのに人間じゃないと感じたことも多々あった。

さらに領地を支え、唯一の肉親である前辺境伯夫人も敵軍が放った感染力が強い病気で失った。

王国で噂されるより、さらに苛烈になり誰も寄せ付けない氷より冷たい存在になってしまった。なかには人形と揶揄する者もいた。

いくら敵を殺してもあいつの心は幼少期のまま。勝利を持ち帰っても両親は還らない。

それがどれだけ寂しく、辛いか俺には理解できない。

だから他の仲間が離れ、怖がって近づかない中俺だけはあいつの傍にいると誓った。


「お前さ、いつもの冷静さどこに置いてきた?」

「うるさい…俺だってあんなこと言うつもりなかった…」


だと言うのに一目惚れしたであろうお姫さんを前にするとそれが崩れ落ちる。

年相応にしては遅すぎる思春期のような典型的な照れ隠しを披露したゼギオンに、帰り道の馬車で問いただすとあからさまに肩を落として頭を抱える。

初恋した相手に婚約者がいた。

それだけで相当ショックなのは解る。理解できる。俺だってきっとショックで寝込んでる。

でもそれが何故憎しみを生む?

かと思えばお姫さんの一挙手一投足に翻弄され、言いたいことも言えずきつい言葉で返す

幸いお姫さんは気にしておらず、ゼギオンの発言をポジティブに捉えたうえ大きな愛情で逆にゼギオンを黙らせる。

たぶらかされた!と恨みを言うも、たまに無意識で出たであろう「可愛い」という言葉、俺は聞こえてるからな。面白いから指摘しないが。

ただ初めての感情のせいで今まで見たことない姿を見せられ、俺自身も正直戸惑っている。

彼女を見る目は明らかに愛情が宿っているのに、ふとした瞬間敵を見るような目で睨み、そのあと泣きそうな顔になる。

ほんと、どんな情緒してんだよ…。


「まぁとりあえず結婚できそうでよかったな、ゼゼ」

「お前がその愛称を使うな殺すぞ」


うん、やっぱり好きなのは好きなんだな。

綺麗な顔で悪魔のような殺気と表情で睨まれるといくら長年一緒にいると言え、さすがに怖い。

からかったつもりが嫉妬丸出しのゼギオンに睨まれ大人しく口を閉ざす。


「ただ相手はまだ成人してないし、当分の間は離れ離れになるなー」


この国の成人は十八からだ。お姫さんは十五。結婚も十八にならないと王家から承認を得られない。

その間お姫さんは実家で花嫁修業なり、公爵夫人としての教育を受けるようになっている。


「……は?」

「いや、色々準備もあるしまだ子供じゃん」

「…」

「……もしかしてこのまま連れて帰れると思ったのか!?」

「連れて帰らないと誘拐されるかもしれないだろ!?」

「されねぇよ! むしろ戦後処理も残ってるこっちに来たほうが危ねぇわ!」


本当に本当に変わってしまった。

アドルフォ領は王国内でも随一安全な場所だ。領民にも愛され、政敵もいない。

だからまだ荒れてるうちに来るよりここで色々準備してもらって、成人したらこっちに来るのがいいって誰でも解る。

それなのにゼギオンは顔を真っ青にしてさらに頭を抱えて何かブツブツ呟いている。


「俺らだって準備があるだろ。たった三年じゃないか」

「三年も待てと!?」

「待てよ、三年ぐらい」

「………いや、そうだな…。とりあえず監禁する場所も作らないとだし、結婚式だって時間がかかる…。仕事も山積みだからさっさと終わらせて…。ああそうだ、新しく人も雇ってやらないと…。いや細かい話は彼女と話し合って決めないと…」


…………ん? あれ、なに? 監禁って聞こえた?


「監禁ってなんだ」

「俺以外の男をたぶらかさないようにするには監禁が一番だろ?」

「……っはぁあぁぁ…!」


元婚約者はお姫さんを男をたぶらかすと言って責めていた。それが原因で婚約破棄にもなった。

まだよく知らないけどそんな風には見えない。というか子供相手にたぶらかされるほうがどうかしてる。…そうなるとうちの当主様もそうだな。

笑顔が可愛い。所作も完璧。身分もいい。そんな彼女に微笑まれたら勘違いするものかなぁ…。

貴族社会なんてお世辞ばかりだし、二枚舌もよくある。だから適当に流すもんだと思ってたんだけど…。

好意的な態度とその笑顔で絆されることはあっても、そういった感情は生まれない。常識ある大人ならそうだ。って言ったらゼギオンが常識ない大人って言ってるようなもんだよなぁ…!


「ゼギオン。公爵夫人を監禁するな」

「いやでもっ」

「でもじゃねぇ。嫌われたいのか?」


アドルフォ家の怒りを買うのも勘弁願いたい。

何か言う前に「ダメ」「許さない」「許可しない」と言い続ければ最後には納得いってない顔で「解った」と言わせた。

うん、こいつはダメだ。お姫さんの前だと知能が低下してバカになる。俺がなんとかしないと…!

せっかく英雄になったんだ。できるならこの栄光を使えるうちに使って領地を繁栄させたい。その為にもこいつの動きに気を付けなければ…!


「城のことは俺に任せろ。それよりお前はお姫さんと親睦を深めてこい!」

「し、親睦!? また会えるのか!?」

「婚約者なんだしいいだろ。それに王都の滞在期間短いし」

「……連れて「帰っちゃダメだ。まだダメ。だから滞在中はできるだけ会って親睦を深めろ!」


突拍子のないことを言うが、できればこのまま問題なく結婚してほしい。

弟のような存在だし、今までのことを考えればあとは幸せな日々を送って心を癒してほしい。

何よりあのお姫さんじゃないともう二度と結婚できなさそうで…! それだと代々続いてきたゼスト家も断絶…そればかりはマジでガチでやばい!


「…ダレン、親睦を深めるって何をしたらいいんだ…」

「そんなの簡単だろ。とりあえず会って話せよ。お姫さんが好きなもの教えてもらったり…。ああ、あと婚約指輪を一緒に選んだり、向こうに行ったら何がしたいとか」

「なるほど…。ダレンもいつなら行ける?」

「……っんで婚約者同士のデートに俺もいるんだよっ…!」

「い、いないのか!? 二人っきりで会ったら襲ってしまうぞ!?」

「襲うなクズ! アホか!」

「いやでもまだ無理だ…! 俺一人だとあの悪女にたぶらかされ、いいように使われてしまう…。そんな俺を見て心の中で嘲笑うに違いない!」


どういうことかゼギオンの中では悪女らしい。子供相手になに言ってんのか理解できない。

女性だけじゃなく、人と接する機会なんてなかったからコミュニケーションが苦手なのは知ってる。

下手に信用して裏切られたときの心の痛さは俺には耐えらない。

だから常に疑って、観察して、できるだけ関わらないようにして…。そのせいで純粋な好意を受け取ることができない可哀想な奴。

そこには同情するけど、子供…しかも女の子相手にそこまで警戒しなくていいのに、さらに初恋という初めての感情が生まれたせいでゼギオンの頭をパンクさせている。

普段はゼスト公爵らしく頼りになるのにお姫さんを目の前にしたゼギオンは昔の甘ったれて人見知りな頃に戻ったようで少しだけ微笑ましい。


「…逆に考えれば監禁できる理由になる…?」


前言撤回。

大人になったぶん、余計な知恵がついて可愛くなくなった。

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