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07.ツンデレが止まらない

「あの時は本当にありがとうございました! ゼギオン様が割って入らなければ立ち直れないところでした」


中庭を案内され、当たり障りのない会話をしながら花に囲まれたガゼボで再びティータイム。

見たことのない茶菓子が並び、彼女自ら紅茶を淹れる。

流れるような手つきに感心しつつ一口飲むと、今まで飲んだ紅茶の中で断トツに美味しかった。


「べ、別に感謝されるようなことじゃない…。あんな大勢の前で失礼なことを言うあの男が気に食わなかっただけで助けたつもりもない」


夜ではなく昼間に会う彼女も可愛かった。

歩く姿も、喋る姿も、座るときでさえ可愛らしく、一つ一つの動きに目を奪われるほどだ。

あんな男で傷ついた姿を見たかったのに、悲しんでる姿を見せない彼女が健気に見えてまた魅了される…!

こいつは悪女だ。

そう何度も思うのに喋るたび、笑いかけるたび当初の目的を忘れそうになってしまう。

元気そうでよかった。あんな奴でお前が泣く必要なんてない。

そう言いたいのをグッと堪え、自然と出た言葉にダレンが足を踏みつけてくる。


「それでも私は救われました。ゼギオン様はやはりとてもお優しい方なんですね!」


嫌な言い方をしてしまったと言うのに、彼女は変わらず笑顔のままでお茶を飲む。

お茶を飲む姿すら可愛いとかどうなってるんだ…! それと! 婚約破棄されたのに何でそんなご機嫌なんだ! 相手に気があるような言葉まではきやがって…! 俺はもうお前の本性を知ってるんだからな! 騙されてたまるか! 俺がお前に惚れてるなんて勘違いしてるのか? 違うっ、お前が俺に惚れるんだ!


「っあ…い、いいか! 先に言っておくがお前がアドルフォ伯爵の人間で他の女に比べたらマシだったから婚約者にしただけだ…! お前もあのままだと嫁の貰い手など見つからなかっただろ。いくら媚びようが俺がお前に惚れることなんてないからな、勘違いするなよ!」


………っ違う…! いや、あってるけど婚約破棄されたばかりの子供相手に言う言葉じゃない…ッ!

本当はもっと別の言い方で言うつもりだったのに、あの目で見られると頭が真っ白になってしまう。

さらに強く足を踏まれたが、それ以上に心が痛む。

な、泣くだろうか…。これから結婚するって言うのにその相手から愛さないと言われたようなものだし泣くよな…。いやもしかしたら婚約破棄される…?


「英雄とも言われるゼギオン様に我が家を信用して頂けるなんて光栄です! ご安心ください、ゼギオン様。私、裏切りがこの世でもっとも嫌いなんです。生涯、王家とゼギオン様に忠誠を誓うことをお約束いたしますわ!」

「あ、いや…」

「それにゼギオン様が言う通り、ウィルド様に婚約破棄されたので嫁ぎ先をどうするか本当に困っていました。こんな未熟な私ですがゼギオン様に娶ってもらえて本当に嬉しいです。感謝しております!」

「めとっ…!? はぁ!?」(本音:もう娶られた気でいるのか、嬉しすぎる…!)

「もちろん私はゼギオン様に忠誠と愛情を捧げますが、ゼギオン様は私を救ってくれたお方です。無理に愛してほしいとは言いません。私はまだ子供ですし魅了できるような容姿でもありませんしね」

「誰もそんなこと言ってないだろ!」(本音:そんなことない。十分魅力的で一刻も早く領地へ連れて帰りたい)

「で、でもできれば愛人を持つ際は一言教えて頂けると嬉しいです…。その、心の準備がありますので…」

「愛人!? あ、愛人を持つつもりはない! お前だけで十分だ!」(本音:悲しそうな顔すら可愛いとか意味わからん…! お前だけで十分すぎる)

「ほ、本当ですか…!? でしたら私もゼギオン様を支えられるよう一生懸命頑張りますね! ああ本当にゼギオン様の婚約者になれて嬉しいです、幸せです。今度こそ呆れられないようゼギオン様だけを見つめますね!」

「お、お、俺だけを見つめてる場合じゃないだろう!? これからお前には公爵夫人としての教育がまってるんだぞ。それに辺境…いや公爵領はここより広いし荒れているから仕事は山ほどある!」(本音:ずっと見つめるとか俺を殺したいのか!? それと無駄に爵位があがったせいで仕事が増えると思うが俺がやるからゆっくり過ごしてくれ!)

「はいっ、頑張ります!」


ひたすらにいい子すぎる…!

騙されまいと耐えても、キラキラした顔でまさしく犬のように尻尾を振って見つめられるとどうあがいても絆されそうになってしまう…。

精神力だけは誰にも負けない自信があったのに彼女を前にすればいともたやすく崩れてしまう。


「話に割って入ってすみません」


何を言っても勝てる気がしない。

もっとこう…悲壮感漂う姿で……。いや無邪気な姿も可愛いけど!


「お姫さんは婚約破棄されたって言うのに元気だけど、本当にあの王子を慕っていたの?」


俺も人のこと言えないが、ダレンもなかなかに口が悪い。おまけに言い方もきつい。

だがそれは俺も気になっていた。

婚約破棄されたときは泣いて震えていたのに、たった一週間でここまで元気になるものか?

他の女はどうか知らないが一般的にはこんな元気に笑えない。

もし慕っていたという彼女の言葉に嘘があるなら、補佐官であるダレンは許さない。


「……いえ、本当にお慕いしておりました」


まだ十五歳だと言うのにスッと落ち着いた態度に変わり、少しだけ俯く。


「恋や愛かと聞かれれば「わからない」とお答えできますが、それでもウィルド様の優しさと愛情に幸せを感じておりました」

「それにしては切り替え早いね」

「もうどうにもならないと知っていたからです」

「どういうこと?」

「ウィルド様には他に好きな令嬢がいたそうです。そのお方は私より年上ですが女性としてとても魅力的で包容力があって私なんかと違って一途に彼を愛してる。らしいです」

「―――は…?」

「へー…それは知らなかった。浮気されてたんだ」

「いえっ、浮気と言うより一方的に想っていたそうです。できるだけウィルド様の好みに近づけようと頑張ったのですが…ダメでした。幼い頃から一緒にいる分、妹としか見れないとも言われてしまって…。あの日、両親と陛下とで婚約に関する話し合いをするつもりだったのです」

「そしたら勢い余って婚約破棄を宣言したんだ」

「はい」


やっぱりあの王子はバカ王子だな! どう考えても、どう見ても彼女は魅力的じゃないかっ!

彼女が生きて、呼吸して、自分を見てくれるだけで十分なのに贅沢なことを考えやがって…。


「いつか婚約破棄されるだろうと覚悟は決めておりましたが、いきなりだったので驚いてしまって…。できればたぶらかすなんて誤解も解きたくて…色々混乱してうまく喋れませんでした」

「あー、まー…そうだね。さすがにビックリするよね」

「あのあとは家に帰ってからたくさん泣いて、お兄様達にたくさん慰められて、両親に甘えて美味しいもの食べて気持ちを落ち着かせました。そしたらお父様からゼギオン様が本当に求婚状を送ってきたと聞いて私本当に本当に驚いて! あのときのゼギオン様はとても格好よかったです!」

「グッ…!!」

「おい、吐血するなよ」

「優しくて、格好よくて強いなんて理想の旦那様です! 大好きです、ゼギオン様!」

「…ッうるっさい!! お前みたいな小娘に言われたって嬉しくもなんともねぇんだよ! 二度と格好いいとか大好きとか愛してるとかって言うな!」(本音:そんな可愛い顔と嬉しそうな声でそんなこと言わないでほしい…! 供給過多で死んでしまう!)

「ではどのように愛情表現をしたらいいのでしょう?」

「あいっ…!? あいじょうひょうげん…?」

「はい。夫婦となれば愛情表現は自分が思っている以上にするべきだとお母様に言われました。それが夫婦円満の秘訣だと!」

「そ、それはここでの話だろう!? 公爵領では必要ない行為だ! お前に抱き着かれたって……少しも…少し……少しは…嬉しい…いやいや少しだけならいいが、夫婦であってもベタベタする必要なんてない!」(本音:婚約者になれただけでも十分すぎるぐらい心臓も頭痛いのにこれ以上俺をどうしたいんだ、勘弁してくれ! でも夫人の言うことはその通りだと思う!)

「解りました…。ではそのように…」

「っなんですぐそうやって諦めるんだッ!」(本音:なんですぐそうやって諦めるんだッ!)

「ぶはっ!」

「いくらだだだ旦那に言われたからってすぐ諦めるんじゃなく、それでも貫き通す覚悟がないと公爵領でやっていけない! 所詮お前の覚悟はそんなものなのか! だ、旦那だけに従順なお、お、奥さん…なんていらないんだよ!」

「あーあーめちゃくちゃだもう」

「……なるほど、ゼギオン様は私を試したのですね! そうとも気が付かず私は…。解りました、これからは私が思うようにしっかり愛情表現をして私が理想とする夫婦円満な生活を目指しますっ。もし本当に不快になれば都度おっしゃってもらえると嬉しいです」

「ふんっ。お前如きの愛情表現など大人の俺からしたらままごとに等しいわ」

「わー…。私、一生懸命頑張りますねゼゼ様!」

「ゼッ…!?」

「ゼギオン様の愛称です。私のことはリノでもレアでもお好きにお呼びください!」

「か、勝手に新しい愛称を作るなァ!」

「尻に敷かれる毎日になりそー…」

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